第7話『脱走中、しかし観光もしたい』
真っ暗な牢屋である。まぁ目が慣れたのかある程度は見えるから問題ないけど。
正直こんな不衛生な場所には金輪際入りたくない、今まで考えない様にしてきたけどこの牢屋変な虫とかいんだよ。
『マスター。視界に不備はないですか?』
「あ?何を藪から棒に」
『私とマスターは視界を共有しています。故にマスターが許可をすれば暗視程度なら可能になりますが、如何でしょうか?』
「お願いしますプレアさん」
暗視ってあれだよな、真っ暗でも昼みたいに見えるとかってスキルだよな。
いつの間にそんな便利なスキルを我が愛車が?まぁ世界を越えた時だわな。
『さっさん付けは結構です、では視界のシンクロ率を上げます』
何故か一瞬キョドッたプレアだ、そして言葉を言い終わるとその変化はハッキリと分かった。
見える。本当に周りがハッキリと見えるぞおい。
これが暗視スキルってヤツか?スキルってどれもこれもチートだな、便利過ぎて人を駄目にしそうである。
「おお、本当に真昼見たいに見えるな、ありがとうプレア。助かる」
『どういたしまして。それとマスターこれをどうぞ……』
すると俺の左手には何故か傘が握られていた。
かさ?何で?。
「プレア、何でいきなり傘が?」
って言うかこの青い傘、俺がいつも軽自動車にのせてた傘じゃん。
……………っあ。
「まさか。この傘も?」
『そうです、その傘も元はマスターが買った普通の傘でしたが。共に世界を越えた事によってあるスキルを得ました。確認してみてください』
「……わかった」
傘のスキルとやらを見せてくれと念じる。
【インビジブルアンブレラ】
【保有スキル】
【認識無効】
【インビジブルアンブレラの所有者が許可を与えた対象以外から全ての音、気配、存在を認識する事は出来なくなる、尚効果の発動には傘を広げる必要がある】
これ、凄くね?。
つまりこの傘を広げれば俺は誰にもバレずに行動出来るって事だ。
「………女ゆっじゃない!こいつは凄いなプレア。もう脱走は成功間違いなしじゃねぇか?」
(………女ゆ?)
『…………はい、恐らくその傘のスキルなら可能かと』
俺は傘を開く。
半透明の膜のような物が傘の下の俺を包み込んだ、恐らくこれで俺は誰に声をかけても気づかれず隣に立っても認識されない筈だ。
しかし異世界に来てから俺の私物がどれもこれもチートアイテム化してるよな。
「よしっプレア。俺達が脱走するならまずはユーレシアを助けてからだと思うんだが、どう思う?」
『………私はあの女なら1人でも勝手に脱走するかと思いますよ?』
プレアの謎メイドへの当たりが強いなぁ。
『しかしどうしても助けるのなら私の思念伝達であの女に話をしておきましょうか?』
「…たったのむ、その方が色々都合がいいからさ」
声だけでも渋々って気配がありありなプレアだ、取り敢えず脱走に向けて歩き出すか。
◇◇◇
上に上がる階段、そこには鉄格子があり鍵を開けてなければならない。
まぁそれは問題ないのでナイフを鍵に変えてチヤッチャッと開けて階段を上がる。
そして階段を上がると六畳程の小部屋に出た。
そこには俺を牢屋にぶち込んでくれた強面の兵士と少し小柄な兵士が小部屋にそれぞれ用意された机に頬杖をついたり背のある椅子にもたれ掛かったりとくつろいでいる。正直ムカつく。
一応兵士は腰に剣を装備してる、いいなぁ俺も剣とか欲しい。中年剣士サラリーマンかぁいいね。
俺達が上がってきた階段の通路以外の通路はそのいけすかない兵士達が左右に陣取った所にある更に上に続く階段の通路だけである。
俺は無言でそのまま通り過ぎようとした時である。
強面の兵士が隣の兵士に話し掛けた。
「なぁっあの侵入者、本当にこのまま死ぬまで放置するのか?」
……は?死ぬまで放置?。
「ああっ俺達は三時間毎にあの男が生きてるか確認しろとしか言われてないだろ?普通なら食事とかを持って行くがそれも何の用意もないだろ?」
確かにこのブタ小屋に入れられてから一度たりとも食べ物を持ってこられる事はなかった。
えっマジで?俺、ここで脱走しなかったら餓死させられる所だったの?。
「確かにな。上は城に賊が侵入した事自体をなかった事にしたいわけだ」
「そう言う事だな、俺もあの現場にいたから知ってるが、あのやたら美人なメイドは奴隷堕ちって所じゃないか?どっかの貴族に売られるんじゃね?」
「ああっあのメイドは綺麗だった」
「野郎の方はおっさんだったな、顔がやたら平たいし」
マジかよ、ユーレシアは奴隷になっちまうのか?ピンチじゃん。
………いやっあの余裕綽々な態度の謎メイドの事だ。そんな目に会うってイメージが浮かばんし多分大丈夫だろう。後顔が平たくておっさんで悪かったな。
パンッ。
「イテッ!……ん?何だ?」
「どうした?ゲイル?」
「いっいや?何か頭をはたかれた様な、何だったんだ?」
「はたかれた?誰もいないのにか?」
おおーっスゴッ!このインビジブルアンブレラの能力のお陰か?少し強めにはたいたのに俺の存在がバレなかった。
これが認識無効のスキルって事か、単に姿が見えないとかじゃない。
認識が出来ないってのは恐らく頭の中に敵がいるかもって言う考えが浮かばなくなってるんだ。
つまりどれだけ攻撃されようが、或いは殺されようが俺と言うか敵がいるって事を理解出来ずに死んでいく事になる。
認識が一切出来ないって事はそれだけチートって事だ。
おっかねぇなオイッ!。
『……………マスター?』
………プレアの声に、押さえきれない怒気をはらんでいる!。
「なっ何だ?どうかしたのか?」
『どうかしたのかではありません。いきなり手を出すとか、万が一でも傘のスキルが攻撃したら解除される類いのスキルだったらどうするつもりだったんですか?あの兵士二人がこの狭い部屋でメチャクチャに武器を振り回したりしたら、下手をしたら命の危険もあるんですよ?』
「……わっ悪かった、謝るよ、ゴメン」
『………ふうっ分かればいいんです』
確かにこの部屋は狭い、見えない敵に兵士が適当に武器を振り回してきたら認識されないだけで実体は普通にある俺だと一撃喰らうだけで死にかねない。
別に本当に
俺はペコペコと声しかしない相手に平謝りしながら同所を後にした。
そして更に階段を上る、数分程上に上ると出口が見えてきた。
出るとそこはなんと言うか、かなり豪華絢爛な渡り廊下であった。
前の世界の建築様式とかろくに知らないからどんな感じなのかを言葉にするのは難しい。
床はピカピカの艶のある大理石見たいで壁は白レンガを積んだ感じ、天井には小ぶりなシャンデリアみたいなのが等間隔で並んでいる。
ゲームとか好きな三十路的にはまさにファンタジーのお城としか言えない。
しかしこれだけ内装も立派なお城なのに兵士の類いが殆ど伺えないのはなぜだ?。
「……巡回する兵士とかいないのか?」
『………あの女』
ん?プレアさん?今ボソッてかなり暗い声で呟いたのは何?。
「プレア、どうしたんだ?ユーレシアに何かあったのか?」
『いいえっマスターが脱走する事を伝えてそちらも早く牢屋から出る様にと思念伝達で伝えたのですが……』
「ですが?」
何よ?。
『……私が上手い具合に処理するから、相棒は好きな様に遊んでいるといいっと言っていました。脱走すると言ってるのに言葉が通じてません、置いて行きますかマスター?』
「………………」
ああっ成る程ね。
何となくだけど、一つあの謎メイドについて分かったわ。
「あの謎メイド。本当に俺の性格ってか思考回路を理解してるのかもな」
『………はい?』
「プレア、俺はな、やられたままってのが大嫌い何だよ……」
社畜の時から散々堪えてきて、一つ分かった事がある。
こちらがいくら我慢しても我慢させてる方はこちらを省みる事はない、それどころか当たり前の様に更にこちらに負担を強いてくるだけなんだよ。
……故に思い知らせてやらなければならないんだ、社畜も人間なんだと、怒る事もキレる事もあるんだと。
だから俺はあの日辞表と共に熱々缶コーヒーを糞上司にぶっかけてやろうとしたのだ、会社のブラック具合をネットに流出しようしたのだ。
あっ田中君ちゃんとネットやら動画サイトにあの映像を上げてくれてるかな。
……とにもかくにも、俺はやられたら、必ずそれ以上でやり返す。
何倍返しとかは言わないけどな。
それでもキッチリ落とし前はつける。
「……よしっ脱走は後回しだ。せっかくだしこの城を観光でもしょう」
『…………ハァッ!?』
「まぁっ観光つってもあれだけどな……」
ちょっとお城の中を見て回って、ちょっと入っちゃダメな所(お宝が保管してある所とか)にもお邪魔したりして生活資金の足しになりそうな物を拝借するだけである。
……返す予定は未定だがな。
『………あの、それは泥ぼ』
違います。人様を餓死させようとした慰謝料を貰うだけです。
向こうが裁判も弁護士もなしってんなら、こちらも同じ様にさせていただくだけの話だ。
「行くぞ」
『…………………はぁ~、分かりましたよ』
レッツ観光である。
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