第6話『獄中生活(2)』
俺は念じるだけで手元に現れたナイフをマジマジと見つめる。
持ち手は瑠璃色の艶のある謎物質、刃の部分は青い謎金属で作られていた。
材質は全て謎だが一つ言える事は、このナイフは一見すると美術品の様に美しいって事だけだ。
「……さてっこのナイフで何が出来るかって話だが、ぶっちゃけこれに特殊な能力ってあるのか?」
『それは私には分かりません、しかしマスターならあるいは……』
「は?俺にどうしろって………!」
言っていて一つ、ひらめいた事がある。
ラノベとかなら『鑑定』とかって言うがスキルがあって一目見るだけでアイテムの効果や使用方法がゲーム見たいに分かるってスキルが出てくる話があったな。
プレアは今の俺に鉄格子を破る力はないって言ってたし、なら俺自身のレベルアップによる恩恵は戦闘方面以外の所に発揮される可能性が高い。
ただの賭けでしかないが、別に命を賭ける訳でもないし、試してみるか。
俺はナイフをガン見しながらナイフを呼んだ時みたいに念じてみる。
ナイフよ、スキルとかあったら教えて。
何が出来るのか教えて。
売ったらどれくらいになるか教えて。
牢屋から脱走出来る能力カモン。
もうこの鉄格子ぶった切ってもいいよ。
「……………!?」
するとナイフの手前に宙に文字が浮かんだ。
【インフィニティナイフ】
【保有スキル】
【形状自在】
【異次元収納】
【破壊不可能】
【販売不可能】
「……おいっマジで何か見えたぞ」
「私の視界はマスターと共有しているので私にもその宙に浮かんだ文字は確認出来ます。恐らくマスターの能力は物体や人物のスキルの可視化ではないですか?』
………今さらっと俺と視界を共有してるとか気になる事を言ってたが今は無視だ。
俺自身の能力もこの際後回しでいい、それよりもこのナイフ、スキルを四個も持ってるぞ。
これは凄いのか?よう分からん。
取り敢えずスキルの説明をたのんますと念じる。
【形状自在】
【インフィニティナイフの刃と持ち手の形や大きさ、そしてその形状まで所有者の意思で自由に変えられます。食べ物や飲み物以外ならほぼどんな物にでも変える事が出来る】
【異次元収納】
【インフィニティナイフは所有者が呼び出さなければ世界とは別の異空間に勝手に転移します。故に所有者以外が手にする事は出来ません】
【破壊不可能】
【このインフィニティナイフは破壊されません】
【販売不可能】
【……………………………売んな】
「おおーーっ!壊れないし形状を自由変えられるナイフかぁ!正にチー……あれっ?何か最後のスキルの欄、えらく怒気を含んだ様に感じるぞ?」
俺がいざとなったときの為に販売価格を聞こうとしたからナイフが不貞腐れた?……まさかな。
俺が変な妄想に頭を悩ませているとプレアが話し出した。
『そのインフィニティナイフと言う名のナイフの能力では脱走は無理ですか?』
「……え?何でそう思うんだ?」
『流石にナイフの刃を伸ばしたり縮めたりする能力ではこの鉄格子をどうにか出来るとは思えません』
ああっ成る程、確かに刃の形状を自由に出来ると考えるとそうだよな。
「いやっ正直脱走するだけならこのナイフの性能は最高にマッチしてるぜ?」
『…………え?』
俺はおもむろに牢屋の入り口に近づく。
こういう時に見張り1人居ないのは助かるよな、無用心だと思うぜ。
『………そのナイフでどうすると言うのですか?』
「ん?こうするんだよ……」
俺がナイフを持っていた方の手を見せる。
そこにはナイフではなく一本の鍵があった。
『!?……そっそれは』
「形状自在って書いてたろ?これは元の形がナイフってだけで恐らく大抵の道具にでもなれるマジでチートなアイテムだったんだよ」
十徳ナイフってあるけど、これは正に
俺がこの牢屋を開けられる鍵にその形状を変えてくれって念じるだけで……。
ガチャっと音がした、扉を押す。
よしっ開いてるな。
「この通り、完璧な合鍵に変わってくれるって訳だ」
『……まさか形を変えるっと言う説明だけでそこまで考えが及ぶとは、流石です。マスター』
流石ってこんなので誉められてもなぁ、ただのリップサービスだろ?。
俺は扉を閉めて鍵を掛けなおしてその姿をナイフの戻す。
『?、マスター脱走しないんですか?』
「いくらなんでもまだ日が高いだろう?」
『………確かにその通りですね』
「それに城の兵士もバカじゃないだろうし、一定の感覚でも見張りには来ると思うんだ、脱走するなら深夜、そして見張り来るまで少しでも余裕のあるタイミングがいい、もぬけの殻だと直ぐにバレるからな」
『…………はいっマスターの意見が正しいかと』
……………いやいやっかと~じゃねぇから。
「プレア、今の冗談だから。深夜辺りに出るのは本当だけどここをもぬけの殻にはしないからな?」
『…………はい?』
「まぁものは試して見ないとな」
俺の考えがあってるなら、イケる筈だ。
ナイフに形を変える様に念じる。
すると今度はナイフの刃から無数の細い糸の様な物が目の前でヒョロヒョロとしだした。
プレアも不審げな声をあげる。
『マスター………これは?』
「まぁ見てな」
その無数の糸状の何かはやがて何か形づくる様に動く、やがてそれは俺と同じくらいの人型となり……。
『ッ!?………マスター。これは』
「ああっ成功だな!」
そこには俺と瓜二つの人間が立っていた。
黒髪黒目、くたびれたリーマンスーツの上下に革靴。会社出勤時に異世界転移した俺のデフォルト装備一式だ。
冴えない醤油風味の三十路野郎の顔面まで、その再現度には驚きと興奮と……少し心にダメージを受ける事になった。
『まさか、いくら形を自在に変えられると言ってもこれは……』
「まぁ鉄腕なゴーレムで背丈だけでも俺にクリソツなのをイメージしてたんだが、こいつは想像以上だな、服装から肌の色から完璧じゃないか」
しかもナイフは手元に残っての俺にクリソツゴーレム(本当にゴーレムかは知らんけど)を召喚しているお陰で脱出してもこのナイフの力を借りられそうだ。
ってか食べ物や飲み物以外なら何でもイケるって書いてあったし、ファンタジーな世界ならゴーレムの一つもあるだろうって勘だけでした行動が大成功した訳だ。
『…………本当に……恐れ入りました』
「ん?何か言ったか?」
『いえっ何でもありません、その発想力に感嘆していました』
「感嘆って、大袈裟だなプレア、単に俺は自在って言葉がどれ程のもんかを試してみただけだぜ?上手く言ったのは偶々だって」
取り敢えずこの俺のそっくりさんには藁をかぶって寝たフリをしてもらう。
そうすればまず偽物だとは分かるまい、ちなみにそっくりさんは喋れはしないみたいだ。そしてナイフ戻れっと念じると一瞬で消えた。
後には何も残らなかった。
もしかしたらナイフがもう一本に増えたりしないかなって考えてたけど甘かったな。
「よしっ後は夜遅くになったら俺のそっくりさんを出してから鍵で脱走する、まず見破れないと思うから脱走がバレるまでの時間は稼げる筈だ。それとこの牢屋の天井の室内灯だけど消灯時間とかで夜には消されると思うから動くならそれからだ」
『分かりました。もしも消灯時間が無い時に備えて外の正確な時間は私が把握しておきます』
「そんな事まで出来るのか?」
『はいっ私の視界は外にも飛ばせます』
視界を飛ばすって何だよ。
しかしその言葉が本当なら頼もしいな。
そして数時間後。
消灯時間が来たのか明かりが消えた。
更に二時間程待つ。
『マスター、時刻は深夜二時間。脱走するのならベストなタイミングかと…』
「よしっ頃合いだな」
俺は再び牢屋の鍵を開けた。
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