第5話『獄中生活』

我が愛車がお城に向かって激突した。


本来なら此方の車が大破、中の俺達は即死が当たり前の事件である。


しかし我が愛車の黒の軽自動車はレベルが上がったからなのか知らないが、レンガ積みされたいかにも頑丈そうな城壁をブチ破り、俺達は城内へとなだれ込んだ。


周囲は土煙がモクモク。

視界の確保もおぼつかないままな俺達だ。

死ぬかと思った。けど生きてる。生きてるぞ!。


「おっおいユーレシア!無事か!?」

「……ふうっああっ私は大丈夫だ。相棒こそ無事か?怪我はないか?」


となりの謎メイドを見る、怪我の類いは伺えないし血もでてない。多分だが本人も言うように平気だろう。


「そうかっ無事ならよかった………んで、これは。ぶっちゃけどうする?」

「どうするも何も、このポンコツカーを見捨てて後ろの大穴から逃げるしかないだろ?」


後ろの大穴から逃げる?この謎メイドは空でも飛べるって言うのか?。

いやっ軽自動車が空を飛べる世界だ、この謎メイドが空を飛べてもなんら不思議じゃない。


『………………………この女』


ん、今ボソッと我が愛車が喋った様な、気のせいか?。

しかし謎メイドの言葉は分かるけど、愛車を見捨てるのはなぁ、空を飛べる車を失うとか惜しすぎる。


そもそも前の世界から一緒に来ることになった我が愛車をそんな軽く扱うのも忍びない。

何とかお城の人間と話をつけて穏便に済ませられないか?。


「………ちなみに、今回のお城に特攻事件ってこの異世界的にどんな感じの罪になるのか知ってる?」

「フフッ城に特攻かぁ……死刑じゃないか?何分こんな真似をしでかしたヤツは、私すら知らないからな」


………だよなぁーー。よしっここは全力で我が愛車と共に脱出するしかない。

砂埃すなぼこりが晴れてきたので分かるのだがこの城の廊下の幅、結構広くて軽自動車位なら普通に走れ………。


ガシャガシャと五月蝿い足音が聞こえた。

音がした方を見るとおうっいるわいるわ重装備で武装した兵士だか騎士だかがわんさかと。


そしてそんな連中が油断なく槍やら剣やらを構えている。


「………………」

「………………」


完全に方位されていた。恐らく煙がモクモクのうちに陣形は組まれていたのかもしれない。

それに気づいた時は全てが手遅れって寸法よ。


そんな重装備連中の一部が道を開ける様に動いた。すると1人、他とは明らかにデザインが違う黄金の甲冑を身に纏った騎士が歩いて来た。


「まさかこのグラード城に賊が侵入するとはな」


喧騒が広がる場に凜とした声が響く。

どうやらあの金ぴか騎士、女性の様だ。


「……弁明とかして意味あるか?」

「口を開いた瞬間、首が飛ばされる覚悟があるならご自由にってところだ」


謎メイドの言葉に俺は抵抗を諦めた。


◇◇◇


ガシャんって音がした、続いてガチャって音がする。

牢屋に入れられた俺、そして牢屋が閉められて鍵をかけられたのだ。


俺をここにブチ込んでくれた強面の兵士は何も言わずにどっかに行った、恐らくだが城の牢屋なので地下とかにある施設だと思われる。

だってかなりの数の階段を降りたもの、登りだったらしんどすぎで倒れてた自信があるな。


牢屋は正にロープレで見るような床も壁も天井も石造りで鉄格子だけは金属だ。しかし天井に嵌め込まれた球体型の光源の光は大したもので本来真っ暗な筈のこの牢屋内部を明るく照らしている。


牢屋の中にあるのは藁のベッド(藁が薄くひいてあるだけ)とツボ(恐らく中の汚くて臭い水で顔を洗えって事だ)そして懐かしきポットん便所(同じ部屋にトイレが併設されていたぞ)と言う、まあっ簡単に言うと地獄である。


「……はぁっ異世界に来て初日からブタ小屋かよ。俺が何をしたって言うんだ」

『私に乗って城の壁を破壊、そして城内に侵入しました』


ウルセーよその通りだよこのヤロー。

むしろあの場で首チョンパされなかっただけマシだと考えた方がいいか。


頼みのユーレシアも俺とは別の階の牢屋に連れていかれたし(何故か余裕綽々の態度でニヤニヤと笑っていたのが気になるが)、取り敢えずツッコミをするか。


「……何で普通に声が聴こえんの?」


あの軽自動車は当たり前だがどっかに持っていかれた。何人もの兵士だか騎士が必死に運んでいたのをチラッと見えた。


動かし方を教えても良かったけどとてもそんな気を利かせる気分じゃなかった俺は内心あの重量を持ち上げてエッホエッホとしているマヌケな連中をせせら笑ってやった。ザマー見ろってな。


『この思念伝達も私が得たスキルの一つです』

「……成る程なぁ」


ちなみにこの階の牢屋には俺以外誰もいない、この王都がとても平和なのかただの偶然かは知らんけどお陰で独り言を話す変人だと思われずにすんでいる。


「……なぁ、このままここにいるのと脱走するのと、どっちが安全だと思う?」

『あの女は何やら手があるのか余裕を持っていました、しかし此方は此方で身の安全を守る方法を考えた方が良いでしょう』


まぁ脱走出来る方法にアテがあるわけでもないし、あとこの声、ユーレシアをあの女呼ばわりだってまさか……。


「………もしかしてユーレシアの事嫌いか?」

『私をポンコツ呼ばわりし、更に見捨てる様にマスターに進言する輩を好意的になる方が難しいかと……』


……やっぱりこの声の主は我が愛車なんだろうな、そして感情と言うか心がある様な物言いをしている。

ここら辺は既にファンタジーな世界に来たわけだし、今さらウダウダ言うだけ無駄だろう。さっさと話題を先に進めよう。


「それもそうだよなぁ、なぁ俺の車……ん~やっぱ名前とかがないと不便だなぁ……」

『ならばこの場で決めて下さい』


え?いきなりそんな事を言われても。

しかしいつまでも車とか声とか言うのもなぁ、正直あのお空をツーリング体験で我が愛車への愛着が以前よりも更にパワーアップしている自覚がある。


此方は今後も末永くお付き合いをしたい。そこで変な名前はダメだと考え、しばし考える。


黒い、車、外国語に変えてもないな。車名をもじるのも考えたが何故かそれはやめた方が言い様な気がするのでやめた。


………よしっ決めたぞ。


「それじゃあおたくの名前だが『プレア』ってのはどうだ?」

『………プレア、ですか?』


ゴメン、名前に由来とか一切ありません、完全に適当なネーミングです。一応女性の声だし、それらしいのを意識はしたけども。


『プレア、分かりました。今日から私はプレアを名乗ります、マスター名前をありがとうございます』

「……そうか、気に入ってくれて良かったよ」


存外気に入ってくれた様で此方も嬉しいよ。


しかしそろそろこの牢屋についても話をしようか。


「プレア、この牢屋だけど脱走出来そうか?」

『鍵はここにはありませんし鉄格子を力ずくと言うのも今のマスターの身体能力では無理があります。しかしもしかしたら手立てがあるかもしれません』

「………聞かせてくれ」

『マスター、私はこの世界に来る時、世界を越えるっと言う経験から得た経験値でレベルアップする事で今も普通にマスターと話せる様になりました。つまりマスター自身にもレベルアップによるの変化が必ずある筈です、そしてこの世界に持ち込む事に成功したアイテム等にも使い道があるかと…』


成る程な、俺の自身のレベルアップとチュートリアルの突破報酬、指輪はユーレシアが現れる時に消えたが、確かにもう一つアイテムを貰っていた。

………しかし。


「プレア、確かに俺はチュートリアルをクリアしてユーレシアを呼んだ指輪とは別に綺麗なナイフを手に入れた、けど正直に言うとあのナイフはどっかに行っちまったんだよ」

『…………』


あのナイフはズボンのポケットに入れていたのにいつの間にかなくなっていた。

まぁあっても牢屋に入れられる時にスマホや財布と一緒に没収されていたと思うけど。

しかしプレアは予想外な事を言った。


『マスター、それなら問題ありません』

「は?」

『マスターが持っていたあのナイフはこの世に二つと存在し得ない物、マヌケの手元にないのなら別の異空間に隠されているのでは』

「…………異空間?」

『異空間です』


ラノベ的な考えだと、アイテムボックスとかイベントリとかってヤツか?。


「……つまりおたくの予想では今あのナイフはこことは別の空間にあると?」

『はい』

「………もしかして俺が手元に出て来てっとか念じると現れるとか思ってる?」

『その通りかと』


……………………んなアホな。


『…………………』


しかし何か無言の圧力を感じる。

仕方ないえーと?念じるんだよな?少し恥ずかしいけど呪文とか唱えたりしないだけマシと考えとようか。

俺は頭の中でナイフさん、ナイフさん出て来てくれーーって念じる。


すると右手のフッとあのナイフが現れました。


「……………マジか」

『だからそう言いました』


そう言うプレアのセリフは少し得意げな感じだった。







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