第3話:違和感と金髪おねーさん。
「……俺回復魔法なんか使えなかった筈だが……」
はて? なんで当然のように回復魔法を使っていたのかが分からない。
もう一回使おうとしたけど、今度はいまいち使い方がよく分からなかった。
「……神様の奴、俺がなんとかあの状態を抜け出せるようにしてくれたのかな……」
そんな独り言を呟きながら、これから先どうするかを考える。
崖の上を見てみるが、漆黒が広がるばかり。岩肌も割とツルツルしているのでこれを登るのは不可能だろう。
だとしたら先へ進んで出口を探すしか無いか……。
このダンジョンは最近見つかったばかりで詳しい情報が無い。
前にここに潜ったパーティが上層階の宝などを一通り回収し、マッピングして帰って来たらしく、崖のところまではアドルフがどこからか情報を仕入れてきていた。
要するに、ここから先は未知数というやつだ。
というかこの崖を降りる想定なんか普通しないよな……。
それこそ浮遊系の魔法使いでも連れてこなきゃ降りられないだろう。
腰にぶら下げている道具袋から簡易的な松明を取り出し、火をつける。
と言ってもぶっといマッチみたいなもんを土台にぶっ刺して持ち歩くだけの物だ。
それでもある程度視界は確保できたので、ゆっくりと奥へ進む。
俺が落ちた場所はそれなりに広い空間で、壁に突き当たった所で壁伝いに歩いて行くと、横穴があって奥に進む事ができた。
「しかし腹が減った……非常食はエリアルが管理してたからなぁ……」
一人ぼっちだと独り言が増える。虚しい。
もう魔物でもなんでもいいから食えそうなやつ食べたい……。
ガサッ。
正面の突き当り、右への曲がり角辺りから物音がする。
魔物だ……!
俺でも倒せる魔物でありますように!!
息を飲んでそいつが顔を出すのを待った。
こちらから奇襲をかけたくても明かりを灯している時点で意味が無い。
なら相手が何なのかちゃんと確認して……か、ら……。
ずるりとその魔物が角から現れた。
「じょ、冗談だろ……?」
それはとてもじゃないが俺が相手できるような魔物じゃなかった。
人のような顔。切れ長の目、長く艶やかな髪。そして、テカテカと光る蛇のような下半身。
ラミアじゃねぇか……! あんなの俺みたいな初級冒険者じゃ……最低五人はいねぇと太刀打ちできねぇぞ……!!
ラミアがチロチロと長い舌を出して、切れ長の目で俺を見据える。
身体が震えて、身構える事すら忘れていた。
一瞬でラミアの尻尾が迫る。
アレに巻き取られたらそのまま全身の骨を砕かれる!!
かろうじて横に飛びのいて交わし、腰から短剣を引き抜く。今の俺には武器がこれしかない。
こいつの対処法は……そうだ、そうだった。
よし、イケる。
何故か、急にこいつに負ける気がしなくなった。
もう一度尻尾を振って攻撃して来たが、狭い通路な事もあり直線的な攻撃になっていた。
俺はたっぷり引き付けてその尻尾の先端にある穴……なんの穴かは言わせるな。とにかくそこへ短剣の先を突き刺し、あちらの攻撃の勢いを利用して尾先を切り裂く。
急な痛みに驚いたのか慌てて尻尾を引っ込めようとしたので、俺はあえて尻尾の切れ目に手を突っ込んで掴まり、一緒に引き戻される事で距離を詰める。
十分近付いたところで手を離し、上半身と下半身の繋ぎ目に短剣を突き刺してグリっと刃先を捻った。
「ギョアァーッッ!!」
人っぽい顔に似合わない恐ろしい絶叫を上げ、
ラミアが絶命する。
こいつの弱点は腰の後ろの繋ぎ目あたりにある臓器。
そこが人間で言う所の心臓クラスに重要な部分らしく、一突きで始末する事が出来るのだ。
「……ふぅ、ざまー見やがれ!」
……再びとてつもない違和感を感じた。
俺がラミアの弱点など知っている筈がない。
しかも単騎で倒せるはずが無かった。
ぴこんぴこんと頭に妙な音が響き、俺がレベルアップした事が通知される。
本当にRPGだなこりゃ……。
俺は短剣でラミアの尻尾の先の切れ込みから肉を切り分け、松明の炎であぶって口に放り込む。
これがまたうまいんだ。
人型な部分は食えたもんじゃないが、尻尾の方はなかなか脂が乗っていて美味しい。皮が固いので少し大変だけど、俺にかかれば簡単に捌いて絶妙な火加減で……って、なんだそりゃ。
俺どうしちまったんだろう……。
知らない事を知っている。
知る筈の無い事を知っている。
気持ち悪っ。
とにかく、貴重な食料なのである程度食べた後、尻尾肉を道具袋に入れておいた保存用の透明袋にしまい込む。
これで食料はオッケーっと……。
ラミアの傍らで少しだけ休憩し、再び出発。
すぐに今度はキングスコルピオンがガサガサという音を立てながら俺に襲い掛かってきた。
二つ程角を曲がったらこれである。なかなか物騒なダンジョンだな……上層部にはほとんどいなかったのに。
キングスコルピオンの巨大なハサミをかわし、尻尾の毒針をくらわないように逆に尻尾に抱き着いて根本から切り落とす。
尻尾さえなくなればただのでかい虫だ。
バランスが取れなくなったのかフラフラし始めたので落ち着いて回り込み、急所がある脳天の少し下あたりを短剣で一突き。
対処法が分かっていれば大したことは無い。
またぴこんぴこんとレベルが上がる音がする。
その音は、俺なんかが本来戦うべき相手じゃないって事の証明だった。
そんな感じで魔物を討伐しながら先へ進むと、
一枚の大きな扉が見えた。
そこに着くまでにレベルが26にまで上がっていた。こんなにハイペースでレベルが上がるのは初めてで不思議な感覚に包まれる。
やっぱり何かしらの能力を付与してくれたんじゃ……?
だとしたら神様のやつなかなかいい仕事をするじゃないか。
当たり前のように俺は腰の道具袋を括り付けていた針金を解き、扉の鍵穴に突っ込んでいた。
あまりに自然にやっていたので自分でも気付かない程だ。
がちり。
おっ、開いた開いた。
扉を開いた先には行き止まりの壁。
そして手前にある古代文字がびっしり書かれた石板。
「……えーっとなになに? 我この地を訪れし旅人なり。汝我を受け入れその身に我を受け入れるべし……? なんだこりゃ」
ぐごごご……。
どうやら古代文字を解読して読み上げると壁が真ん中から両側へ開き、奥へ進める仕様らしい。
すげーカラクリだなこれ。
「いらっしゃーい♪ 君は我が巣を始めて踏破した人間よっ☆彡 金銀財宝プレゼントしちゃうわね♪」
なんだか煌びやかに輝くドレスを身に纏った金髪のおねーさんが豊満な胸を強調するように片腕で胸を持ち上げながら、もう片方の手で投げキッスしてきた。
……なんだこの状況。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます