第2話:百万回死んだ男。
「こっちの条件を呑んでくれるなら……生き返らせてあげてもいいよ?」
「ほ、本当か!? 俺は何をすればいい!?」
どうせ復讐さえ終わればどうなったっていいと思ってたんだ。俺に出来る事なら何でもしてやる。
「なぁに簡単簡単。次の人生を最後にしてほしいんだよね」
「……え?」
「実はね、君の魂の強度はちょっと異常なんだよね。今まで自分が何回死んだか知ってる?」
そんなの知る訳ない。俺にはかろうじて一個前の記憶がある程度なのだ。それも死の間際にふいに思い出しただけで……。
「実に九十九万九千九百九十九回だよ。えっとね、正確には今回で百万回死んだね」
……百万回死んだ……?
「待ってくれ、百万回ってのが異常なんだろうなって事くらいは分かるけど……それって他の人とどのくらい違うんだ……?」
「普通の人はだいたい四~五回かな? 多くても十回いけるかどうかってところだと思うよ」
それはさすがにおかしい。俺の魂がそんなにも強力だというのであればもうちょっと人生に良い事があったっていいじゃないか。
「このままだとね、まだまだ君は死んで生まれ変わってを繰り返すだろうね。正直言って我々はその魂のエネルギーはとても興味深いと思っていて、出来る事ならこちら側に徴収したいくらいなんだ」
魂を徴収……? ちょっと言っている意味が分からない。
「不思議そうな顔だねぇ。君にも分かるように簡単に説明してあげようか。このまま転生を繰り返すようなら神として拾い上げてこちら側に来てもらおうかって話が出てるくらいなんだよ」
俺が神様になる……? それは、ちょっと興味があるな……。
「でもね、君が生き返りを条件に次死んだらその魂を差し出すというのであれば、こちらとしては君を神にせずその膨大な魂の結晶のみを手に入れる事が出来る訳だね」
「……それがお前らにとって何の役に立つんだよ……」
神様は顔色一つ変えずのっぺりとした表情のまま言葉を続ける。
「お前って……一応ボク神様なんだけど? ……まぁいいや。利用方はいろいろさ。研究に使うもよし、結晶から抽出したエネルギーを他の命の精製に回すもよし。こちらとしては規則を破ってでも手に入れる価値がある」
このまま神になるか、生き返って復讐に生きるか。
……悩むまでもない。
「だったら俺の命なんてくれてやる。最後の人生、やりたいように暴れてやるぜ」
「言っておくけどそのまま生き返らせるだけだよ?」
「都合のいいチート能力の一つでもくれよ」
神様はそこで初めて不思議そうな顔をした。
「チート能力って……なんだい?」
「ほら、とんでもない特殊能力とか絶大な魔力とかさ」
「なに都合のいい事言ってるのさ。こっちは生き返らせるだけでも精一杯だっていうのに。君の魂を得る為にこちらはかなり無理してエネルギーそっちに回すんだよ? これは先行投資、君の魂が得られるのが分かっているからなんとか都合を付けようって話なんだから多くの望むのは違うんじゃないかな?」
ちぇっ。やっぱり異世界転生でチート能力を手に入れて無双するなんて都合のいい夢物語なんだな。
現実は転生ってもんに夢も希望もないって事がよく分かった。
まぁ今回は転生じゃなくて生き返りだけどな。そもそも転生チートなんてもんがあるならおれはイシュタリアに転生した時点でそれくらいのボーナスを貰ったっていいはずだ。
「それでいい。そのかわりちゃんと生き返らせてくれよ?」
「さっきも言ったけれどそのまま生き返らせるだけだよ。それでいいね?」
「……分かった」
神様は掌をこちらに向けて、何かぶつぶつ唱える。するとポゥっと光る紙が現れた。
「今契約書作ったからこれに手を触れてくれる? 契約内容は、生き返る代わりに次回死んだ時は自分の魂を差し出します。って書いてあるよ。嘘偽りはないから安心してね」
……俺は見た事もない文字がびっしり書かれたその契約書を若干訝しみながらも、手のひらを触れさせた。
バシュッと一瞬目の前がフラッシュして、「うん、これで契約成立っと。じゃあ生き返らせてあげるねーせいぜい頑張ってどうにかしてみてよ」と手を振る神様の声が、だんだんと遠のいていく。
「……ハッ!?」
……いき、かえった……?
本当に生き返った!?
で、も……あのクソ神野郎……!!
「騙しやがったな……!!」
口から血を噴き出しながら怒りの声を振り絞る。
あの神は全て計算づくだったのだ。
俺が【そのまま】生き返って、またすぐ死ぬのを。
俺は崖から落とされて大怪我した状態で生き返った。
こんなの……どうしろって言うんだよ。
完全に嵌められた。
生き返ったはいいけどすぐに死んで、無条件で俺は神様にこの魂を差し出さなくてはならない。
また意識が薄れていく。
クソが……ッ!!
ついてないにも程があるだろ……!!
転生なんて糞くらえだ……!
「……はぁ、はぁ……っ……」
ヤバい。本格的に、死ぬ……。
あぁ、そうだ、なんで簡単に諦めてるんだ俺は。回復魔法使えばいいじゃんか。
使える中で最大の回復魔法を自分にかける。……が、魔力が足りなくて発動出来ない。
クソっ、ならこれでどうだ……?
「ミドルヒール……!」
この程度の魔法では一気に回復する事は出来ず、俺はまず真っ先に内臓関係を修復する事にした。
それだけで命だけは繋ぎとめる事が出来る。
少し休んで、今度は折れた骨だ。
それを繰り返し、なんとか歩けるくらいにまで回復。
「ふ、ふふ、ふははは! 俺は生きのびたぞ! アドルフ、エリアル! 覚えてやがれ……! 必ずてめぇらを見つけて八つ裂きに……あれっ?」
気が付いた。
とてつもない違和感に気が付いた。
俺は、どうして回復魔法なんて使えたんだ?
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