第6話 『おいで、タイチ』

 タイチは何も言わず、ずっとノイの顔を撫で続けていた。


 ノイの顔は小さい。

 ふっくらしていて、顎が少しとがっていて、唇は柔らかい。

 タイチはノイの顔のパーツを全部、順番になぞっていった。


 まゆに、目に、鼻に、頬に、あごに。

 耳に。首すじに。鎖骨に。

 そして唇に。


 ノイのかたわらで、タイチは秋の夢を見る。

 金色の花が咲き、ぶらんこには不思議な模様のカエルがいる。

 そしてタイチはこう呼ぶのだ。

『おいで、ノイ』

 おいで。僕の小さな恋人。


「ノイ」

 夢の中でタイチがそうつぶやいたとき、ベッドの上で、ちかっと光るものがあった。

 眠りかけているタイチは気づかずに、もう一度ささやいた。


「おいで、ノイ。僕のノイ」


 タイチの声に合わせて、ゆっくりと輝くものがアンドロイドの身体の上をおおっていく。


「ノイ、ノイ、ノイ」


 ちか、ちか、ちか。

 やがて、泣き疲れたタイチがベッドサイドで眠りこむころ。

 夜の魔法が、タイチの恋人を連れてくる。

 ノイの身体に熱が戻り、愛情が戻り、タイチの恋人がもどってきた。

 切れ長の目を開いたノイは、かたわらのタイチを見てほほ笑む。


 ねえ、タイチ。

 朝になれば。

 ふたりでカエルの模様をながめよう。

 金色の庭で、あたしがこういうの。


『おいで、タイチ』って。




       ——終——


『ノイ』


 2020年11月17日

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【こちらが改稿前です! シーノパンダの読み比べ企画(笑)】「ノイ」 水ぎわ @matsuko0421

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