第15話理解できない

 そして1週間後.冴子はサイン会のために東京に行き、がらんとした部屋の中で僕だけが、リビングのソファーに傾けていた。そして、スマホでウェブ小説を読んでいるんだが。


 なんでこんなのが流行っているんだ?


 流行りの小説を見ても、1話目からいきなり会話が始まるは、状況説明もなくいきなり物語が始まるはで、かなり辟易(へきえき)していた。


 それを我慢して読んでも、好感が持てない主人公、すぐに落ちるヒロインなので、物語の世界に入り込んでいくことができない。


 こんなの読むぐらいならゲームをしておいた方がまだマシだ。

 そう思ってしまう。


 その時、告知でweb小説サイトの新人賞のフェニックス杯の最終選考が決まったとの情報を見た。もう、前の段階で僕の作品は落ちていたが、対象作が決まったらしいので一旦見ておくか。

 ・・・・・・・・・・・・・


 は?なんだこの作品?いきなり会話だけでキャラクターの説明はないし、ゲームを題材としているらしいが、そのゲームのシステムの説明もない。一体なんなんだこれは?これを見て、どう楽しめと?

 物語でゲームを出すのはその実難しい。ゲームのシステムを一から説明するのが骨が折れる。


 僕も何度かやってみたが、軽く説明しただけで、5、6ページか

かることはザラにある。


 それを全く説明もせずにゲームのプレイをしていても全くわからない。

 まあ、テンプレ世界観?というのか、こういうのが流行なんだろうな。


「ああ、訳がわからん」


 思わず独りごちた。そうだ、なんでこんなゲームの延長みたいな小説が売れているのかわからないし、普通にそんな小説があれば、僕はゲームをするだろう。


 だから、不思議というか、よくわからない。こういうのを望んでいる読者層はなんなんだ?ウェブ小説ということはWi-Fiは繋げているということだろう?なら、なぜゲームをしない。正直言って、こういうラノベを求める気持ちが今一歩わからない。


 それで、フェニックス杯の一次審査を通過した僕の作品、編集者の評価シートメールを見てみる。


 話自体は面白いし、独創性もありますが、掴みが弱く文体も硬いです、か。


 そして、だらだらとコーヒーをすすりながら次回作について思いを巡らせていた。


 次は何を書こうか?やっぱり次の課題は掴み、だよな。掴みが良くないと内容に響いてくる。でも、奇抜な掴みにすると全体の内容をちょっとエキセントリックにしないといけなくなる。というより僕の作品は家族愛だったり、隣人愛だったりして、詰まる所、愛なんだよな。でも、そうしたら作品全体が品のある形にしないといけない。品のある形でなおかつ掴みのあるものといえばなんだ?


 それに頭を傾げて唸ってみたがいい案が思い浮かばなかった。


 それに愛と言っても、今の若い人たちには性的に魅力的な異性以外の愛はお断りというかそんな感じだよな。


 だから、困るというか。そうなんだよ。僕は自分の本を読んで読者に喜んで欲しいと思って書いてきたんだけど、僕が思う面白さと、読者が思う面白さでは乖離(かいり)が生じているんだよな。どうしたもんかな?


 そうだ、今日は10月の4日だ。あれみよう『もふもふアルファ』かないチャンネルで見放題会員になれば見れれる。


 僕は早速登録して、それを見た。やっぱりもふもふアルファはギャグがぶっ飛んでいて、しかもなおかつとても都会的な演出がなされており最高だった。


 やっぱり、アニメはこれだよ、これ。このクールな作画や演出がたまらないよな。


 そして、1話が終わって2話のエピソードに向かおうとしたときにした欄におすすめアニメが出てきた。その中にはウェブ小説が掲載しているラノベ原作もあった。


 どうしようかな?見ようかな?でも、大方くだらないと思うけど?

 しかし、レビューで概ね好評だったので見てみた。


 内容は日本から召喚されたイケメン勇者と、最近流行りなダメな女神が織りなす、コメディアクションだった。


 どんな卑怯な手を使っても敵を倒す勇者に女神がツッコミを入れるというもので内容は面白いだろうし、僕が中学生の時もこういう筋のストーリーのラノベがあった。


 でも、女性を叩くわ、なおかつ、叩いたら手が汚れるって、正直言って受け入れにくい。


 イケメンは別にいいんだが、もうちょっと性格を真っ当にしてくれないかな?一応、相手は魔王で世界を滅ぼそうとしているから手段は選んではいられないというのはわかるけどさ、なんか、こう、受け入れられない。


 でも、ちょっと歪んだ感じが今の読者、視聴者に受け入れられているんだろうな。

 そう思い、ため息がつく毎日だった。




 冴子がいなくても自炊はできる。いや、料理と掃除ぐらいしかできないから洗濯物とかはメイドさんにやってもらってけど。


 ということはやっぱりできていないということか。

 そう、落ち込みつつ、昼下がり、ソファーに寝そべりつつ、グルグルと頭を回転していた。


 気温もめっきり秋らしくなって過ごしやすくなった。ということはゆっくり妄想の虜になっている可能性がある。というか完全に牢獄に閉じ込められていた。


 今の流行りのもの。異世界転生とかゲーム的な世界観がほとんど、ラブコメはあるが、極度にヒロインがちょろく、どんなギャルでも、女性の弱々しいところを強調する。そして、グーカワヒロイン。主人公を全肯定するヒロイン。キモい。


 僕の小説には全くなかったもの。正直言って僕には書けない。どうすればいい?


 僕が描く主人公はみんな優しい、そして強い。しかし、最近の小説は歪んだ主人公か、異世界に対して強烈な憧れを抱いている主人公ばかり、書けない。


 書けない。


 唐突な展開、

 書けない。


 親がいない高校生、

 書けない。


 チート能力に目覚める主人公、

 書けない。


 嘘から始まるリアルになる恋愛、

 書けない。最初からリアルな恋愛を描く。


 テンポの良い文章。

 書けない。最低限の状況の説明は必要だ。


 描写がほとんどないか、テンプレの描写のヒロイン。

 書けない。


 なんも努力をせずに認められる主人公、

 書けない。


 封印された魔王、書けない、異世界から呼び出された勇者、書けない、すぐに落ちるエルフ、書けない、すぐに仲を取り戻す幼なじみ、書けない、他人の異性のような妹、書けない、存在が薄い男友達、書けない、ゲームのような世界観、書けない、ラッキースケベ、書けない、ほとんど描写がない文章、書けない、ヘタレすぎる主人公、書けない、書けない、書けない、書けない、書けない。みんなはどうしてこんなものを読むのだ、こんな小説を買うのだ?理解できない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る