第9話あり文

「う・・・・」

 なんとなしに目が覚める。

 ここは?


 隣には裸の美少女がいる。最初に思ったことは、ああ、僕は夢でも見ているんだろうな、と思った。あまりにも人生がうまくいっていないから、夢を・・・・・・・。


 って、彼女は冴子じゃん!夢なんかじゃないよ。僕は冴子と何度もやって。冴子が20個ぐらいゴムを用意していたけど、それも切れて、そして、ぶっ倒れるように寝て、今は何時だ?13時か。もう、お昼だな。うっ。


 散乱したゴムの匂いが強い。そして、僕は自分の精子の匂いが好きだった。あの甘ったるい、なんともいえない精液を買いでは恍惚(こうこつ)とした状態に陥っていたが、これはあまりにも匂いが強すぎる!


 僕はそこから離れるようにそこから出て、脱衣所にある自分の服に着替えて、冴子を起こした。


「冴子、冴子」

「う・・・・」

 冴子は目を覚ます。そうしたらうっとりとした表情をした。


「すごくいい匂い」

 お前はどれだけビッチなんだよ。僕も相当の変態だと思うけど、さすがにこの匂いの強さは気持ち悪い。


 そんな僕の思いと裏腹に冴子は思いっきり鼻から深呼吸をして、恍惚(こうこつ)とした表情になっていた。




「で、僕はこれから実家に戻って着替えとか持ってくるけど、それでいいかな?」


 それに冴子は訝しげな表情をした。

「別に、そんないそがなくても、私の部屋で住めばいいのに」


「でも、ノートパソコンとかiPhoneとかの充電池とか、iPadとかも取りに行かなきゃいけないし、本とかも取りに行かないと」


 ここは岡山イオンのレストラン売り場。その中でハンバーガーを注文した僕らは向かい合わせで座って遅い昼食を食べている。そして、これからのことを話しているのだが・・・・・・・。


その時、僕は気づいた。この子は本当は犯罪グループの一味かもしれないということを、それなのに家電製品を持ってきて大丈夫なのか?


 しかし、それをしってか知らずかその子はふんふんと熱心にうなずいていた。


「確かにノートパソコンがないと小説書けないですね。それに・・・・・・」

「あー」

 僕は真伸びた声で冴子の言葉を遮った。(さえぎった。)


「僕が今、懸念(けねん)していることを言ってもいい?」

「どぞ」

 冴子はカエルのバックジャンプをした。


「僕は君が犯罪一味の集団だと思っているんだが、君はそうじゃないと証明できる?」

 それに冴子は慌てた。


「ええー?私のどこに怪しいことが!」

「もう、言動が怪しさ満載だよ」


 それに冴子は僕に言いかけたり項垂れ(うなだれ)たりを繰り返していた。

 一応、自覚はあったんだ・・・・。


「わかりました」

 すくっとカエルが立ち上がった。


「今から、私が犯罪者ではないということをお伝えしましょう」

 それから、冴子はスマホを取り出して、コールをかけたあといった。


「はい。私、弓弦ですけど、三枝さんいらっしゃいますか?・・・・・ああ、よかった、いたんですね、変わってください・・・・はい。どうぞ」

 弓弦。どこかで聞いたことのある名だな。なんだっけ?

 そう頭を捻っていると、カレンは僕にスマホを渡してきた。スマホの画面には『ant books』編集部、という表示が書かれてあった。


「もしもし」

「はい、三枝ですが、先生になんの用事でしょう?」


「先生?先生というのは藤堂冴子のことですか?」

 スマホ越しに聞こえた声は事務的な声音の若い女性の声だった。


「はい。あなたは先生のなんですか?」

「実は・・・・・」

 僕はこれまでの経緯(けいい)を話した。そうしたら若い女性は納得した声を出した。


「そうですか。それではあなた、弓弦さんを先生と知らずに関係を持ったということですか?」


「はい。それよりも、この番号はネット上に公開されてますか?」

「イマイチ質問の意図が理解できかねますが、のせています」


「なら、調べてみます。この番号が本当かどうかを」

 それに三枝さんは呆れたような声を出した。


「まさか、あなた、まだ先生を疑っておられるんですか?」


「ええ。名称なんていくらでも改竄(かいざん)できるし、実際の事実はこの番号だけです」

 それに彼女は、呆れた、と呆れ切っている口調で言った。


「じゃあ、切ります」

「ああ、ちょっと待ってください」


「はい」


「先生はうちの出版社としても大事な人で、あなたが先生の正体を知らないで恋人同士になったことはいいことですが、本当に大事な人で、先生にはくれぐれも大事に扱ってください」


「当たり前です。たとえ・・・・・いえ、大事に扱います」

「お願いします」

 それで電話を切って、スマホで、『ant books』編集部、と調べると本当に同じ番号がそっくりそのまま載っていた。


「お前、すごいやつだったんだな」

 冴子は目をくりくりさせて疑問の声を出した。


「ん?なんでそんなことを?」


「いや、あの、『あり文』の作家だとはしかも、めっちゃ扱いが高かったな。冴子はひょっとして有名な作家?」


 『ant books』 通称『あり文』2000年に創業。他の大手出版社と違い、ライトノベルとコミックだけの中規模出版社。

 しかし、2005年あたりから、ライトノベルの発行部数が高まり、去年、最大手のライトノベル文庫を抜き、文庫、電子書籍の売上ではトップに、今ライトノベル界隈(かいわい)では一番力のある出版社だ。

 結構、あの文庫いい作品があるよな。


 一番売れている本は『俺、異世界に行って無双勇者になります☆』だが、それだけじゃなくて、ハイブリッドファンタジー、伝奇、ホラー、ラブコメ、SF、いろんな作品がある。それぞれのジャンルで、また大きなヒットを売り出しているというこれまたすごい出版社なんだ。


 あそこの文庫は宣伝が良いんだよな。例えば、自分が好きな作家のアカウントをフォローすると、同じような作品が宣伝されるんだよな。


 そう、あり文はほとんど主体は電子書籍を専門に扱っていて、ヒットした作品だけ書籍化されるのだ。


 だが、誰でも掲載可というわけではなくて、プロの作家か、あり文の新人賞を通過した作品にしか掲載は許されない。

しかし、それがレーベルのブランドに寄与していることは間違い無いよな。


 話は戻すが、だからこそ、多様な作品を維持できるというか、例えば、ライトノベルと言ってもライトノベルを好きな人たちでは大きな違いがある。


 簡単にいえば、ネット小説が好きな人か、90年代2000年代前期の作品のような人たちが好きな人かによってだいぶ違うし、両者は大きな隔たりがある。


 ネット小説ではとにかく世界観を練り込ませずにサクサク読めることを主眼に置いた作品群だ。逆に後者は硬派なハイブリッドファンタジーでは無いが、一応世界観を作ってそれを読者に説明を果たすという意味合いが強い。


 僕は90年台後半のラノベを最初に読み始めたが、やっぱり魅力的だったのは、魅力的なキャラクターというか、その世界観に魅了されてしまったのだ。


その年代はどんな軽佻(けいちょう)なラブコメといえど、逆にその作品は独自な台詞回しで作品を見せねばならなかった。今のネット小説のような、即落ち、エロなんという安直なものは通用しなかった時代だ。


 あり文はネットを駆使して、二つの線引きを図りどちらの読者からも支持を受けた。


 90年台風な作品が好きな人からは、その作品群の紹介をし、逆に今風のサクサク読めるネット小説風が好きな人からはその作品を紹介した。


 それで今一番売れているのは無双勇者だが、それはネット小説的な作品なのだが、今の時代の変化にも対応しつつ、昔ながらの、世界観をちゃんと説明する作品も汲みつつ、なおかつ、それをさらに進化させている。


 結構ガッツリとした世界観を展開させている作品もあったよな。それは本当にすごいと思う。ただ、それが読みやすさも重要視していることがいいのだ。


 新人賞もかなり変わっている。普通の新人賞は賞を受賞すると出版することが普通だが、もちろんその出版には金がかかる。しかし、あり文庫は電子書籍がメインなので、新人賞に応募した作品はまず電子書籍ということになる。


 なので、たくさんの作品を出しやすいし、何より・・・・・・・


 ジャンルごとに応募する新人賞を設けているんだよな。


 最初の方は一つだったが、ハイブリッドファンタジー、伝奇、ラブコメ、SF、ホラー、アクション、そして、ジャンルに囚われないインディペンド、はたまた、最近だとゲーム、と異世界転生の新人賞まで作ったのだ。

 

 これで勢いに乗っているのも頷ける話だ。

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