第44話 私が出来る事だから

そう言った私を見て、みんなは焦ったようだった。


「いいのですか?!あれでは料金より少ないのではないですか?」

「確かに、料金よりは少ないです。でも、私は色々な事情がある方でも差別をせずに綺麗にしてあげたいんです。ダメですか…?」

「ツキノ様が、いいならいいんですが…」

「ありがとうございます。」


私の意見を尊重してくれて嬉しかった。向こうは、自分の意見なんか通らなかったしな…とあまりいい気分にはならない記憶を思い出しながらお店の扉を開いた。


「いらっしゃいませ、準備しますのでこちらの席で少々お待ちください。」


私は、座ったのを確認して準備を始めた。あ、そういえば名前聞いてないな…


「お待たせしました。今日はどのようにしましょうか?」

「え、えっと特にはないのでお任せで…」

「分かりました。」


どうしようかな…この子結構髪が伸びてるけどちゃんとケアしたら綺麗になる気がするしな。ん~よし決めた!この子は長めに残そうかな!


「じゃあ、今から切り始めますね。」

「あ、お願いします。」


まずは、前髪から切ろうかな。長いと視力が悪くなるしね。横に流すのもいいけど個人的には切る方が似合うと思う。それから、私は前髪と横髪の境目を分けてピンで止めた。前髪の部分をはっきり絵と分けた後ハサミを取り出して切り始めた。大体、このくらいだろうかと思った所まで切れてやっと後ろ髪に取り掛かった。後ろは結構伸びっぱなし状態だったけどそこまで長くなくて整えるだけで済んでよかった。あ、このお店機能開店したばかりなのに何で知っているのだろう。


「えっと、お客様は…どこでこのお店の事を?」

「あ、名乗り忘れてました…クロエって言います。」

「私は、お店をやっているアオイです。」

「このお店はの事は、街の人が話してるのを聞いて知りました。」

「なるほど…」


レティ様がこのお店を宣伝しとくって言ってたけど…この感じだと、昨日ここにレティ様来たのが町の人にもバレてたみたいね。まぁ、あのオーラはどうやっても隠せないってことね。こんな会話をしているうちに最後の仕上げまで終わった。


「出来ました。これでどうでしょうか。」

「凄い…これが私?!」

「そうですよ。元が綺麗でしたからこのぐらいになって当然ですよ」

「そんなありがとうございます」

「私、実はスラムでやっとの思いで貯めたお金なんです。他にも私以外にも人が沢山住んでてまたお金を貯めてくるので他の子も切ってもらえませんか?」


この世界にもスラムはあるんだ…それなら


「料金はいりませんよ。明日、大丈夫ならその人たち全員連れて来て下さい!みんなの事切ってあげますよ」

「ツキノ様?!いいのですか!」

「いいんです。大切に貯めたお金を私に出す必要はありませんから」

「クロエさん、今日の貴方の料金もいりません。この話を戻ってしてあげてください」

「そんな、せめて私の銀貨だけでも…」

「それは、また大事な時の為にとって置いてください。今より必要な時は沢山ありますからね」

「ありがとうございます。明日、みんな連れてきます!」

「またのご来店をお待ちしております。」


そう言ってお店のベルが鳴った。顔を上げた頃にはその姿は見えなかったので走って伝えに言ったのだろう。私は、お店から少し顔を出した。最初のお客さんは嬉しそうに走って家へ帰っていった。


「それにしても、本当にいいのですか?料金がいらないなんて。」

「いいんですよ。スラムの子だって、自分を綺麗に可愛くなる権利はあるんですからそれが出来る権利を私が持っているんだから使わないともったいないじゃないですか」

「本当に、ツキノ様はいい方ですね」

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聖女として呼ばれたが、関係ないみたいなので異世界一の美容師を目指すことにしました。 七星みや @Nanahoshi_miya

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