第1話 異世界で初めて

私は、改めて何もない部屋を見回した。この部屋は本当に何もない、あるとしたら埃ただそれだけ。これは家具を自分で用意しろという意味なのか…?王様は聖女様の方しか興味ないと、今日は床で寝るかと覚悟を決めグレンさんの方を見る、本人は私が見ていることに気づかず顔にかかっている髪を邪魔そうに触っていた。やっぱりあの長さ邪魔なのかな?私も気になったんだよね、髪の異常な長さ。職業病なのか切りたくて手がうずうずしてきた。でも今ハサミ持ってな、あるわ!いつの間にか声に出ていたらしくグレンさんが声を掛けてきた。


「ツキノ様どうかいたしましたか?」

「グレンさん、私の召喚された時持っていた。持ち物ってありますかね?」

「ツキノ様の持ち物でしたら私が持ってきておりますよ」

「本当ですか?!

「こちらでよろしいでしょうか?」


グレンさんが大きな鞄を持ってきてくれた。ふっふっ案の定、この鞄には必要な道具は全て揃っているからな~さぁ、グレンさんには座ってもらいましょうか!


「グレンさんは髪邪魔じゃないですか?顔までかかってるし」

「あー切りたいのですが、一回自分で切った時凄い悲惨なことになりましてそれから切るのやめたんです」


悲惨な事とは、すごく気になる!だがそんなことより切るのが先。


「それなら、私が切りましょうか。元の世界では髪を切る仕事をしてたんですよ!」

「ツキノ様に切って頂くなんてそんなことできません!」

「いいんですよ!ほら座ってください。カッコいい髪型しちゃいますよ~」


強引にグレンさんを椅子に座らせて私は、手際よく準備をする。

肝心な髪型はどうしようかな~グレンさんならどれも似合いそう…

てか、これよくある髪切ってイメチェンしたらめっちゃイケメンになりましたパターンになるのでは。


「今から切り始めますね~」


グレンさんにひと言、声を掛けてからハサミを取り出し一番気になっていた前髪から切っていく。すろと、長い前髪で隠れていた目も段々見えてきた。チョキチョキとどんどんハサミを入れていく。大体前髪はこのぐらいでいいかなと目安を付けて後ろ髪に取り掛かる。私は迷いもせずハサミを動かし、黙々と切る。そろそろいいかなと思った所で一回手を止めて確認する。なんと髪を切ったグレンさんは元々顔がよかったからなのか超絶イケメンに変わっていた。まさかとは思ったけど切った私本人もここまでとはと思うぐらいに変わっていた。ついでにセットしちゃおっ!


「グレンさん長さはどうですか??」

「とてもいいです!やっぱり鍛錬するとき邪魔だったのでとても助かりました。」


嬉しそうに笑いながら話してくれた。日本でも髪を切ってお客さんに喜んでもらうそれが一番嬉しかったな

~と今まで担当したお客さんを思い出す。でも今は、そんなこと置いといてグレンさんに集中しよう。最後に仕上げをして終了。さぁどうだ!


「グレンさん、終わりました。どうでしょうか?」


たまたま鞄に入っていた、鏡を向けて仕上がりを見せる。

なんて言われるかドキドキしてきた、こんなにドキドキするのは一番最初に切った人以来かな?声を掛けてから数分経ってもグレンさんの声は聞こえない、どうしたのだろうかと顔を覗く。鏡に夢中になっていたのかハッとして慌てている。


「これが私ですか?!」

「はい、正真正銘グレンさんです。」

「正直、思っていたより何倍もツキノ様の腕がよくてとても驚いてます。大変失礼なのは承知の上でこれから髪が伸びたらツキノ様にお願いしてもよろしいでしょうか…?」


なんと!それは嬉しい過ぎます。美容師の仕事はずっと好きでこの世界でもやれるならやりたいと思っていたのだから切ってもいいという人が一人でもいてくれるのはとても嬉しい。


「勿論!私でよければいつでもお切りいたします!グレンさんの髪サラサラで触り心地がよかったしw」

「ありがとうございます!サラサラなんて普通に洗ってるだけですが褒めて頂けて何よりです。それにしても、こんな髪型一体どうやって…」

「気に入らないようでしたら、変えますけど…」

「そういうことではないんです!ただこの髪型この国では見たことがなくてどうやって形を作ることができるのか不思議で」

「あー私のいた国では髪を切ることだけを学ぶ場所があったんです。そこで色んな種類の髪型を習うんです。」

「なるほど!でも私がこの髪で同僚のところへ行くと質問攻めされそうですね、、」


確かに、ついさっきまで髪がもさもさの人だとはみんな思わないよね。別に私が切ったと言ってもらってもいいけれど、それじゃあめんどくさいことになりそうだよね。まぁグレンさんなら上手いこと言ってくれるでしょうって完全に人任せだな。てか考え事してる暇があるなら、切った髪掃除しようか私。


「グレンさん掃除道具ってありますかね?」

「掃除道具ですか、って切った髪片付けるんですよね?切ってもらったお礼と言っては何ですが私が片付けます。切ってくださりありがとうございます。」

「それじゃあ、お言葉に甘えてお願いします。」


っと片付けてもらってる時に道具の確認でもしようかな、車にぶつかりそうな時に壊れてないか確認しなきゃハサミの刃は大丈夫そうだね。最近研いだばっかだから切れ味もよかったし。あと、壊れやすいものは大丈夫そうかな、うん大丈夫そう。よかった一安心!道具の確認にひと段落ついて床を見ると、もう髪の毛が落ちていない…グレンさん、掃除速くないか?まぁそこまで気にすることじゃないか。


「グレンさん、掃除ありがとうございます。とても助かりました。」

「いえいえ、これぐらいさせてください。」


さぁ、気になった髪は切ったし何しようかな。もう暗いしなんかどっと疲れたから寝ようかな、固い床でと思った所でコンコンっとドアがノックされた。


「お部屋の準備をしにまいりました。入ってもよろしいでしょうか?」

「は、はいどうぞ」


何人かの人が入ってきてベットを運び入れている。あっ、ちゃんとベット用意してくれるんだ。


「ありがとうございます。」


運んでくれた後、侍女さんが私に声を掛けてきた。


「また、明日詳しいことを説明しますので今日はお休みください。それでは失礼しました。」


凄くきれいなお辞儀をして侍女さんはお城に戻っていった。

部屋の中で待機してくれていたグレンさんも


「今日は、もうお休みください」

「あ、はいお言葉に甘えて今日はもう休ませていただきます。おやすみなさい」

「私は部屋の外にいますので何かあったら声を掛けてください。それではおやすみなさいませ。」


それだけを伝え、グレンさんは部屋を出ていった。

侍女さんたちが持ってきてくれたベットに入る、とてもふかふかでよく寝れそうだった。なんてろくでもないことを考えていたら、眠気が襲ってきた…

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