第16話 浮上



 アメノトリフネを破壊されるのを辛うじて回避できた俺たちだが、代償はでかかった。また半壊してるムシコロン。せっかくかなり直ってきた上縮退炉起動できたのにこれだよ。もっとも元々蟲機の機体で代用するのが無理があるようだ。


「ムシコロン、大丈夫か?」

『縮退炉が停止した上、シリンダー10本壊れたのが大丈夫なら大丈夫なんだろうな』

「被害状況チェック……真っ赤じゃねぇか」

『しばらく蟲機の襲撃とかないなら、修復率30%までは戻るのではないか』


 それほぼ全壊っていわねぇか?もともと完全に壊れてたのを、何とか直してここまで来たことからすると話は別だけど。しばらく動けなくなっている俺たちの周囲に、人だかりができはじめた。その中にはミドウとククルカンの姿もあった。


「感づかれましたかね」

「そのようですな」


 感づかれたってなんだよ。とりあえず降りて話を聞くことにするか。整備担当と思しき人たちが忙しく動き回っている。ククルカンが俺に声をかけてきた。


「タケルくん、まずはありがとうございます。アメノトリフネを破壊されたら我々に先はありませんでした」

「あれはいったいなんだったんだ?異常に強かったが」

「……上位蟲機を超えた存在、特異蟲機です。どのようにして発生するかはわからないのですが、上位蟲機に何らかの異常が引き起っているようです。あれはまだ幼体でしたが」

「ちょっと待て、あれが幼体だったら生体は……」

「間違いなくあれよりはるかに強いでしょうね」


 ムシコロンが半壊になりながらぶっ放した一撃でようやく倒せた奴が幼体って……普通に考えてまずくないか?俺は腕組みしながら今後のことに思いを巡らせる。


「特異蟲機はたくさんいるのか?」

「これまでの目撃例は数えるほどだったと思います。ヨハンソンが舐めた真似をしていなかったらセントラルごと破壊されていたのではないでしょうか」

「なんでそんな舐めた真似をしていたんだあいつは」

『舐めていたというより、核融合炉を狙っていたのではないか?』


 なるほどな。そちらの方が説得力がある。俺たちが100基もの核融合炉を入手したということは連中にとっても脅威だろうから、破壊するなり奪還するなりする必要があるだろう。


「いずれにせよ、私たちは早めにセントラルを出るしかないですね」

「でも特異蟲機は撃破したじゃないか」

「セントラルには我々の敵が多すぎます。蟲機だけが敵ならば楽なのですがね。一部を除いて、人間同士の争いなどあまりしたくはありません」


 そりゃそうだ。目的の復讐以外に足引っ張られて消耗してられるかって話だよな。


「んじゃどうするよ」

「ひとまずセントラルから離れます。その為にはまず、アメノトリフネを浮上させなければなりません」

「動くのか?」

「はい。問題は、出口がないことですが」


 あー、天井が塞がってるわこれは……浮上してもぶつかるだけではないかこいつは。


「どうするんだ?」

「突き破るしかないですね」

「破るにしても穏やかにやってもらえないか?」


 ミドウがそんなことをいう。できるんだったらそりゃそうするだろうけど、そんなことできるものなのか?


『我が手を出した方がいいか?』

「もう一度縮退炉を使えますか?」

『アメノトリフネを使えばいけるかもしれぬ。ただ、そのあとしばらくは入院させてもらうが』

「無茶すんなよ。ノジマにどやされるぞお前も」

『……ノジマよりミナのが100倍は恐ろしいから気にならない』


 ムシコロンのヤツ、どんだけトラウマになってんだミナの怒り方。まぁなんでもいい、まずはここをぶち破るしかあるまい。


「ケーブル接続は継続ですね」

『浮上するエネルギーは足りるか?』

「イオン化させる大気なら、地上には十分あります」

『イオンジェット方式か。大気圏内でしか使えぬではないか』

「本来のアメノトリフネは宇宙航行には重力制御を使用しますからね。縮退炉なしには宇宙航行不可です。大気圏内ならなんとか。では、アメノトリフネ、浮上します!」


 なんとも不安な旅立ちだな色々と。アメノトリフネも不完全なのか?艦首によじ登ったムシコロンは、アメノトリフネからの電力で縮退炉を再起動させる。船がわずかに浮き上がる。天井にぶつかりそうになる。今だ!


「岩盤粉砕!ムシコロン!グラビティ・ナックル!」

『行くがよい!アメノトリフネ!』


 天井がムシコロンの拳で砕けてゆく。そのまま船が浮上していくと、そこには緑が一面に広がる光景があった。


「これ全部植物かよ!すごい数だ!」

『ここは……磁極、太陽高度……GMT+9!推測完了!青木ヶ原樹海だったのか……』

「青木ヶ原樹海?」

『すぐそばに大きな山があるはずだ』

「山?」


 何から何まで初めて見る光景で、戸惑いを隠せない。山ってのはなんだろうな。大きな山……あの上が白い、青くすら見えるあれか?


「あの大きなやつか。あれを山というのか」

『そうだ。あれが富士山だ』

「富士山……」


 空は青く、周囲はひたすら緑、そして山。これまで茶色い地面の下にいた俺たちにとって、それは非常にまぶしいばかりの光景だった。


「タケルくん。感動してばかりもいられません。蟲滅機関の本部を目指します」

「でもどうやって?」

「飛んでいくからすぐですよ」


 これまでアメノトリフネにまで移動するのに、かなりの距離があった気がする。数時間はかかっていた。しかしわずかに数分で、アメノトリフネは目的地の上空に到着してしまった。


「飛ぶって凄えな」

「最短距離ですからね。では、第二艦橋ユニットに接続します」

「第二環境ユニット?」

「我々が住んでたところですよ」


 あそこか!どうやらそのまま再利用するつもりなのか。そりゃ再利用できればそれに越したことはないけどさ、そんなの上手くいかないんじゃ?などと思っているとアメノトリフネは高度を下げ始めた。


「総員、衝撃に備えてください」

「備えるったって……うお」


 あまりにあっさりと接続できてしまって拍子抜けしてしまった。ククルカンが続ける。


「アメノトリフネもモジュール工法で作られていますから、コネクタさえ一致させられれば接続は不可能ではないです」

「便利なもんだ」


 蟲滅機関の人間の全員が乗り込んだようだ。ミナやヒミカたちもいる。そのままワシントンD.C.にも向かわなくてはならないのだから、当然と言えば当然であるが。


「さて、あと一つ問題があります」

「蟲機はまた襲撃してきそうだな」

「はい。我々が浮上した穴や第二艦橋モジュールの穴を蟲機が襲撃する可能性もあります」

「どうするんだ?」 

「穴を埋めてしまいましょう」


 そういうとククルカンは、何かのレバーを引いた。光の弾が艦の下から発射され、崩落により穴がわからなくなった。そしてもう1発、ムシコロンが作ったアナも埋める為に光の弾を放つ。


「命中しました」

「わかりました。さて、それでは旅立つこととなりますね我々は」


 いよいよククルカンが艦に命令を下す時が来た。


「それでは試験運航です。前進してくだい。側面へ移動……みなさん。最初の目的地に向かいたいと思います」


 いつのまにか騎将キャリバーたちが艦橋に集まっているようだ。


「それで、これからどこにいくんだ?先生」

「それは決まっています。まずは」


 ククルカンが微笑んでいる様子だ。よほどそこに行きたかったのだろうか?


「遺伝学研究所です」

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