第14話 元凶



 プラズマ砲の閃光が、混乱した戦場を貫く。その閃光を追って、俺たちは駆け抜ける。格闘戦に持ち込んだのも時間稼ぎである。味方のいないところには、こうやって武装を使用することもできるのだから。


「射線が通った!ムシコロン!次弾装填済んでるよな!」

『問題ない!』

「殺蟲霰弾!ムシコロン・キャノン・シュウウぅぅぅタアアアぁぁぁぁ!!!」


 肩に移した霰弾も、その威力には差がない。まとめて数十の敵を攻撃できる手段は重要である。なぜならば。


「数が多すぎだろ!いくらなんでも!」

『言ってる暇はないぞ、次弾装填急ぐ!』


 次弾装填の間は格闘戦に持ち込むしかない。武装の復旧が遅れすぎている。無論機体本体が優先だから仕方がないか。


「もっといい武装使えないのかよ!?」

『縮退炉使えないとどうにもならんやつが半数以上だ』

「聞いた俺が馬鹿だった!というよりそんなクソでか出力の武装いらねぇ!」


 蟲機を締め上げ、逆エビ反りにして破壊しながら、多数の敵を始末する方法を考える。近くの固定砲台が連続的に火を噴いているが、なかなか当たらない。そっちに近づいていく。中の奴らが叫んでいる。


「くそっ、撃っても撃っても当たらん!」

「新しい蟲機か!?」

『違う!我は蟲機ではないっ!』


 ここの守備部隊のようだ。頑張ってたようだが、固定砲台では厳しかろう。


「砲台の人たち、この連射できる武器貰っていいか!?」

「なっ!?」

『我からも頼む。数が多くて武装が貧弱で辛い』

「わ、わかった。持ってけ」

「チーフ!いいんですか!?」

「俺らが撃っても当たらんじゃないか!」


 こうきて守備部隊から回転する砲を借り、右腕に接続する。どうやら電源を繋ぐらしい。回るんだなこれ。接続するとこの武器がなんなのかわかった。


「GAU-8 30mmガトリング?なんじゃこれ」

『無いよりはマシか』

「骨董品じゃねぇか」


 俺たちはそんな文句を言いながら、近寄ってくる蟲機に一連射してみる。反動がデカイだろこれなんなの!?連射っていうか弾がホースの水みたいに出てきやがる!?


「うおおおこれ弾出過ぎだろ!?」

『反動が激しくてブレるんだが!?この兵装作った奴何考えてんだ!?』


 文句は言っているが、移動しながらぶちこめる俺たちにとってはこれは中々のいい武器じゃないか、骨董品とか言ってすまんガトリング砲。当然当たった蟲機もタダでは済まず、装甲がないところに当たった場合そこから爆裂していく。やりすぎだろ。


『威力はすごいが、弾すぐ無くなるぞこいつは!』

「節約しろ節約!0.1秒で一端止めるようにするぞ!」

『それはそれで哀しいものがあるな』


 高火力で連射可能とか素敵過ぎるが、その代償が無いわけもない。


「そのうちこいつの改良型作ろうそうしよう」

『ガトリング砲、大昔のアメリカの南北戦争の頃からの武器だぞ!?武器庫というより博物館からの代物だろうが』

「博物館ってなんだよムシコロン」

『昔は大昔のものを子供や大人の勉強のために飾ったりしたもんなんだ。そういう場所だ』

「変なことしたもんだな」


 使い勝手があるなら、それはそれで意味があるんじゃないかとも思うが、勉強のためねぇ。映像だけでいいんじゃないか?


『改良型作るのもこいつら始末してからではないか?』

「それはそうだな!どんどん始末するぞ!」


 連戦に次ぐ連戦だが、ムシコロンの機体は今のところ順調に動いている。俺も少しは疲れたがまだなんとか行ける。問題はだ。


「蟲機の数の、底が見えねえ」

『無限にいるわけでもあるまい!その前に武装の弾薬が尽きそうなのが問題だが!』


 そうである。弾切れである。弾だ!弾もってこいだ!固定砲台から30mmガトリングやら57mm速射砲やら借りては撃っているし、固定砲台よりははるかに多数を仕留めているが確かに底が見えない。どこから涌いてくるのかと周囲を観察する。


「攻撃よりもどこからくるかを調べたほうがいいなこいつは」

『可視光、赤外センサーを確認しても敵が多すぎだ!』

「超音波センサーとかどうだ?」

『やってみよう』


 ムシコロンが蟲機の群れにムシコロンシューターの一撃を浴びせて距離を置く。そのまま地面に頭部をつける。


「そこに耳があるのかよお前」

『人間に言われる筋合いはないと思う』

「それはそうだが」

『……!これは……病膏肓やまいこうもうに入るというやつか』

「どういうことだ?」


 ムシコロンが襲ってきた蟲機に裏拳を入れながら俺に答える。


『蟲機の幼体が、無数にセントラル内壁の中にいる!木質組織の外壁を食って成長していたのだ!』

「なんでこんなことになるまで気づかなかったんだ!!」

『蟲機の巣を破壊したせいで、本来より早く成長して出てきたのであろう。これでも想定されるよりは弱い機体だ』

「そこじゃない!なんでセントラル内に蟲がいるんだ!?」


 群がり来る敵機のうち一機を両腕でつかみ、ブースターで高速回転しながらさらに襲い来る敵たちにぶつけ続ける。


『そこはわからぬ!だが、木質部を食い荒らす連中を放置してはおけまい!セントラルごと崩壊しかねぬ!』

「ならさっさと根源を叩くとするか」

『応!』


 ブースト加速で体当たりをしながら突っ切り、蟲が出てくる穴を目指す。意外に早く見つけることができた。


天牛カミキリムシ型機体か。ピレスロイド系は通用しない』

「あまり使いたくないがアレを使うしかないということか」

『だがここで使わなければ数百万人が命を落とすことになりかねぬ。ネオニコチノイド散布!』


 穴から出てきた機体の外殻にひびが入り始める。数体の機体が穴の中に詰まる。穴に向かってムシコロンの両腕から針を突き出す。


「殺針接続!ムシコロン・ダブルアースストライクううぅう!!」

『最大濃度のネオニコチノイドで、絶滅せよ蟲機!……分解しやすいものではあるが……』


 穴の中に大量のネオニコチノイドを流し込んでゆく。機体が破壊される音がする。効くなぁ、やっぱりこれ。騎将キャリバーや騎士たちが残敵を掃討してゆくのが見える。もともと数的なものさえなければ十分渡り合えていた彼らである、ネオニコチノイドで弱った蟲機などどれほどのものか。ノジマがあきれたように言う。


「おいおいおいおい、あれだけ暴れてた蟲機どもがどんどんくたばっていくぞ、ムシコロンお前どんな魔法使ってんだよ」

『魔法ではない。殺虫剤だな』

「ムシコロンだけに?」


 アリサがそういうのを聞いて、ムシコロンがデコピンをしようとするので止めさせた。


「もうほぼ敵全滅してるのに同士討ちしようとすんなよ、落ち着け」

『ぬうう。我が気にしてることを……』

「ごめん」

「しかし、どうして蟲がセントラルの中に湧いている?あの大きさの蟲は入ってこれないだろう」

「キリュウ、それはさすがにない」

「では、どうして蟲が涌いている?」


 キリュウのいうことももっともで、母体となる機体が存在しないのに唐突に涌くのはおかしい。蟲機でないとするならば『誰が』やったのか。


「尋問の時間だオラぁ!」


 ダイナが倒れている保安部員を叩き起こそうとしている。


「えっとぉ、無駄だと思いまぁす」

「なんでだよユウナ」

「もし知っていたら、わざわざここに来ないんじゃないですかぁ?」


 それはそうか。だとすると下っ端は使い捨てだな。保安部員には恨みしかないが、そういう事情では同情の余地がないわけでもない。


「尋問はやめて普通に誰に指示されたか聞けばいいのではないか?どれ、私が筋トレしながら話を聞こう」

「身体を持ち上げたり下ろしたりを繰り返しても意識戻らないぞキンジョウ」


 今更気が付いたがこの人たち、基本脳筋だよな。最終的に意識の戻った数人に話を聞くことができた。保安部といっても残った人は基本まともな人だったようで、命令系統について話を普通に聞けた。だが、保安部の上層部は蟲滅機関をろくでもない組織としてセントラルから排除しようとしているようだし、セントラルの指導部もかなり怪しい。


「……そういうわけで、私たちもここを蟲滅機関から守れという指示しか受けていないのです」

「そっちから喧嘩うっておいてそれはないよ」

「末端にはそこまでわかりませんから……」

「ずいぶん風通しの悪い組織だな保安部は」

「それははい、そうですねとしか」

「タナカさんだったか?あんたどうすんだこれから」


 タナカという保安部の男は少し考え込み、言葉を選ぶようにこう言った。


「今更こんなことされて戻りたくないですよ。おまけに本当なんですか?保安部員に蟲化病の人を処理する際に酷いことをしている人間がいるっての?」

「それは本当だ。俺もムシコロンも二度も目撃したらからな」

『我がしっかり録画している』

「機械が意図的に嘘つかないでしょうしねぇ……それは本当に申し訳ないですが、私たちとしても信じたくないのが実情です」


 気持ちはわかる。わかるが事実は事実だ。


「何より気になるのは、そんなことまでして性欲発散しようとするような奴が保安部に入っていることなんですよね」

「それそれ、ぼくも気になってるんだよ。選定の時点でそんなやつ入れるのおかしいって」


 アリサも若干お怒りのようだが、そうなるとどうも意図的にセントラルをぶっ壊したい奴がいるとしか思えないんだよな。


「そうすると、保安部の一部のゴミカスと、セントラル指導部、元老院、あやしいのはこのあたりか。元凶はどいつだ?」

『中枢サーバが何者かに狙われているということはないか?』

「ムシコロン、それはないな。外から攻撃されることはないのだから、あくまで犯行は内部の、人間だ」

『そうだろうか……』


 ゴミカスは意図的に中枢サーバをいじって保安部にねじ込まれた、保安部はそれで腐敗する。それはいい。では蟲機の卵はどこから?俺は思わずぼやく。


「卵が意味が分からないんだよな。無から有がわくことはないからなぁ」

『無機物から微生物は発生するがな』

「そんなことがあるわけはないだろうが」

『いや、宇宙のどこかではるか昔、無機物から生物の基が生まれた。それは間違いない』

「そんなレベルの話じゃない。ここの蟲機の卵はどっから涌いたんだよ」

『……データさえあれば、ゲノム合成したものを培養槽で作ることもできるだろうが』


 おいおいおいおい、さすがにそれはないだろ。セントラルの誰かが、蟲機の卵を『作った』っていうのかよ!?だとしたってそんなことしたら死ぬだろ。ありえねぇだろ。俺は思わずこういった。


「仮にそうだとして、そんなの自殺行為以外のなにものでもないぞ」


 ムシコロンはその言葉に対して、意外そうな声でこう返してきた。

 

『その蟲機を開発するという自殺行為を大っぴらに始めたのが、人類だと思うのだがな?』




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