第13話 強さ



 走り回る整備員たちが目立つ格納庫で、俺はムシコロンのある場所に向かって走っている。保安部の処分は意味のない殺戮だ、少なくとも感染拡大を抑制する手法があるのだからなおのことだ。コクピットに乗り込みながらいつもの確認を行う。


「ムシコロン、修復率はどんなもんだ」

『5割は超えている。核融合炉の出力がようやくまともになってきたからな。ただ、縮退炉の修復は当分先だ』

「わかった。兵装の修復はどうなっている」

『腹部プラズマ砲のプラズマ発生ユニットだけは復旧した。これだけあっても仕方ないがな』

「これぶっ放すとどうなる」

『まぶしい』


 聞いた俺がバカだった。……いや、案外そうでもないかもしれない。


「一応使えるようにしとくか。ムシコロン・シューターは分離して肩につけよう」

『その名前なんとかならぬか、なんとか』

「なんでだよカッコいいだろ」

『聞いた我が馬鹿であった』


 ムシコロンとは他の部分ではともかく、ネーミングセンスだけは相いれないようだ。残念ながら。俺のネーミングセンスのほうがいい、そう思うのだが。


「ムシコロン、出る!」

『進路を開けろ!通路に出たらブーストする!』

「わかった!総員、ムシコロンの進路から退避!火傷しても知らんぞ!」


 整備班長の怒鳴り声で、進路から整備員が虫を散らすように逃げてゆく。走り出したムシコロンは、通路を加速した後さらにブースト加速する。


「処分が行われるのはあそこだろうな」

『おそらくはな。む、蟲機が接近している。距離600メートル!機数3、7時の方向だ!』

「レーダー表示出してくれ。小型か。にしても速いぞ」

『距離を詰めたほうがやりやすいからな、こちらとしては』


 飛んで火に入る、なんとかの虫ってやつだ。徐々に距離が詰まってきている。距離150メートル。もう少し詰めたい。


「気づかないふりをしてもう少し進もう」

『追いつかれるぞ』

「もう少ししたら急速旋回だ。を使うぞ」

『あぁ、構わんぞ』

「いくぞおおおぉぉぉ!」


 背後から迫ってくる蟲機は、こちらが気が付いていないと思いこんでいるようだ。そのままぶつかりそうな勢いで迫ってくる。ムシコロンのブーストの片側の出力を一気に下げる。急速回転するムシコロンの目前に、蟲機が迫る。


「零距離霞弾!ムシコロン・シュウウうぅぅタアアァあああぁぁぁ!!」

『至近距離のネオニコチノイド弾、防げるものなら防いでみよ!』


 蟲機の機体を無数の霞弾が貫く!一機の機体がやや後方にいたせいか、直撃を避けられたようで俺たちに体当たりをかましてくる。壁に打ち付けられたが、この程度でやられるつもりはない。退避しようとするそいつに拳を叩き込む。


「この程度でムシコロンを破壊しようってのは甘いんだよ!殺蟲連拳!ムシコロン・チェーンナックル!!」

『変な名前つけるな詠春拳の師範に謝れお前は!』


 蟲機を原形をとどめないほど殴りつけ、地面にたたき落したのを確認した俺たちは、振り返りもせずブーストで機体を加速させた。こんなことで時間を無駄にするつもりはない。だが、セントラル付近だというのに蟲機がいきなり出てくるのはなんでだ。保安部は腐敗しきってるのは理解できたが、それにしたって仕事くらいしろといいたい。そもそも蟲滅機関の規模ではできることなんて限られてるんだし。


「前回の場所ならムシコロンが掘り進んでいたよな?」

『そうだ』

「なら前回よりは一気に行けそうだ!」

『こっちだ、崩落があるから若干掘るぞ』


 また掘りなおさねばならないのはタイムロスだが、一から掘ることを思えば楽なもんだろ。全力で掘り進んでいると叫び声が聞こえる。


「急ぐぞムシコロン!連中、本当にゴミだな!」

『前のミナの時と全く一緒ではないか!』

「潰すか!物理的に!」

『潰すと汚れるから勘弁しろ!』


 そんな理由で命が救われるとはよかったな保安部の連中、ムシコロンがきれい好きで。争うような声が聞こえてきた。あと少しか!


「姉ちゃんたちに手出しはさせないぞ!」

「餓鬼がなめた口聞くんじゃねぇ!」


 強く殴ったような音が聞こえる。声の主が殴られたのだろうか。


「さぁ、こっちで気持ちよぐぎゃぁ!」

「この餓鬼何やってくれんだ!」

「そんな汚いもので姉ちゃんたち触んじゃねぇ!」


 また殴られる音がする。このままだとまずいぞ!光が見えてきた。一気に掘りぬける。倒れている10歳くらいの男の子と、股間を抑えながら倒れている保安部の男、そしてミナと同じくらい年齢の女の子の姿がモニターに映し出される。


「よくやった、家族をしっかり守れたな」

『あとは我に任せよ』

「くそっ!蟲機……いやこいつはあの」

「また出やがったのか機械の化け物が!」


 前回デコピンし損ねた奴もいるのかよ。こんどはきっちり始末デコピンしてやる。


『誰が化け物だ。お前のような奴はこうだ』

「うわ、うわあああぁぁぁ」

「空中殺法。ムシコロン・クレーン・タクティカル・デコピン」


 機体の指でつまみ上げた保安部の奴を、軽く持ち上げデコピンして他の奴にぶつける。人間の扱いとしてどうなのそれ、といわれそうだが、少女に酷いことをしようとしたり子供を殴る奴らへの処遇としてはそこまで酷くない気もする。


「よし、次だ」

「も、もうやめろぉおおおぉ!!」

「そうだ、岩で潰せば汚れないだろ。どう思うムシコロン?」

『岩つまむとき土が指につくではないか』


 どんだけきれい好きなんだよ。手を汚したくないのかもしれんけど、デコピンしてる時点でいろんな体液出てるぞ、死なない程度に。汚いものでもつまむように保安部連中を文字通りの意味でつまはじきにしたムシコロン。


『ふぅ。汝ら、ケガはないか?』

「あ、ありがとうございます!私とイヨは大丈夫ですが、この子が……」

「だ、大丈夫だヒミカねぇちゃん……」


 あんだけ殴られて立ち上がるとは、見上げた根性だな。


『少年、汝は強いな』

「強くねぇよ!殴られてただけじゃねぇか!」

「あいつの股間蹴ってただろ。いい判断だ。俺たちが間に合ったのはお前が頑張ったからだ」


 俺もコクピットから顔を出す。少年は驚きの表情を見せる。人間が中に入っているとは思っていなかったのか。


「あんたは?」

「俺はこいつのパイロット兼メンテナンス担当のタケルだ」

『そして我はバア……くっ……どうしてもその名を使わせない気だなタケル!』

「こいつはムシコロン。そんじょそこらの蟲機や人間では絶対勝てないから安心しろ」


 少年はあきれたような目で俺たちを見ている。


「あんたたち、お笑いの人……いや人と機械?」

『お笑いなんて今のセントラルにあるか?』

「父さんが言ってたんだ。昔の地上にはお笑い芸人っていって人を笑わせる仕事の人がいたって」

『いたのは我も知っているが、我はギミック系お笑い芸人の道具じゃないから』


 なんだよギミック系お笑い芸人って。あとで聞くぞ詳細。それか前にユウナに渡していた映像データの中にあるのかもしれないけど。


『それで少年、汝らも蟲化病に感染しているのか?』

「そうだ。だからここでされようとしてた」

「俺の妹もだ。だが、安心してくれ。蟲化病を抑える方法はムシコロンが持ってる」

「マジでいってんのかそれ!?」

「う、嘘ですよね……!?」


 俺もそう思ったけどな。知るまでは。


『安心してくれ。我が抑制法を持っている。コクピットに三人とも交代で入ってくれ。無針注射を行うから』


 こうして三人ともミナと同じ方法での治療を行った。これで短期的には安心だ。ヒミカが俺たちに礼をいう。


「あ、ありがとうございます……本当に何とお礼を言ったらいいか……」

『まだ完治するわけではないからな。その方法はこれから手に入れに行く』

「というわけだ。3人とも手の上で悪いがムシコロンに乗ってくれ」


 ひとまずムシコロンで元の格納庫まで戻ることにする。今度は幸いにも蟲機はおらずスムーズに帰投ができた。戻ってくると格納庫内はなんか騒がしい。何があった?


「戻ったぞ。保安部から人を助けてきた」

「そうか!まずはご苦労!……今大変なことになっている!その人たちを置いたらすぐにまた出てくれ!騎将キャリバーや騎士たちが苦戦中だ!」


 整備員がこっちに怒鳴ってくる。またすぐ出ろって結構やばい状況?


「保安部と戦闘でもしてんのか?」

「いや、その手前まで言ってたところに蟲機が乱入してきてそれどころじゃないって!早く行ってくれ」

「わかった!そっちに向かう!」

『忙しい……忙しすぎる……』


 ホントだぜ、勘弁してくれまったく。回れ右して、保安部と蟲滅機関が相対しているところに全力で向かうことにする。ヒミカたちはミナにあづけることにした。


「またすぐ行くの?」

『流石に我も勘弁してほしいと思うぞ』

「それには同意だ全く」

「はぁ。わかった。ヒミカさんたち、こちらです」

「は、はい」


 まぁ人間同士の対決でない分気は楽だと思うしかないな。全速で向かっていると、蟲機の巣と同じくらいの数の蟲機が騎将キャリバーに襲いかかっている。保安部の連中は何やってんだよと思ったら、蟲機に倒されたり逃げたりしている。保安部弱っ。ユウナが蟲機を爆裂させながら飛び降りる。強い。


「ムシコロン!来てくれたんですかぁ!」

『ユウナか!遅くなった!』

「遅い。早く手伝え!」

「無理言うなキリュウ!……そうだ騎将キャリバーのみんな!蟲機から離れて目を閉じてくれ!」

「何やるんだタケル!」

「まとめてひるませるんだ!行くぞムシコロン!新兵装をぶちかます!」


 その声を聞いて騎将キャリバーたちが素早く回避する。俺はそのシステムの動作を可能にするため、コンソールを操作する。一気に行くぞ!


『システム接続完了!アラート出てるが構わぬか!?』

「構わん!やあぁってやるぜ!害虫照身!ムシコロン・殺蟲光線!!」


 腹部プラズマ砲を光らせる。うおっ、まぶしっ!?まぶしいだけなんだが、蟲機も光を浴びてパニックになっている。そこに俺とムシコロンは突撃しながら殺虫拳を叩き込み、群がりくる蟲機に向かって殴り飛ばす。蟲機同士で激突するのを見ながら、更に突撃する。これまでのムシコロンと同じと思うな!










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