春の獣

 物凄い風が透明な壁を打ち鳴らした。

 バタン!と、物凄い音が箱の中に響いて、あなたが帰って来た。

 春の匂いと一緒に。

 あなたは何かと争ったように、頭の毛を逆立て、枯れ枝や葉っぱをくっつけている。

 乱暴に座って、私をぐしゃぐしゃとやるから、あなたをかじってやった。

 そういう触れ方は好きじゃないの。

 少し手を引っ込めて、あなたは私の顎を優しくくすぐる。

 喉を鳴らすと、あなたの息が落ちついてきたから、私はあなたの後ろ足に体を預けた。

 横になったあなたの頭の毛を舐めてやる。

 傷を癒やすように。

 揺らがないあなたを取り巻く香りは、春の匂いがした。

 

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小木原 見菊子 @ogihara-mikiko

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