サイレント

 私はどこから来たのだろうか。

 気持ちの良い風の匂いがして、透明な壁の向こうは心がすーっとするように広い。

 どこからか新しい葉っぱの匂いがして、ふわわっと風が入ってきた。

 いつのことか、聞こえないくらい微かな声で、(にゃあー……)と私の声が漏れた時、ざらざらとした温かさが私の全身を優しく整えた。

 このざらざらが好きだった。

 同じ色の温かい温もりに包まれて、私は満足なような、もっと暖めて欲しいような、不思議な気持ちになった。

 懐かしくて、暖かくて……。

「ネェ、ドウシタノ?」

 私に触れる、あなたの前足は湿ってないし、ざらざらもしていない。

 私は一人でも平気。

 でも、あなたの前足を私は嫌いじゃない。それだけは確かなこと。

 あなたは前足で透明な壁を動かして、そうしたらあみあみの壁の向こうから、葉っぱの匂いの風がたくさん入ってきた。

(にゃあ)

 あなたがいつかの私みたいに、口を動かした気がした。そうじゃないかもしれない。

 私が少しだけざらざらを当ててやったらあなたは、いつかの私みたいな顔をした気がした。

 

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