カーネーション

 五月の風を髭で感じながら、君はじっと窓の外を見ている。

 何かを思い出しているような、何も考えていないような、君がわからなくなる。

「ねぇ、どうしたの?」

 優しく君に尋ねると、いつものように僕の指に頭を寄せるけど、今日の君はなんとなく違う気がする。

 母に花を贈らなければ。

 今日の君を見ていたら、なんとなくそう思った。

 温かく優しく強く、遠く、近い母。

 大きく窓を開けると網戸からびゅうっ、と風が入ってきた。

 新緑の気持ちに包まれて、懐かしい気持ちで君を見つめていたら、君の舌が僕をざり、と撫でた。

 何故だかまた、母を思い出した。

 僕は一人では生きられない。

 母を想い、君を想う。

 明日のことを考える気持ちになって、僕は炊飯器のスイッチを押した。




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