Last Episode.「ラブコメ・オセロはXXXXX」


「……僕から、提案があるんだけど……」


 ……最初から、わかってたんだ。こうなることは。

 『告白』なんて、必要なかったんだ。

 僕たちは、昨日の時点で、確信していたんだ。


 僕たち四人、それぞれが、それぞれのこと、

 どうしようもなく――、『大好き』なんだって……


 コレを言うのは、僕の役目だって知っていた。

 ……突拍子もない行動で、およそ非常識な発言で、

 みんなのことをびっくりさせるのは、いつだって僕だから。


 ちょっとだけ緊張する。文字通り、みんなが固唾を呑んで僕のことを見ている。

 ちょっとだけ息を吐いて、ニヤッと口元だけで笑って――



「もういっそのこと、四人で付き合わない?」



 世界が、止まった。



 たぶん、気のせいじゃないだろう。



「…………えっ?」

「…………へっ?」

「…………はっ?」


 幾ばくかの静寂が流れて、

 異口同音のマヌケな声が、ものの見事にシンクロした。


 ポカンと、大口を開けている『雷』と――

 目を点にしながら、両手で口を覆っている『柳さん』と――

 眉を八の字に曲げながら、口角を吊り上げている『ホタル』と――


「……どゆこと?」


 絞り出すように、四文字の疑問符を声に出したのは、雷。


「いや、言葉の通りなんだけど……、みんな、お互いのことが好きならさ、いっそ四人で、恋人同士になるのはどうかなって……」


 淡々と、さも世間話でもするように、僕は雷に言葉を返した。


「……それ、アリなの?」

「……アリかナシかは、僕たちが決めればいいんじゃない? ……結婚するワケでもないんだし、四人で付き合っちゃいけないなんて、法律で決まってないでしょ?」


 自分でも、何言ってんだろうって思う。

 みんなが、この提案を……、恋愛ゲームにおける、およそ型破りな『裏技』を、受け入れてくれるかどうかは、正直わからない。


 ――でも、考えれば考えるほど、他の選択肢なんて、ないような気がしていて――

 

 ……まぁ、アリテイに言うと、僕は『賭け』に出たんだ。

 およそ、フツウじゃ受け入れられないような、突拍子もない『アイディア』。

 ……この三人なら、ノッてくれるんじゃないかって――



「……葵、お前――」


 雷が、信じられないって顔で、僕のことを見ている。

 ――ドキッ……、と心臓が動いた。……やっちゃったかなって、嫌なイメージが頭に広がる。


 苦い記憶……、

 ――中学の時、宇宙人でも見るような目つきで、僕のことを遠巻きに眺めていた、

 クラスメートたちの姿が、頭によぎって――


「……葵、お前ソレ……、サイコーに……、ロックじゃねぇか――」



 ――えっ……?



「……そっか、四人で――、ジー・ザス……、俺は、なんでそんな簡単な事に気づけなかったんだ……、クソっ、昨日の夜、徹夜で悩んでた自分がバカみてーだぜ……」


 ハァッとため息を吐きながら、雷がガシガシと頭を掻きむしっていた。


「……えっ、雷は、それでいいの?」


 ポカンとした表情で言葉を投げる僕、ポカンとした表情で僕を見つめ返す雷。


「……えっ、いいと思うけど……、っていうか、お前が言い出したんじゃねぇか?」

「い、いや……、そう、なんだけど――」



 ……あれ……、か、軽すぎない?



「――私も、大賛成ですっ!」


 ――ふいに、僕の耳に流れ込んで来たのは、あまりにも喜々とした、あどけない柳さんの声。


「……正直なところ、わ、私……、男の人と付き合うって、したことがなくって……、『恋人同士になる』ってことが、イマイチわかっていないんですけど……」


 もじもじと、恥ずかしそうに身体をくねらせながら、でも、ひまわりみたいな笑顔を、顔いっぱいに浮かべながら。


「……でも、この四人で一緒にいられるなら、お互いを『好き』って、思っていられるなら……、それは、とっても素敵なことだなって、そう、思うんです――」


 ……ああ。

 ……この子は、相変わらず、眩しくて、

 ――相変わらず、めちゃくちゃ、綺麗だな――



「――クジラ、アタシはアンタのことバカだって知ってたけど……、まさか、ここまで大馬鹿野郎だったとは……」


 ハァッと、呆れたようにタメ息を漏らしたのは、ホタル。


「……ホタルはどう思う? 四人で付き合うって――」


 彼女の顔を窺い見る。

 チラッと、横目を僕に向けた彼女の口から、再びハァッとタメ息が漏れ出た。


「どうって……、バカとしか思えねーよ……」


 ポツンと一言、そう呟いて、


「……まぁ、バカなアンタらを放っておくことなんてできねーから、ノッてやるけどよ――」


 フッと視線を逸らしながら、でもどこか愉しそうに、口元を綻ばせていた。

 ホッと胸を撫で下ろした僕は、なんだか全身にドッと疲れが押し寄せてきて――



「――おおおおおおおッ! 『満場一致』だな! ……俺にも、ついに彼女ができたのか……! しかも、美少女二人とはなぁ! コレ、そこらへんのリア充よりも、よっぽど羨ましい状況なんじゃねぇの?」


 休む間もなく、耳になだれ込んで来たのは、アホな雷のアホな大声。


「……えっ、雷ってリア充の癖に、彼女いたことなかったの?」

「ね、ねぇよ……、ってかずっとお前に言いたかったんだけど、別に俺リア充じゃねぇから。バンドなんてな、自己顕示欲と承認欲求に塗れたネクラしかやんねぇんだよ」

「フーン……、なんかイケメンなのに、もったいないね」

「う、うるせぇよ……」

「……あ、あのっ! 質問なのですが……、た、例えば、キスするとか、そうなったときってどうすればよいのでしょうか! や、やはり四人同時なのでしょうか……」

「……いや、そこは流石に二人きりのときだけダロ……、ってかもうそんなこと考えてんのかよ柳は、さすがムッツリ」

「……ふぇぇぇぇぇぇっ!?」

「アタシの目が黒いうちは、アゲハには指一本触れさせないよ。アゲハの巨乳は、いつかアタシが揉み潰すんだからな」

「……ふぇぇぇぇぇぇっ!? ……だ、だから、揉み潰さないでくださいぃぃぃっ!?」

「……君たち、元気だね――」




 ……あ~っ、疲れた――


 『死ぬまで平穏に生きる』こと。

 そんなしょうもない人生目標を掲げて生きてきた僕にとって、

 あまりにも『イレギュラーイベント』が多すぎたこの一週間。


 ……まぁでも、カチカチの殻を身に纏って、ジッとしているよりかは、

 たまにはえいやって、知らない世界に飛び込んでみるのも、悪くはないかなって、

 それを、知れただけでも――


「儲けものかな……」


「……? 葵、なんか言った?」

「……いや、なんでもないよ、お腹すいたなって」

「――おっ! じゃあ入籍記念に、なんかうまいモンでも食いに行くか!」

「……いや結婚はしてないってば、疲れてるんだからあんまりツッコませないで……」

「……ふぁ、ファミレスに行きたいです! ファミレス! 私……、同級生とファミレスに行くのが夢だったんです!」

「……ちっせぇ夢だな、アゲハの家、金持ちなんだから、普段もっとイイもん食ってんだろ」

「……み、みんなで外食っていうのに、憧れてるんですっ!」

「っていうかホタルもないでしょ、同級生とファミレス行った事なんて」

「……ねぇよ、殺すぞ」

「楽しみでしょ?」

「殺すぞ」

「アハハハハッ! 揃いもそろって陰キャ揃いだな! ダチとファミレスくらい、フツー行ったことあるだろっ!」

「ホタル、雷のこと殴ってくれない?」

「言われなくても、その気だっつの」

「……じょ、冗談だよ冗談ッ!? ……お、オイ……、マジ――」



 ばっこーんっ。



 ホタルの右ストレートパンチが雷の顔面に炸裂し、

 晴天の青空を一人の男子高校生が舞った。



 ……あ~、楽しい……。

 この時間が、ずっと続けばいいのに――



 ――果たして、ラブコメ・オセロは『ノーゲーム』。

 勝者不在の恋愛バトルは、前人未踏の延長戦にもつれこんだワケで――



 ……ホント、事実は小説より奇なり。リアルはファンタジーよりもSFだ。

 僕みたいな、何の特徴もないやつが主人公の『ラブコメ』――



 面白い事件なんて、何一つ起こらないと思ってたんだけどな。


 





-fin-






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【長編】 ラブコメ★オセロはルール無用っ!! ~陰キャな僕が、気づいたら大分こじれた四角関係に巻き込まれていた~ 音乃色助 @nakamuraya

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