その12

 一通り話を聞き終わると、レコーダーのスイッチを止めた。

警察オマワリには連絡ついたか?』

 俺はうずくまってしゃくりあげている川本博を見下ろしながら、ジョージに聞いた。

 ジョージは俺にスマホを投げてよこし、

『ここらのオマワリは思ったより素直だな。あんたの名前を出したら”すぐ行く”だとさ』

 いつものように軽口を叩く。

『実際来てみないと分からんさ。連中は』

 そうさ、俺の言った通りだった。

20分かっきりで、所轄署の一団がパトカーで押しかけて来た。

 私服3人、制服が3人。

 丁度半ダースだ。

 奴らは毎度おなじみの”報告書を提出するのを忘れるなよ”探偵の癖にドンパチばかりやらかしやがって”と嫌味を吐いた。

川本博は後からくっついてきた救急車に警察官が同乗して病院に運ばれていったようだ。

 警官オマワリの話だと、俺が撃った肩の銃弾は貫通しており、命には別条はないらしい。

 ジョージについては、”助っ人に頼んだ助手だよ”で押し通した。


 二日後、俺は秋葉原のエロ漫画専門店でサイン会を開いていた当麻淳に報告書と共に事の次第を報告した。

 彼は何だか割り切れないような、苦い顔をしていたが、それでも渋々ながらも『ご苦労様でした』とだけ言い、報告書と引き換えに探偵料ギャラプラス必要経費、それに危険手当を付け、現金で渡してくれた。


 帰り際、俺は一言だけ、

『貴方もプロの作家なら、矢鱈に”表現の自由”ばかり振り回さずに、たまには立ち止まって周りを見てみる事をお勧めします』

 とだけ付け加えると、彼はそれ以上何も言わずサイン会場に戻っていった。


 この事件はこれで終わりだ。

 後で聞いたところによれば、川本博は銃器の不法所持と、ストーカー防止法違反で逮捕されたが、肝心の当麻淳が被害届を出さなかったので、裁判の結果執行猶予処分となった。


 当麻淳はといえば、相変わらずエロ漫画を描き続けているという。


 俺は資料のために手に入れた奴の本を、全部新古書店に叩き売った。


 大した金にはならなかったが、呑み代の足しくらいにはなるだろう。

 こんな金、とっとと使っちまうに限る。


                               終わり

*)この物語はフィクションであり、登場人物その他全ては、作者の想像の産物であります。

 


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自由は諸刃の剣 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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