#12 救世主

バシッ。


背後から何か音がした。ジャックの振り上げられてた腕は一向に降りてこない。コランが上を見ると、彼の腕は黒くて細いものにつかまれていた。よく見るとそれはムチだった。握っているのはマリーだ。


「…こいつ、いつの間に!!」


背後にいたマリーに気がついたジャックは、彼女の方を向いた。マリーに襲い掛かろうと彼女の方に気が向いている隙に、コランは彼の腹部に一発拳をお見まいした。うまく鳩尾に入ったようで、ジャックはその場に倒れ込んだ。それを見たトムがすかさず彼を取り押さえる。


「何かひものようなものはないか。こいつの手を塞いでおきたい。」


「鞭でも縛り付けておけますか?ロープはあると思いますが、何せテントから随分離れている場所なので。」


トムの呼びかけにマリーが答える。トムはマリーから鞭を受け取り、ジャックの手から自由を奪った。


「こいつは俺が引き取る。色々聞きたいこと、捜査したいこともあるから応援を呼ばせてもらうぞ。ここの責任者は誰だ?」


トムが警察らしく聞く。


「責任者なら殺されてしまっているよ。」


「なんだって?」


トムは驚いていた。無理もないだろう。


「どうして知らせてくれなかったんだ?」


「今捕まっているそいつに警察は呼ぶなと言われたんだ。うまく説得できなくて

。」


「なるほど、昨日人を殺しているんだ、それは、警察を呼びたくはないよな。」


トムはいいながら身動きの取れないジャックを覗き込んだ。彼は鋭い目つきでトムを睨んでいる。


ルイは放心した状態でその場に突っ立っていた。目の前で起こっていることにショックを受けているようだ。1日のうちに、父と慕っていた団長が殺され、信頼していた仲間が殺人鬼だったと知れば誰でもショックを受けるだろう。12歳の少年が抱え込むにはあまりにも重たすぎる事実だった。コランはルイの目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。


「君からの申し出だったとはいえ、助手として行動を共にさせたのは、間違いだった。本当に申し訳ない。」


彼の瞳を真っ直ぐに見つめてコランは謝罪した。コランと共に行動していなくても、今の前で起きている事実は遅かれ早かれ、受け止めなければいけないことだろう。ただ、こんなにも危険な目に遭う必要はなかったはずだ。

 

ルイはコランの謝罪に応えようと懸命に正気を保とうとしていた。目に溜まっている涙を服の袖で拭った。


「僕は……大丈夫です……」


ルイは絞り出すような声で言った。これは流石にルイを休ませる必要がある。コランはマリーの方に目線を移した。彼女の背後には隠れるようにエリがいた。ルイほどではないとはいえ、彼女も怖さを抑えて、やっと立っているように見えた。


「マリーさん、申し訳ないのですが、そこの2人をどこかで休ませてやってください。彼らには少し負担をかけさせすぎました。」


マリーはうなずくと、2人をテントのある方まで連れて行ってくれた。

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