#11 凶器

「何も見当たりませんよ。」


サーカステントから少し離れた薄暗い林の中、少し馴れ馴れしくなってきたルイの声が聞こえる。それでもちゃんと目当てのものは探しているようで、地面に向けられて放たれる声は少し聞きづらかった。


「犯人が別の場所に持て行ってしまったんじゃないですか?」


「もう少しだけ探してみよう。一つ見逃せば真実が遠のく。」


コランがそんなことを言っていると早速足元の地面に不自然な山ができていることに気がついた。わざわざ土の中に埋めたのか。スコップなどがあるわけではないのでコランは手でできるところまで掘り返す。そんなに深くは彫られていないようだった。土を退けていると違う感触にたどり着いた。しかしその感触はトロフィーとも違うようだった。なんだが柔らかい。とても嫌な予感がした。さらに土を払うと、そこに出てきたのは人の顔だった。もうすでに死んでいる。1週間サーカスにいたが、どうも知らない顔のようだった。人一人、そのまま埋められているのか、それともバラバラになってしまっているのか……今の状態からは推測するのは難しかった。


「どうしたんですか、コランさん。何か見つけましたか?」


コランが、黙々と地面を掘っているのに気がついていたのだろう。ルイがこちらに近づいてきた。コランは片手を上げ、近づこうとする彼を静かに止めた。


「これ以上近づくな。君には少々刺激が強すぎる。見る必要はない。」


「な、何があったんです?」


「……死体だ。だけどサーカス団員ではなさそうだ。見ず知らずの…女性だろう。」


「ど、どう言うことなんです?」


困惑するコランは混乱するルイの方に向き直った。


「ここしばらく、このサーカス団の旅路に沿うように女性連続殺人事件が起きていた。」


あえて話す必要もないだろうと思っていたが、死体まで出てきてしまっては説明せざる得ないだろう。


「警察の友は、犯人はサーカス団の中にいるのではと疑っていた。」


ルイは静かにコランの話を聞いていた。


「俺はその友に依頼されて、このサーカスに潜入して調査をしていたんだ。証拠を掴めずにいたが、死体がここにある以上、団員の中に殺人鬼がいる可能性がとても高くなった…」


「やっぱり、お前、俺のことを調査しにきていたのか。」


コランの背後から鋭い声が聞こえたかと思うと、首元にジャグリングナイフを向けられた。


「ジャグリングナイフで怪我をしたというのは嘘……いや、ナイフによる怪我だけど、使い道を間違えたな。夜出かけて行ったのもお前だけだったな……ジャック。」


ステージ上のおどけた姿とはまるで別人のように鋭い目をギラつかせ、ジャックはコランの首元にナイフを当てている。


「お前は最初から嫌なやつだなと思っていたよ。何か目的があってここに紛れ込んでたのは俺様の目からは一目瞭然だった。まさか警察のお友達に頼まれていたとはな。」


最初から嫌われていたのだから、コランが苦手意識を持つのも無理もなかった。ルイはまるで信じられないというような顔でコランとジャックの方を見ている。


「まさか……ジャックさんが人殺しだったなんて。じゃあ、団長もあなたが……」


「悪いけどあれは別の誰かだ。俺じゃない。男を襲う趣味はないのでね。」


口振りからして、どうやらジャックは愉快犯のようだ。自身の欲望のために犯罪を犯す。一番たちの悪い犯罪者だ。それにしてもこの状況をどう打開すべきか。コランは必死に頭を働かせた。こちらは何も武器を持っていない。使えるものが何もないのだ。まさに絶体絶命。諦め気味にコランが遠くの方に目をやると、そこには見覚えのある赤の派手なカラーシャツを着た男が近づいてきた。一瞬助けがきたと、コランは思ったが、やつは私服だ。きっと銃は持っていない。そして奴のことだ。


「お、いたいた…って、え、何これ。どういう状況?」


トムはなんの考えもなしに厄介ごとに近づいてきてしまう男だ。彼の行動はコランにはお見通しだった。コランはため息をついた。


「お前さんは警察のお友達だな。一歩でも近づいてみろ、潜入させたお友達の命はねぇぞ。」


「もう!お前はなんでいつもそうなのかな!!遠くからでも俺がやばいってことはわかっただろう。もっとこう…こっそり近づくとかよ、できないかな!!」


コランはトムに向かって怒鳴った。


「いや、そんなこと言われてもな。まさかこんなことになるとは思わないじゃん?」


どこか冷静な彼にコランは少し腹が立った。こんな観察力皆無な男がよく警察なんて職業やっていると思う。人数が一人増えたところで状況は何も変わらなかった。


「それじゃ、順番に殺していくか。見られちまった以上、生かしておくわけにはいかないからな。」



ルイは目に涙をいっぱいに溜めていた。驚きと恐怖が涙と表情に現れていた。ジャックは持っているジャグリングナイフをコランの腹部にでも突き刺すつもりなのか、手を頭上に振り上げた。せっかく犯人が分かったのに、犯人に殺されてしまうなんて情けないと、コランはジャックに囚われながら天を仰いだ。

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