6. 転生者の集い



 「そんな……まさか……」

 

 セルナさんがヨロヨロと、後ろに下がる……と、思いきやガバっと俺に抱きつき泣き始めた。あれ!? こういう時って口に手を当てながら下がって「嘘……」とか言うんじゃないの!?


 「まさか向こうを知っている人に会えるなんて、しかも知っている人……」


 「ま、まあ、すごい偶然だよな! げ、元気だった? っていっても宿がこの有様じゃ何ともいえないか」


 ……偶然、自分で言った言葉だが酷く違和感があるな……まさかとは思うが……。


 「ええ……少し、外に出ませんか? ここだと誰に聞かれるか分かりませんから」


 「そうだな、いい所があるかい?」


 「はい! コーヒーはありませんけどね!」


 「はは、そういやあの時も飲んだっけ」


 俺達は宿の外に出て話しを続ける。


 セルナさんの歳は15歳。俺より先に転生したが、生まれたのは俺の一年後だったようだ。で、生まれて10歳くらいまでは幸せに暮らしていたそうで母親も健在。特に不自由なく暮らしていたが、あのホテルが建ってから客足が減少。無理をしたせいで母親が病で倒れてしまったそうだ。元々体が強い人では無かったらしく、12歳の時に他界してしまった。


 従業員も雇えなくなり、それから二人で頑張ってきた所にあの成金が結婚話を持ちかけてきた、そういう事らしい。

 正直、一般市民と比べたら見た目がかなりいい。サーニャやアモルのような貴族階級レベルの可愛さである。成長して目をつけてきたというわけだ。


 「……でも、あの人もう30近いんです……。前髪も後退しているし、確実にハゲますよね……」


 言い方!? 


 「まあ……そうだろうな……」


 「でも先日、女神様から神託がありまして、家族でやってくる貴族の方に見初められれば幸せになれる……そう聞いたんです。いざと言うとき助けてくれる方で、私はもうこれしかないと……」


 胡散臭い……俺は神託と聞いて即座にクソ野朗を思い浮かべる。しかし、セルナさんへ声をかけてくるのは女神……女性のようで、しかもかなり信頼している様子。本当に不憫と思って、お金だけはある俺と結婚させようとした可能性は十二分にある。


 「……なるほどな……そういう事なら、結婚しなくても援助はしたいところだけど、今度は俺の話しを聞いてくれるかい?」


 「? あ、はい。改めて考えると貴族の息子って凄いですよね! どんな生活をしてるんですか?」


 俺は生活に不満が無く、家も良好で、向こうの世界の知識を使って開発をしながら生活している事を話す。そして一番重要なオルコスについて感情を込めて話すと、セルナさんが引き気味に同情してくれた。


 「それは……何ていうか……酷いですね……」


 「だろう? 今もこの会話を聞いているかもしれない。あのスライドショーを見ていたときにあったスイッチを覚えているか? あれで相互通信を可能にしているらしい。で、セルナさんの話しを聞いてあいつはやっぱり過剰干渉しているのが明らかになった……もしかしたらここに転生者のセルナさんが居るから誘導されたのかもしれない」


 「あ、そういえば女神様の神託の時に、男性の声が聞こえたような……」


 マジか。それがオルコスならこの出会いは限りなく黒だ。セルナさんが俺と結婚するために既成事実を作ろうとした事態、罠の可能性が高い。


 カチッ


 ……来たな。


 <お久しぶりですねクリスさん。おや、可愛い女性と一緒ですね? 口説いたんですか?>(棒)


 「ああ、今ので確信した。セルナさんの担当と共謀して俺をここに導いたな? 火山を餌にして」


 「? どうしたんですか?」


 急に独り言を呟き始めた俺を不思議がり上目遣いで見てくるセルナさん。う、可愛い……惑わされるな俺……。


 「ああ、例の俺担当の神が話しかけてきた。これも弊害でな、話しかけてくる頻度が多いから家族には少しおかしい人扱いされているんだ。で、今日は何のようだ?」


 <いえいえー。たまには様子を見ないといけませんからね? ご家族から結婚の話もありましたし、その方は如何ですか? 超好みでしょう?>


 「それよりも、だ。セルナさんも転生者だと聞いた。それに女神にあまり話しかけられなかったと言っているぞ? お前は過干渉なんじゃないのか?」


 <……その娘の担当がやる気ないだけですよ、私は普通です……>


 「……」


 「あ、あの?」


 俺は少し考えてセルナさんを抱き寄せてからオルコスに言う。


 「なるほどな。お前が関与していないなら、別にいい。俺はこれからお楽しみだからとっとと消えろ」


 <ほう! そうですか、それはお邪魔してはいけませんね! では頑張ってください!(私のために)>


 カチッ



 行ったか……。


 「ごめんね、ちょっとうっとおしいヤツを排除したかったから」


 「大丈夫ですよ! ……ちょっと嬉しかったですし」


 「ん? なんて?」


 「難聴ですか!? もういいです! それより火山に行きたいって言ってましたけど、何をするんですか?」


 「ああ、さっきのやりとり……は、聞こえていないか。俺はあいつから事あるごとに話しかけられてうんざりしているんだ。だから……死に場所を探している」


 「何だかかっこいい言い方ですけど、自殺したいんですか!?」


 「声が大きい!」


 セルナさんの口を塞ぎ、辺りを見るが誰も居ないようで俺はホッとして解放する。


 「げほ……そうですか……それじゃあ私との結婚は絶望的ですね……」


 「そう、だな。すまないが……」


 「いえ、いいんですよ。真さん……いえ、クリス様にも都合がありますし、私みたいな田舎娘じゃ釣り合わないと思います! それじゃ、私お夕飯の準備をしないといけないので戻りますね!」


 そう言って宿へ戻っていったセルナさんは、泣いていた気がした。


 「……俺も戻るか……」


 結婚はともあれ、知り合いをこのままにしておくのは寝覚めが悪い。というか、あの成金野郎とどうして結婚しなければいけないのか。俺はそれを知る必要があると思った。


 だが、俺の人生はここから変化が訪れることになるのだが、この時の俺はまだそれに気づいていなかった。






 「クリス様……(え、何? 転生者? それにあの子も? 神様の声が聞こえるって言ってなかった? どういうこと……? ううん、それよりクリス様は火山で自殺を考えている……? お、奥様へ知らせないと!?)」








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 <あの世>



 <フフフ、悪くない流れですね。クリスの性格からいってあの娘を見捨てる事はできないでしょう……>



 オルコスはセルナが転生者だと知られた時点で、あえて声をかけることで疑惑を確信に変えさせた。計画されたものと分かれば罠と考えるだろう。

 だが、罠と分かっても同じ転生者を無碍には出来まいと考えたのだ。セルナが転生者だとばれる確率のほうが高かったため策を二重にしていたというわけだ。


 <さて、お楽しみを邪魔するのはさすがに私といえど出来ませんね。そんなことをしてますます自殺願望に火がついても面白くありませんし……>


 ブツン、とモニターを切るオルコス。


 <ハイジアのところにでも行きましょうか>



 オルコスは酒とつまみ(チーズ)を持ってハイジアの部屋を訪ねる。しかし呼び鈴を何度鳴らしても出てくる様子が無い。


 しばらくドアを叩くなどしていると、隣の住人がガチャリと出てきてオルコスへ告げる。


 <あれ? そこの人、最近引っ越したよ?>


 <……なんですって? どこに行ったかは……?>


 <はは、アタシが同性でも知り合いでもないのに行き先は言わないだろうさ。まあ居ないから諦めるんだね>


 <……どうも>


 オルコスはそれだけ言って部屋の前から立ち去った。


 <……仕方ありません、一人で飲みますか>



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 セルナのこれまでの生活を知るクリス。


 自殺したいクリスがセルナにできる事はあるのか?



 そして柱の影で話しを聞いていたフィアは一体どうしてしまうのか?



 次回『奔走するクリス』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。

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