7. 家族会議と成金野郎


 <宿:二階 女性部屋>



 「……もう一度言ってくれる?」


 「クリス様……異世界からの転生者、火山で自殺しようとしています……」


 「フィアがこんなに長い言葉を……!?」


 クリスの母、シャルロッテがフィアの言う事を理解できず、もう一度聞き返す。アモルはフィアが単語以外で喋っている所を初めて見て驚きの声を上げていた。そしてベッドでは……。


 「(あれ!? フィアにばれておるぞクリス!? どどどどうするんじゃ……)」


 昼寝をしていたクロミアが丁度目を覚ました時、フィアの言葉が聞こえ、慌てて寝たフリをした。音を立てないようにしつつ、聞き耳を立てる。


 「ふう……パパとウェイクを呼んでくるわ。少し待ってて」


 シャルロッテは重い腰を上げ、マーチェスとウェイクを呼びに部屋から出る。隣なのですぐに二人を連れて戻ってきた。シャルロッテからフィアから聞いた事を二人にも告げ、一家の空気は重くなる。


 「……どうするか……」


 「まさかクリスが……」


 異世界からの転生者など怖いに違いない……しかし隠しておく事はできなかった……フィアは目を伏せて悲しそうな顔をする。


 「自殺を考えているなんて……」


 「ええ、私達、何かあの子にしたかしら……」


 「え!?」


 え、そっち!? と、フィアはバッと顔を上げて驚く。普段は感情が表に出ないフィアだが、この時ばかりは驚いていた。


 「奥様……(ちょ、ちょっと!? 転生者ですよ転生者! 何かこう、変だなとか怖いとか気持ち悪いとかないんですか!?)」


 「え? あの子は間違いなく私が産んだ子よ? もしかしたら前世の記憶は持ってるかもしれないけど、クリスはクリスよ。逆にあれだけ研究できる理由が分かったからすっきりしたくらいね」


 「うむ。クリスが誕生して16年。転生者も前例が無いわけではないしな。まあちょっと開発が行き過ぎな気はするが、前世の事を話すわけでもないし、私達を家族と認識しているから大丈夫さ。血は繋がってるし」


 「旦那様……(マジですかーい! 優しい! 優しすぎるよこの一家!? でもまあ言われて見ればクリス様はクリス様なんですよね。あ、今なんか納得できた気がします)」


 ルーベイン家の空気は緩い。フィアも感化され、転生者という事象はあっという間に流された。


 「転生者とかクリス兄さんますます凄いなあ……」


 キラキラした目でここには居ない兄を思うウェイクしかし、アモルの言葉で再び空気は重くなった。


 「それはもういいですけど、お兄様の自殺願望はどうしますの?」


 「それだな……どうするか……」


 うーむと全員で考え込むがいい知恵は浮かばない。こういう時意見を出すのはいつもクリスだった。だが、今回はそのクリスが当事者なのだ。するとウェイクが口を開いた。


 「みんなで遠まわしに探るしかないと思うな。デューク兄さんなら得意そうなんだけど……」


 「それしかないか。よし、いつもクリスには色々やってもらっているから旅行中は労うとしよう! いいなみんな」


 父、マーチェスの言葉に頷く家族一同。クリスにとって少しだけ長い夜が始まる……。


 「(この家の家族はみんな優しいのう……わらわも入り浸っておるのに文句一つ言われた事が無い……何かお返しをせねばならんのう)」


 



 ---------------------------------------------------



 <ホテル:アプスタート>




 「……来ない……まさかセルナの宿に行った……? そういえばあの貴族一行の先導者は若い男だったな。セルナを狙って行ったと考えるが自然か。いや、でも家族が承諾するか?」


 ヨードは支配人の部屋で先程出会った家族を思い返していた。貴族といえば見栄を張るのが一般的。なのでボロい宿を選ぶのはお金の無い平民が殆どなのだ。


 「別の宿に行った可能性もあるが、あの男がセルナを狙っているとすればうまくないな」


 そう呟くとイスから立ち上がり、使用人が集まる部屋へと向かう。


 「入るぞ」


 ノックもせず中へと入るヨード。


 「へっへ、俺の勝ちだ。もらうぞ」


 「ちぇ! またサイゴの一人勝ちかよ! イカサマやってるんじゃねぇだろうな?」


 部屋では四人の男達がカードゲームに興じており、サイゴと呼ばれた男がヨードに向き直り、挨拶をしていた。


 「ヨードさん、どうしたんですかこんなむさくるしい所へ?」


 「ちょっと頼みたい事があってな……」


 するとサイゴは口元を歪めながら目を細める。この男、金についての匂いが利き、儲け話や賭け事で「マズイ」と直感が働くのだ。それが今は「いい方」に向いていると告げていた。


 「荒事ですかい? 殺し以外ならやりますが……」


 「そうだな……俺が狙っている女の宿、パーチを調べてきてくれ。貴族が泊まっているかどうか、もし止まっているなら男が一人いる。そいつの動向を探ってくれ」


 「お安い御用でさ。女はセルナでしたか、#どうしますか__・__#?」


 「……お前に任せる。いけそうなら……攫え」


 「へへ……お代は弾んでもらいますよ」


 いやらしい笑いを浮かべてサイゴは部屋から出て行った。


 「(さて、それはそれとしてもう一つ策を張っておくか……)」


 

 ---------------------------------------------------



 ついに転生者だと家族にばれたクリス。


 しかし、それよりも家族はクリスの真意を確かめるべく行動に出る。


 そして、今回登場しなかったクリスとオルコスは今?



 次回『不穏な空気』



 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る