7. ドラゴン

 「ふう……ふう……」


 「ふう……休憩するか」


 「う、うん!」


 オークの村を出て早数時間、気温は低いが歩いているので汗をかく。休憩を挟んでは汗を拭きとり、水分を補給しながら少しずつ山頂が近づいてきた。


 「んく……んく……ぷは!」


 「あまり一気に飲むとお腹に来るぞ」


 「分かったわ!」


 「そういや、お前オーク村で身分を明かしていたけど今後は気をつけろよ?」

 山頂も見え、かなり気が楽になってきたので気になっていたことをサーニャに告げる。


 「え? どうして?」

 やはり分かっていない様子だな……。


 「俺もそうだが、俺達は格好の金づるだ。誘拐でもして身代金を要求するにはもってこいの人材なんだぞ? あのオーク達が実は悪い奴等で、身分を明かした途端お前を盾にして町を襲い始めたりしたらどうする?」


 サーニャは「あ!」と小さく呻いて、事の重大さに気づいたようだ。


 「うん、ありがとう。気を付ける! クリスは優しいな!」


 「そんなことは無いさ、常識の範囲内ってやつだ。さ、もう少しだ……」


 何故かニコニコしながらついてくるサーニャ。

 まあ、ドラゴンにもうすぐ会えるからな。聖水で親父さんを助けられればいいが……。


 


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 そしてここが問題の山頂!



 うっすらとすり鉢状に真ん中が少しだけ窪んでいたが、平野のように広々としており眺めがかなり良い。

 ちょっとした湖があるのでもしかしたら昔は火山だったのかもしれないな。


 しかし眺めがいいのは良い事だが……。


 「誰もおらん……」


 見渡しても人影は無し。


 「やっぱり、噂だったのかな?」


 「いや、オーク達は見たと言っていたし、あいつらが嘘をつくとは思えない。もしかしたらどこか散歩にでも行ってるだけかもしれないから少し待ってみよう。キャンプ道具があるから二晩なら何とか待てるぞ」


 「ホントに! 待つ待つ!」


 まあ親父さんの危機だ、これくらいはやるだろう。食料多めに持ってきて良かったな。

 ニック達も持たせてくれようとしたが、村の大事な食料をもらうわけにもいかないのでそこは辞退した。


 「じゃあ火をおこすところから……」


 「あたし魔法使えるよ? はい!」


 集めた枯れ木に火が一瞬ついた。

 俺には魔法を使う才能が無いので羨ましい……。家の中で魔法が使えるのは母さんとアモル、そしてウェイクの三人だけだったりする。母親の遺伝が濃くでたのが双子だったようで……。

 一応練習すれば使えるらしいけど、死ぬことを考えていてまるで身が入らなかったなあ。


 「へへへ、あたしは先生にも褒められたことがあるんだ! 火と風は得意だよ!」


 「剣の腕はからきしだけどな!」


 「い、いいじゃない! あんまり剣を持ったことなかったんだから……」


 「はは、まあこれに懲りたら危険なことはするんじゃないぞ?」


 「うん……でもあの女はどうしよう……」

 さっきまで明るかったが、帰るのはやはり気まずいようでしゅんと肩を落としてしまった。

 うーん、ディアナ……ディアナねぇ……あ!?


 「思い出した!」


 「!? ひえ!? ど、どうしたの!?」


 「お前の義理の母親! ディアナってんだろ? もしかしたらポルタさんの家をめちゃくちゃにした女かもしれん! 山を降りたらウチの領に来れるか? ポルタさんと一緒に警護隊に事情を話して一緒にお前の家まで行くんだ。もしビンゴなら捕まえる事ができる……!」


 なんというウルトラC!


 「それがホントなら……お、お願いします! あたし達の家を守るために協力してください!」


 「ああ、ポルタさんは良く知ってるから俺が案内しよう」


 そうと決まれば話は早い。

 俺達は晩飯を食べ、今後の事を話しながら眠りについた。しかし俺はここで重大なミスを犯していた。そしてそれに気づくのはまだ後である。



 そして……







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 ごそごそ……


 ベリッ! むしゃむしゃ……


 「こ、これはうまいのじゃ……!」


 んあ……? 何かごそごそ音がするな……


 テントはサーニャに引き渡し、俺は外で寝袋を使って寝ていた。

 まだ明け方もいいところで、外は暗い。たき火の明かりだけが頼りだが、その明かりの隅に何か蠢いていた。



 むしゃむしゃ……


 「むほっ! これも中々……」


 「だ、誰だー!?」


 「ひい!?」


 俺が叫ぶと、うずくまる人影が慌てて立ち上がり、ステン! とこけていた。

 恐る恐る近づくと、どうやら女の子のようだった。


 「……大丈夫か?」


 「う、うむ……いきなり叫ぶのではないわ! びっくりするじゃろ!」


 「おう、すま……ん?」


 足元を見ると、俺のカバンが荒らされており、そこかしこに食い荒らした跡がある!

 

 「お前!? 俺の食料を食ったな!?」


 「うん? ああ、落ちていたやつか? 美味かったぞ!」


 「感想はきいてねぇよ!? あーあ、食い散らかしやがって……」


 俺はカバンを回収し、ごみをその中へ入れる。

 流石に散らかしたままではドラゴンも気分が悪かろう。ん? そういやこいつはどっから来たんだ?


 「って、お前は誰なんだ? そんな軽装で……」


 「私か? 私はクロミアじゃ! ここに越してきたブラックドラゴンである!」


 「へえ、最近ここに。ブラックドラゴンね、カッコいいじゃん……ドラゴン!?」

 前髪ぱっつん黒髪ロングの女の子がVサインをして笑う。よく見ればお尻のあたりから尻尾らしきものが出ていた。


 「うむ、母上の住処へ一度戻っておったのじゃが、さっきこっちに帰ってきてな。腹が減っていたところに良い匂いがすると思って歩いて来たら……美味しかった!」


 「感想はいいって言ってるだろうが……。なるほど、やはり留守にしてただけだったか……ちょっと話があるんだが、ふあ……眠いな……またどこかへ行くか?」


 「いや、もう必要なものは取ってきたから50年くらいはここで過ごすぞ!」


 「そっか……じゃあもう少し寝かせてくれ……」


 「むう、折角帰って来たのに」


 「お前も少し寝たらどうだ……こんな明け方に帰ってくるんだから眠いだろ?」


 「そう言われればわらわも眠い気はする。よし、起きたら語り合おうぞ! そしてさっきの食べ物をくれ!」

 図々しい子! まあ、条件次第ではカバンごと上げても構わない。


 俺は再び眼を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。



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 サーニャと約束をするクリス。お前は死ぬんじゃなかったのか?


 それはそれとしてついにドラゴンと遭遇。食料を奪われたクリスが次に目を覚ました時、惨劇は始まる。


 そして、まったく出番のないオルコスはこのまま居なくなってしまうのか!


 次回『襲撃』


 ご期待ください。



 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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