6. あ、話は巻きでお願いします

 

 一通り村を見て回ったが、のどかな村は俺にとってかなり居心地のいい空間だった。

 畑仕事や子供の世話など、田舎の日本を見ているようで心が落ち着く。見渡してもオーク頭ばかりだが……。


 サーニャも段々慣れてきたようで、ミニブタ……もといオークの子供と遊んでいたりする光景を見る事が出来た。元来優しい性格何だと思う。


 何だかんだでゴブリン達と同じで知性があり、言葉が通じるからやって行けるのだ。

 これがマンガやラノベのようにぶひぶひしか言わなかったら俺もサーニャを助けて逃げるだろう。


 「いかがでしたか?」


 ニックがウサギ肉の串焼きを俺達に渡しながら聞いてくる。


 「いい村だな。穏やかだし、周りが山なのもあって静かなのも好印象だよ」


 「あたしもそう思う。ごめん、いきなり斬りかかったりして」


 サーニャが頭を下げて謝罪をした。うん、そういうのは大事だと思うよ。


 「いえいえ、分かっていただければ俺達は気にしません。……というより、サーニャさん。あなた、剣は素人ですよね? どうしてドラゴン退治など?」


 う、っと軽く呻き俯くと、ポツポツと話し始めた。


 「……あたしは、イスマット領の……領主の娘なんだ。最近お父さんがディアナって女と再婚したんだけど、その女が来てからお父さんの体の調子が悪くなって……きっとあの女が毒を盛ったんだ!」


 ディアナ……はて、どこかで聞いたような? 尚もサーニャの話は続く。


 「いよいよ起き上がれなくなったお父さんなんだけど、噂で『ドラゴンの聖水』ならどんな病気も治せるって聞いたんだ。それでこの山に来たんだよ」


 「なるほど……で、その恰好は?」


 「これはその話を教えてくれた人、といっても執事なんだけど、その人が用意してくれたんだ。かならず聖水は持って帰るって約束して見送ってくれたんだ」


 これは……残酷なようだが、俺には思い当たる悪い予感があった。


 「……その執事とディアナとやら、臭いですな」


 先にニックに言われた!


 「だな、父親を毒殺して、お前は魔物の餌という訳だ。オークがお前が聞いた魔物だったら今ごろ帰らぬ人。そして父親は死亡し、お前は行方不明だが、その内死亡扱いになる。その鎧の露出が高いのは防御力を下げるのと魅了効果だろうな……」


 「そ、そんな! ウェルトンが……」


 ウェルトン。執事の名前だろう、昔から仕えていたとかそういうのかもしれない。気の毒だ……。


 「サーニャ、お前は帰った方がいいんじゃないか?」


 「ううん、どうせ帰ってもうまく言いくるめられそう……。それよりドラゴンが本当に居るみたいだからあたしはそっちに賭けてみるよ!」


 「うう、ぐす……そんなことがあったんですね……」


 「何とかしてやりたいのう……じゃがオークは基本的に丈夫じゃから毒を治す薬とか無い……」


 村長とニックは悔しそうに号泣していた。一番怖いのはやはり人間なのだろうか……。


 「それにしてもイスマット領のお嬢さんとはな。俺は舞踏会とかデューク兄さんに任せっきりだったから他の領地のことを知らないな……」


 「ん? クリスも貴族なの?」


 「俺はクリス=ルーベイン。ルーベイン領の次男だ、まあ次男だから悠々自適な生活をしてるけどな」


 「どうしてまたクリスはドラゴンに?」


 「あー……お前の話を聞いた後で悪いが、それは話せない。ドラゴンに会った時にでも話そう」


 「? う、うん」


 俺の話は信じてもらえるかは分からないし、オーク親子がまた泣き出しそうなのでとりあえず黙っておく。

 いつオルコスが出てくるかもわからないので、これがいいだろう。


 「ぐす……さあさ、こっちの野菜汁も召し上がってください。明日は少し遅めでも山頂には辿り着けるでしょうけど、油断は禁物です。栄養をつけて早めに寝ましょう!」


 何故か俺達よりやる気のニックたちと楽しい食事を終え、俺とサーニャは藁を布に詰めた布団で就寝する。

 冷えてきていたが、この藁のおかげで快適だ。


 それでも何となく寝つけず、ゴロゴロしていたらサーニャに話しかけられた。


 「……起きてる?」


 「おう、まだ起きてるぞ」


 「……さっきはハッキリ言ってくれてありがとう。頭に血が上っていたから目が覚めた気がする……」


 「ま、味方が居ない状況だと仕方ないわな。ドラゴン様に期待しようぜ」


 「そうだね。そっち行っていい?」


 「え!? いや、うーん……」


 「ダメかな?」


 しょんぼりした声が聞こえて来たので、俺はサーニャを招き入れると嬉しそうに布団に入って来た。

 アモルより少し年上かな? という容姿なので14か15歳くらいだろう。


 「妹を思い出すな……」


 「妹居るんだ、いくつ?」


 「10歳だな、俺と6つ離れている」


 「ふーん……(16歳……あたしと2つ違いか)」


 「それじゃそろそろ寝るぞ、明日は山頂へ行きたいからな」


 「分かった、おやすみ」


 昼間あれだけの剣幕でくっ殺を言っていたとは思えないくらい静かになったサーニャはやがて寝息を立てはじめた。その寝息を聞いて俺も眠くなり、意識を手放すのだった。



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 翌日


 「世話になったな、また機会があれば来るよ」


 「色々ごめんなさい、今度お詫びに来るから!」


 「はは、お待ちしていますよ! ここから、真っ直ぐ登れば山頂です。以前村を作る時に山頂まで足を運んだことがあったのが役に立ちましたね」


 山頂まで、踏みならした道が出来ており、今までと比べて格段に歩きやすそうだった。

 これなら体力を消耗せず登ることができそうだ。


 「後はこのケープを。途中急に寒くなるので、サーニャさんには必要かと思います。それではお気をつけて!」


 「ありがとう! またな!」


 俺達はドラゴンの居る山頂へと再び登り始めるのであった。



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 「行ってしもうたか……」


 「はい、父さん」


 「あいつらに事情を話して協力してもらっても良かったんじゃねぇか? ドラゴンに会ったら多分二人とも殺されちまうぞ?」

 横にいたサッドがニックに目を向けて聞いてみると、ニックは首を振って答えた。



 「彼らには彼らの事情がある。それにこの村のことで迷惑をかけたくない。……また来てくれる、か。その時までに村があるといいんだが……」


 「……」


 「さあ、暗い顔は無しだ。いつヤツラが来るか分からないからな、準備は怠らない様にしておこう!」


 「あーあ、今日も見回りか……」


 クリスたちを見送ったオーク達。



 だが、その様子を見ている影が林の中に存在していた!

 

 「ブルフフフ……」


 オーク達に迫る謎の影、彼らは一体何者なのか!!





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 サーニャの事情を知ったクリス。今の自分に出来ることは無いとドラゴンを一直線に目指す。


 気のいいオーク達が困難に巻き込まれることも知らず、ただひたすら登り続けるのだ。


 そして現れるドラゴン。聖水はあるのだろうか?


 次回『ドラゴン』


 ご期待ください。



 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。

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