第5話 静寂の夜


「電話が掛かって来るのって、いつもは何時頃なんだ?」


 夕方になり、陽が水平線に沈もうとしている頃、脇岡が星に尋ねる。


「うーん、それがまちまちなんですよね……。早ければ10時位に掛かってきますし、そうじゃなければ2時とか3時とかの時もあるんで」

「そっか、うーむ……」


 脇岡が難しい表情をして、腕を組む。


「いつも決まった時間に何かあるというのなら、何かしらの仕掛けがあるんじゃないかと思ったんだけどな……。一体、誰が何の為にこんなことをしていると言うのだ?」


 2~30分ほど前には、「通報元を調べた結果、サイバー犯罪の様にどこかのサーバーを経由して電話を掛けた形跡は無い」という報告が届いた。ニュースでも取り上げられて、一時はインターネット検索でもトレンド入りしたことから模倣犯の可能性も考えられたが、その線は薄くなったということである。


「まあ、何か仕掛けられた形跡は無かったですしね……」

 星も難しい表情になる。ここの電話は衛星電話ではなく電話線を用いたものだから、外から何か電波を飛ばしてここから掛けていると錯覚させるのも難しい。


「しょうがない、今日は交代で起きて、見張り番をしましょうか」

「そうだな、そうしよう」

「りょ、了解です……」


 星の提案に、脇岡と溝上が頷く。もっとも、溝上は肯定した、というよりも断ることが出来なかった、という感じだったが。


 まあ、そんなこんなで、この薄気味悪い小屋での夜が始まった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ——今日は新月、なのか……


 仮眠に入った星と脇岡を横目に、溝上が窓から外を覗く。この日は新月、すなわち月が出ない夜だから、月明かりが無い。だから、星の明かりがあるとはいえ、ほとんど外の様子は見えない。だが、それほどまでに暗いから、文字通り満天の星空を何にも邪魔されることなく満喫出来る。人工物の光は、遠くの方で航行している船の明かりくらいだ。


 波がざざー、っとすぐそこの岸壁を洗う音と、時折通り抜けていく音だけが聞こえる。静かな夜、というのはまさにこういう夜のことを言うのだろう。



 その時だった。


 RRRRRR……


 夜の静寂を切り裂いて、電話のコール音がけたたましく響きだした。

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