第6話 電話

 コール音がプレハブ内に響き渡る。寝ていた2人も飛び起きて、電話を見つめる。


 全員、驚いて声が出せない。掛かりやすいだろうと言う理由で受話器はあえて外しっぱなしにしていたからそこについての疑問は無いものの、指1本電話に触れていないのにいきなり鳴り出した理由が分からない。


「で、出てみますか?」


 震えた声で、溝上が問う。


「いや、俺が出よう。捜査なら警察の領分だ」


 そう言って、脇岡が受話器に手を掛ける。


「あ、脇岡さん、スピーカーにして貰っても良いですか?」

「おう、そうだな。皆で聞けた方が良いよな」


 脇岡は受話器を取ると、星の求めに応じてスピーカーのボタンを押す。


「もしもし……」

「灯台の電球が切れています。交換して下さい。灯台の電球が切れています。交換して下さい。灯台の電球が……」


 無音の室内に、自動音声が響く。


「これって……」

「じ、自動音声、ですよね……?」


 「灯台の電球が切れています」、と何度も繰り返される音声に、3人が固まる。


「え、これってどこから掛かって来てるんですか?」

「えっとね……、あれ、これ相手の番号……、ダメだ、読めねぇ」


 昔から置いてある電話だから、相手の番号を表示する液晶がチラチラして何が表示されているんだか分からなくなってしまっている。


「ちょっと待っててくれ、俺が持ってきた荷物の中に逆探知の機械が入ってるからさ」


 脇岡はそう言って、車から降ろしてプレハブに持ち込んでいたスポーツバッグから、ガサゴソと機械を取り出して、あれこれ配線を繋ぐ。


「……あれ、この小屋ってどこにコンセントあるの?」

「え、この小屋、電気なんか来てないですよ? 灯台には電気来てるはずですけど、この小屋と灯台の間を繋いでた電線は何年か前の台風の時に切れたはずです。もう使わないだろう、ってことで繋ぎ直すことはしなかったって聞いてますよ」

「参ったな……」


 脇岡がどうしよう、と頭を掻く。

 星には垂れ下がったままだと危ないからという理由で電線を撤去した、もう使わない小屋に電気を引っ張ってもしょうがないから新しいのを繋ぐことはしなかった、という話を何年か前に電力会社の担当者から聞いた記憶があった。


「じゃあ、玄関先までランクル持ってきますよ。その機械、さすがに電子レンジとかより電気食うってことは無いですよね?」


 溝上が腰にカラビナでぶら下げていた車のキーを手に取る。


「あ、ああ。頼む」


 脇岡が溝上に向かって手を挙げると、溝上は急いで車に向かう。


「灯台の電球が切れています。交換して下さい。灯台の電球が切れています。交換して下さい。灯台の電球が……」


 自動音声の声が途切れる気配は全くない。

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