2-4

「うわぁ、すごい‥‥」


 僕は教室に入るなり、そう感嘆の声を上げた。僕の視線の先、教室の窓の外では、中庭にそびえ立つ一本桜が、その枝をいっぱいに伸ばし、満開に咲き誇っていた。春の訪れを感じさせるその優美な景色に見惚れる僕を見て、中山が得意そうに笑う。


「すげえだろ?2年は教室が3階にあるから、ただでさえあの桜の見栄えがいいんだけどさ。4組は桜の真ん前にあるから、特にきれいに見えるんだよな」


 なるほど。そういえば、1年生のときは教室が1階にあったから、桜を教室から見上げるかたちになってしまって、桜の幹しか見えなかった。でも、今年僕らは2年生。教室がこの学校の最上階である3階に位置している。そのおかげで、桜の幹ではなく、桜の花をおがむことができたわけだ。

 それにしても‥‥


「中山はなんで4組が桜の絶景スポットだって知ってたの?3階に来ることなんてあったっけ?」


というのも、中山は僕と同じ帰宅部で、先輩という存在がいない。それに、きょうだいが同じ学校にいるわけでもなかったから、3階の教室とは無縁の学校生活を送っていたのだ。


「....あー、実はさ、俺──」


中山が理由を言い終わらないうちに予鈴が鳴った。クラスメイト達が一斉に自分の席へと戻る。


「あ、やべ、俺たちも戻るか」

「う、うん」


クラスメイトの後を追うように、僕たちは急いで席に座った。中山が何を言おうとしていたのか気になって、昨年と変わらず前に座る中山の背中を見る。すると、ふいに中山がこちらを振り返った。切れ長の綺麗な目と視線がぶつかり、僕は一瞬たじろぐ。


「陸、さっきの話の続き、放課後まで待って。俺にも心の準備が必要だから」


そんな壮大な話してたっけ?

中山の気持ちが分からずに戸惑うぼくを後目に「じゃ、放課後な」とだけ言い残して、中山は再び前を向いた。僕は中山の背中を見つめる。


中山が2-4に来たことがある理由、それを聞いただけ。その質問に答えるのに、中山は心の準備が必要‥‥?

ダメだ。やっぱりよく分からない。中山は僕に何を話そうとしているんだろう?実は、年上の彼女がいました、とか?でも、休日だってほとんど僕と過ごすのに、そんなことあるんだろうか‥‥。


一度考え出すと止まらなくて、僕は一日中そのことについて考えていた。大の苦手の自己紹介も、上の空で乗り越えた。自己紹介で自分のことを話しているときよりも、放課後中山が何を話すのかということの方に緊張を感じていた。

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あお @oorasen

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