第12話 プロローグ<黄泉の魔女と黒竜の騎士の真の邂逅>

 河原を覆う空は昼と夜の狭間にみせる幻想的な紅色に覆われていた。俺はかつてと同じ景色に昔を思い出した。


「逢魔が時ね、『黒竜の騎士』如月神矢」

「ああ、逢魔が時だな……あの日と同じだよ、『黄泉の魔女』黄泉坂紅」



 後ろからの声に俺は答え振り向いた。

 そこには銀色の髪に紅い目をした魔女がいた。フリルのついた可愛らしい服につつまれ、首には紅いレザーの首輪、とどめが背中の黒い翼だ。高校生になってお金が増えたのか、装飾が豪華になっている。

 うおおお、予想以上にすげえのがきた。厨二悪化してるじゃん。むしろ進化してるじゃん。ああ、だがこれこそが俺の知ってる紅だ。悪くない、むしろいい。



「今の私はただの黄泉の魔女ではないわ……黄泉の魔女モード:堕天といったところかしら。そういうあなたの姿……それが今の黒竜の騎士ということかしら」

「ああ、今の俺はただの黒竜の騎士ではない。黒竜の秘められた力を全て解放した状態だよ。本気の黄泉の魔女と会うのに俺だけ昔のままでいるのは申し訳ないからな」



 そう言って彼女は不敵な笑みを浮かべた。その姿は中学の河原であった彼女を彷彿させた。河原の水に俺の姿が映った。黒い髪に首と左腕にシルバーのチェーンをつけ、漆黒のマントに身を纏い黒と赤の剣を手に持つ俺がいた。これが本当の俺の姿だ。

 互いに自分の全てをさらけ出した俺達の……黒竜の騎士と黄泉の魔女の物語はこの河原から始まるのだ。



「全く……せっかく力を抑えようとしているのにこんな事を言われたら我慢できるわけないじゃないの」

「いいんだよ、紅。俺は本当のお前に会いたかったんだから……でも来てくれて本当によかった」



 彼女は少し拗ねたように俺にスマホをみせた。俺からのメッセージが書かれている。



『明日本当の黄泉坂紅に会いたい、逢魔が時に約束の地にて待つ。黒竜の騎士より』



 彼女が来てくれるかどうか不安だったが杞憂に終わったようだ。ようやく黄泉の魔女である黄泉坂紅と会えた。こんなに嬉しいことはない。こうして黒竜の騎士としての俺と黄泉の魔女としての紅は再会したのだ。



「当たり前でしょう、私は二度同じ後悔はしない主義なの。あなたをもう待たせたりはしないわ」



 そう言って決め顔をする紅は再会して一番輝かしい笑顔をしていた。中途半端に抑えようとしてたが、結局こういう厨二な部分も含めて紅なのだ。完全に自分を解放したであろう彼女はこれまで以上に魅力的だった。


「本当はね、私はもうあきらめていたの、私たちはいつまでも夢をみてはいられない。私はいつまでも黄泉の魔女ではいられないの……いろいろな人に言われたし、お姉ちゃんにも言われたわ。だから、転校を機にがんばろうって思っていたのよ。何かが違うと思いながら……私の中の黄泉の魔女が、あなたは本当にこれいいの? 楽しいの? っていうのも聞こえないふりをしながらね」



 彼女は俺の顔をじっとみつめながら独白を続けた。その瞳には少し不安があった。俺は彼女の目から視線をそらさず頷く。



「多分あなたに再会しなかったら、私は少し寂しい思いをしながらも黄泉の魔女ではなくなったかもしれない。これでいいんだ。みんなそうだからって言い聞かせながら黄泉坂紅は消え、完全に田中幸子だけになれたかもしれない。でもあなたにこんなこと言われたらもう、自分をごまかせなくなっちゃうじゃない……どう責任とってくれるのよ」

「簡単だよ、俺に君と共に歩ませてくれ、黒竜の騎士は黄泉の魔女と共に歩むことをここに誓うよ」

「本当にいいの、私はこういう女よ、私は自分の本心を知ってしまった。もう我慢しようとしてもできないわ。ひょっとしたら高校どころか大学生になっても治らないかもしれない。あなたはそんな私といても恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいわけないだろう、お前も知っているだろう、俺の厨二もかなりのもんなんだぜ。黒い紅も白い紅も黄泉の魔女としての紅を俺は知っている。俺はそれを知ったうえで一緒に歩む事を選んだんだ。それに後悔していたのはお前だけじゃないんだ。あの日から紅がこなくなっても毎日ずっと河原で待ち続けていれば会えたんだ……だから俺はもう後悔しないようにお前の同胞として横を歩きたい」

「そう……たった一人でも黄泉の魔女を肯定してくれるなら期待は裏切れないわね。『黒竜の騎士』如月神矢よ、同胞として共に歩みましょう」



 こうして本当の意味での俺達の再会が終わった。黒竜の騎士と黄泉の魔女の誓いは成ったのだ。談笑しながら紅が作ってきた全体的に黒色の弁当を食べていると思い出したかのように紅がつぶやいた。



「そういえば私とずっと一緒にいるとか言ってたけど、他の女の子と遊んだりしにくくなるんじゃない? なんか手馴れた感じだったし結構女の子と遊んでるんじゃないの? 私は初デートだったのにね」



 なにいってるんだ、こいつ……俺だって女の子とデートなんて……いや恵理子とは結構遊んだりしてるな……俺が言いよどんでいると紅の目がどんどんきつくなる。やべえ、メデューサに睨まれたみたいだ。睨まれたことないけど。



「ふーん、どうせ中学の時好きだった女の子と遊んだりとかしていたんでしょう……その子とは会えなくなったて聞いてるけど再会できたら私なんかどうでもよくなるんじゃない?」

「なんでそのこと知ってるんだよ……てか今再会してるじゃねーか。」

「えっ?」

「えっ?」



 あれ、俺やっちゃった? 睨んでいた紅が急に赤くなり目をそらされた。うおおおおおおおお、くそみたいな流れで想いがばれた。今すぐ死んで異世界転生したい……

 彼女はしばらくあわあわしていたが俺をみると意地の悪そうな笑いを浮かべた。



「ふーん、あんたが好きだった人って私だったのね、まあ、私は美しすぎるから惚れられるのも無理はないわね」

「うるせー、昔の話だ昔の!! さっきまでぐだぐだ自虐的な事言ってたくせに調子にのるなよ!!」



 ぎゃーぎゃー叫びながら俺達は河原で騒ぐ。そう、俺達はこれでいいのだろう。

 そしてこれからが『厨二時代の可愛い女友達と高二になって再会したら亡き者にしようとしてきたので付き合うことにした』俺の物語のはじまりだ。





 紅との真の再会が終わり俺は帰路についた。多分俺達は表立っては厨二を隠しながらも二人で仲良くやっていく事になるだろう。さすがにね、俺も高校生だからね、幻想と現実の区別はついてきてるよ。認めたくはないけどね……でも紅といるとそんな事はどうでもよくなる。今思えば恥ずかしいことをかなり言った気がする……



「あれ、でも俺告白してなくない? いや、共に歩こうとは言ったけど……あれ遠回しな告白のつもりだったんだけど絶対通じてないよな……あの雰囲気なら普通に告白してもオッケーもらえそうじゃなかった……?」



 自分の発言を思い出していて致命的なことに気づいてしまった。やらかしたーー!! なんであのタイミングでちゃんと告白しないんだよ、俺!! あほじゃねーか!! 厨二っぽく告白はしたつもりだが、紅的にははあくまで厨二友達として一緒にいようって感じだったかもしれない。だって同胞として認めるとかいってたもんな。恋人としてではないもんな。なんだよ、同胞ってどんな関係だよ!!

 それに昔好きだったって言った時も微妙な反応だったし……こんな時は沖田に相談だ。あいつならなんか解決策を思いついてくれるかもしれない。

 必死にラインをするが全然でねええ!! あ、返信きた。



『ごめん、今忙しい』



 あーソシャゲかー、そういや、夕方からイベントとか言ってたな。俺はどうすればいいんだろう。俺は明日から紅と会うときにどんな顔をすればいいかわからず途方にくれるのであった。





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「今日は本当に最高だったわね、ねー、コキュートス」



 帰宅した私はペンギンのぬいぐるみに話しかける。帰ってきたときにおねえちゃんと鉢合い、まじかこいつ……みたいな顔をされたので後で説教されるのは間違いないが、今は幸せな気持ちでいっぱいだ。しかし、彼氏か……これからどう接すればいいのだろうと思ったところで私は気づいた。

 あれ、告白されてなくない? 共に歩こうとか、昔好きだったとかは言われたけど、今どう思っているかは聞いていない。だいたい共に歩くってどこに行くのよ、約束の地? どんな関係で歩くのか聞いてない……普通好きだったらあの流れで告白するわよね……でも好きでもない人に一緒に歩こうとかいうのかしら。神矢なら言うかもしれない……彼は優しいから……



「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ、もう中途半端に気を持たせて!! 明日からどんな顔して会えばいいのよ!!」



 私は八つ当たり気味にコキュートスを抱きしめる。私の叫びにコキュートスはキューと泣くだけだった。

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