第10話 初デート2<黒竜の騎士と黄泉の魔女の最初の戦い フェイズ2>


 水族館の中は薄暗い照明の中にガラス越しの蒼い世界が広がっていた。中では魚たちが偽りの自由を楽しんでいた。客のほとんどはカップルと家族連れだ。



「フフ、魚達からみたら私たちのほうが飼われているように見えてるのかもしれないわね……あ、マンタだ!! 大きくて可愛いわよね」

「いや、クールぶってるけど好きな生き物見つけて、テンション上がってるお前のほうが可愛いよ」

「うっさい、今はそういう事は聞いてないわよ」



 やっべ、思った事がそのまま口に出てた。紅はあきれたかのように言うと水槽のほうへ行ってしまった。心なしか顔が赤かったけど怒ってないよな……紅についてくようにして俺は水族館を回る。



「ほらみなさい、クラーケンよ!! 足がすっごい長いわね」

「このタコでけえな…倒したらレベルがすっごいあがりそう」

「あっちにはリヴァイアサンよ、よちよち歩いてて可愛いわね」

「おお、ペンギンだー、やっぱり癒されるよな」



 俺達はまるで普通のカップルかのように館内を回った。この水族館の名物であるペンギンショーまで時間があるという事で、席をとって待つことにした。紅がちょっと席をはずしたタイミングで沖田にラインを返信する事にする。



沖田:『デート上手くいってる? 緊張のあまり変な事いわないようにするんだよ』

俺 :『今のところは大丈夫、ありがとうな』

沖田:『まあ、キスまでとは言わなくとも、手をつなぐまではいけるといいねぇ』

俺 :『何言ってんだよ、ソシャゲでも周回してろ!!』



「なーに見てるのよ」



 うおっ、冷たい。俺は声と共に頬に冷たい感触を感じ思わずのけぞる。紅がいたずらを成功した子供のように笑いながら俺にオランジーナを差し出してきた。左手には自分用のトマトジュースを持っているようだ。どうやらついでに飲み物を買いにいってくれてたらしい。というか、ラインみられてないよな? 沖田がキスとか手をつなぐとかいうからなんか変に意識をしてしまった。



「組織からの連絡をこんなところでみていたの? うかつな行動は死に繋がるわよ」

「安心するといい、一般人が見てもわからないように暗号化されているさ。あ、飲み物ありがと」



 俺達はようやくはじまったペンギンショーを見る。泳いでいるペンギンが芸をやるたびに飼育員がエサをあげている。ペンギンがこちらをみるたびに女の子や子供がキャーキャーと歓声を上げている。紅も例にもれずペンギン達を見つめているな。ずるくない、俺も芸やるからこんだけみてくれないかな?



「ふふふ、やはり水族館はいい……リア充共への怒りが増してくる……この想いこそが私の力になるのだ」



 ペンギンショーをみていると少し離れた所から聞いたことある声が聞こえた。え、アーサーこと安心院じゃん、こいつリア充への怒りを維持するために、カップルや家族連ればかりのここいいるのかよ……こいつの心は鋼かよ。

 俺は内心あきれながらつっこみを入れた。今の紅をみられるわけにはいかない。幸い安心院も文句をいいながらもペンギンショーに夢中だ。隣の紅をみると本当に楽しそうにペンギンショーを見ていた、その笑顔があまりに美しくて俺は余計な事をいって邪魔したくないなと思ってしまった。



「ほらみてよ、リヴァイアサンがこっちをみたわ!! やはり黄泉の魔女としての私の力がわかるのよ」

「ジキルとハイド」

「可愛いすぎる……これはぜひとも使い魔に加えたいわね」



 前言撤回、ちょっと声が大きすぎない? ペンギンショーに興奮しているせいか紅は俺の合図に気づかずペンギンを指差して騒いでいる。確かにファンサをしているペンギンは可愛い。だがまずい、今の紅は黄泉の魔女モード全開だ……、俺は安心院をみながら必死に邪神に祈る。こっちむくんじゃねーぞ。



「なんだ……リヴァイアサン……? 黄泉の魔女……?」



 うおおお、安心院がこっちの言葉に反応しやがった。このままできづかれてしまう。どうする、どうすればいい? 俺はテンパッていたのだろう。普段ならば絶対やらない行動をしてしまった。



「え、ちょっと……」

「紅、静かに安心院がいる」



 咄嗟に俺は抱き寄せてささやいた。これで安心院の方からは俺の顔も紅の顔もみれないだろう。俺は彼女の顔を自分の胸に押し付け安心院の様子を観察する。



「ちっ、こんなところでいちゃつきやがって……やはり、リア充は童貞の心がわからない……しかしたまらねえなぁ、リア充への憎しみがあふれてくるぜ」



 安心院の声が聞こえ、興味を失ったかのようにまたペンギンを見始めた。そろそろ大丈夫だろう。もう大丈夫と声をかけようと、紅の顔をみるとなぜか顔を真っ赤にしながら俯いていた。いや、なぜかじゃねえよ、俺何やってんだ。俺はあわてて体を離した。



「あの……紅……怒ってる……?」

「別に怒ってないわよ、私の正体がばれないようにしてくれたんでしょ」

「あ、ああ……」

「でも……他の子にも同じような事をしたら許さないわよ」

「するわけないだろ!! 何言ってんだよ」

「なら今回は許してあげるわ、それよりリヴァイサンショーの続きをみましょう」



 そういって紅と俺は再度ペンギンショーをみることにした。思ったより紅が普通でよかった、なんか顔は赤いけど表情はいつも通りだ。あっちが冷静ならこちらも動揺した姿を見せるわけないはいかないだろう。必死にポーカーフェースを保つ。

 紅がさっきとはうってかわり静かにペンギン達の芸をみているのも近くに同級生がいるというのを知ったからだろう。時々俺は紅をみてはペンギンを見るという事を繰り返していた。紅とちょいちょい目が合うのは気のせいだろうか? 

 やっちゃったよなー、俺達は偽装カップルだというのに……でも紅から何かいい匂いがした……しかし、俺ばっかり意識して恥ずかしい。











 ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ、なんなのこれ? なんのこれ? なにを言っているのかわからないと思うけど私も何をされたのかわからなかったわ……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ。

 私はリヴァイアサンショーを見ていたと思ったらいつの間にか神矢に抱きしめられてたのよ。流石黒竜の騎士といったところかしら。

 男の人の胸板って結構固いのね……多分神矢の事だから学校の生徒がいたから顔を隠すためとかだと思う。いや、冷静に考えたらさっき、あいつ「ジキルとハイド」って言ってたわ……でもこいつ何でこんな冷静なの? 私ばかり動揺してなんか負けた気がするわね……黄泉の魔女たる私は、黒竜の騎士と対等の存在じゃないと行けないというのに……



「あの……紅……怒ってる……?」

「別に怒ってないわよ、私の正体がばれないようにしてくれたんでしょ」

「あ、ああ……」

「でも……他の子にも同じような事をしたら許さないわよ」

「するわけないだろ!!」

「なら今回は許してあげるわ、それよりリヴァイサンショーの続きをみましょう」



 私がよっぽどなさけない顔をしていたのか神矢が心配そうに声をかけてきた。悔しいので私も冷静を装いながら返答したが上手くできただろうか? 顔がこわばっているのを自覚する。てか。こいつなんで動揺しないのよ、やっぱりなんか女の子に慣れてない?

 そのあともリヴァイアサンショーをみていたが全然頭に入ってこなかった。胸のドキドキがとまらない。時々神矢と目があったがつい逸らしてしまった。変に思われなかったかしら。

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