第9話 初デート1<黒竜の騎士と黄泉の魔女の最初の戦い フェイズ1>


 そわそわとしながら俺は何度もラインを確認する。あー、緊張がやばいな。あのあと沖田に色々教わりながら俺はデートの準備をした。どうやらデートには包帯とかシルバーチェーンをつけていってはいけないらしい。マジかよ、お洒落なのにおかしくない? 結局装飾品はほとんど外して行けと言われてしまった。嘘でしょ、ゲームでも装備しないと意味がないって言ってるじゃん。

 待ち合わせ場所は駅前の時計塔の前で人通りは結構多い。俺と同様に待ち合わせの人間でにぎわっていた。



「だからなんで30分前なのに待ち合わせにナチュラルにいるんですか!?」



 美しい聖女がいた。胸元とスカートにレースが施された白いワンピースに可愛らしい靴、主張の激しすぎないネックレスと指輪、ロングの黒髪もいつもよりつやがあるような気がする。かつての闇属性の服装とは違い、全体的に白を基調としたその姿は神々しくまるで聖女のようだった。いや、聖女なんてみたことないけど。



「心配するな、今来たところだ。しかしまるで聖女のように神々しいぞ、田中さん」

「嘘を言わないでください、手に持っているオランジーナ半分以上減ってるじゃないですか、あと私のことは幸子って呼び捨てでいいですよ、一応カップルっていう設定ですからね」



 紅が少しあきれたように言った。こいつ探偵か? ホームズみたいな洞察力だな。しょうがないだろ、楽しみで仕方なかったんだから!! だが俺とてやられてばかりではない。



「そういう幸子だって待ち合わせの30分前になんで来てるんだよ、俺にそんなに会いたかったのか?」

「勘違いしないでほしいですね、私は美容院が思ったより早く終わってしまっただけです。あと魔女たる私にとって聖女とは侮辱ですから二度といわないでください」

「美容院……でも髪の毛切ってないよな……もしかして俺とのデートのためにトリートメントしに行ったのか? お前もう可愛すぎないか?」

「ふぁぁぁぁぁぁぁ、もうごちゃごちゃうるさい!! 早く行くわよ。おもしろいところを案内してくれるんでしょう」



 名前と同じように顔を真っ赤にしてさっさといってしまった紅を俺は追いかける、あれ、なんか俺はやっちゃった? それともふれてはいけないところだったのだろうか?






 俺達は水族館へと向かった。市営だが結構魚の種類が多く地元の人々に愛されているデートスポットだ。まさか俺が女の子と行くなんて思わなかったぜ。



「水族館なんて久しぶりですね……ここなら学校の人にもあまり会わないでしょうし、こっちで行くわ。うふふ、使い魔にできそうな子いるかしらね。クラーケンやリヴァイアサンあたりをみたいわね」

「ああ、もしも同じ学校の生徒を見つけたらジキルとハイドって言うから切り替えてくれ」

「まかせなさい、黄泉の魔女として魔女狩りから逃げ続けた私の演技力をみせてあげましょう」



 キョロキョロ周りを見回して学校の生徒がいないのを確認すると、紅は口調を本来のものに切り替えた。そして得意げに笑う。いや、お前転校初日にミスしてたじゃん。しっかりしてそうな外見だが結構ポンコツなんだよな、こいつ。



「何か言いたい事があるならいいなさいよ」

「いや、なんでもない……」



 こいつ悟りかな? 俺は半眼でこちらを見る紅から目をさらした。

 入り口でチケットを買おうとした紅を引きとめ、俺は事前に買っておいたペアチケットを取り出して受付に渡した。紅は俺の手際のよさに驚いたのかきょとんとした顔をしている。



「ありがとう、悪いから半分は後で払うわよ」

「いやー、いいよ、中で飲み物でもおごってくれ」



 ギャルゲーなら好感度があがりそうな振る舞いだと思うんだがどうだろう? 沖田の言うとおりにしたんだが……あれ? 紅は微妙そうな顔をしている。「やっぱりなんか手馴れてない……?」とかつぶやいていた気がした。好感度さがってませんかねぇ、沖田さん……



「じゃあ、まずはあれをみにいくかー」

「そうね、緊急時の事を想定しないとね」



 俺達は頷きあって、まずは館内図をにらむようにして観察した。



「万が一水槽が割れたときはこっちへ避難しに行ったほうがいいな」

「あ、サメや巨大魚のところは危険だから、もったいないけど早歩きで行きましょう。水槽が割れたとき押しつぶされる可能性があるわ」

「避難ルートはこの道でいいな?」

「そうね、万が一水族館に閉じ込められたりした時用に非常食二日分もってきたけど足りるかしら」

「日本の警察は優秀だからな、二日もあれば助けてくれるだろうさ」



 作戦会議を終えた俺達は魚のいるブースへと向かうのであった。家族連れの子供が「あの人達何話しているの?」「まーくんはあんなふうになっちゃだめだからね、さっさと離れましょう」と言っているのが聞こえた気がした。何かおかしいことがあるだろうか? 安全を確認するのは当たり前だと思うんだが……とにかく俺達のデートが始まった。


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