もう一人のぼくでないぼくへ

 ぼくの誕生日はぼくだけのものではない。



 それを恨めしく思う時期もあった。



 ぼくには見かけはそっくりな弟がいる。ただ、弟はぼくと違って聡く、要領がいい。

 一緒にいても褒められるのは弟の方。ぼくはいつもしかられてばかりだ。



「こんなに似ているのだから、全て同じにしてくれれば良かったのに」

 いつかそうぼくが言ったら、弟は困った笑顔を浮かべて、

「ぼくはお兄ちゃんが大好きだよ? だからお兄ちゃんでなくなったら悲しい」

 と言った。


 しかし、弟はわざとぼくを真似るようになった。二人で怒られて、下を向きながらお互い目配せをして、ペロリと舌を出す。 それはそれで楽しいけれど、弟まで怒られる必要はない。だからぼくは言った。


「真似しなくて良いよ? ぼくも君が大好きだから」






 どちらが怒られようが、褒められようが、ぼくたちにはどうでもいいことなのかもしれない。ぼくたちは互いのことを認めている。互いに大好きなのだ。それは決して揺るがないだろう。それで十分なのだ。




 ぼくたちは見かけは似ている。でも本質はどこか違う半身同士だ。誕生日は同じでも。


「誕生日おめでとう」

 ぼくたちは同じ日にそう祝福される。

 きっと最もぼくの誕生を喜んでいるのは弟だろう。そして、ぼくも弟の誕生を誰よりも祝う。

 年をとるたび、いつまで一緒にいられるか考える。でも、きっと大丈夫。ぼくたちは離れても心は誰よりも近しい。




「一緒に生まれて来てくれてありがとう」




                    了





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