耳からの贈り物

最近好きになった曲がある。

好きな人が好きな曲と言っていたから。


聞いている時は、もしかしたら彼も聞いているかもなんて勝手に想像して、一人で幸せな気分になる。


だからこの数日はエンドレスで聞いている。


友達とカラオケに行った帰り。

皆んなと別れて電車に乗る。


空いてる席に座って、イヤホンを取り出そうとして、家に忘れてきたのを思い出した。


あーあ。楽しい日はやっぱりあの曲を聞きたいのに。失敗。


電車のドアが開いて、全身黒ずくめでマスクをして帽子を深々と被ってる男性が入ってきて、私の横に座った。

ちょっと怖い。


そのとき。


隣の男性のイヤホンから小さく聞こえてきたのは、間違いなく私の好きな曲だった。


この人も好きなのかあ。

悪い人じゃないや、きっと。


親しみが湧いて、隣の男性を観察してみた。


あ、れ?

似てる……?

いや、これはマジで本人じゃ……!


私の視線に気付いた彼は、私の方を向いて、人差し指を自分の口元に持っていった。


目が「内緒にして」と言っていた。


やっぱり。


彼はまさに私の想い人、若手俳優の葉月涼哉君だ!


それが分かって、私の心臓は急に早鐘を打ち出した。手にじんわりと汗を握る。


涼哉君に触れてる腿の外側と、肩がだんだん熱くなっていく。


恥ずかしくて死にそうなのに、幸せすぎて何百年も生きそう。


二人で並んで大好きな曲を一緒に聞ける幸せ。こんなことまずない。


同じ歌詞を同じタイミングできいて、私と涼哉君が思っていることも同じならいいのに。

まあ、それは無理かあ。


涼哉君は降りるとき、小さく手を振ってくれた。


頭がぼうっとする。

イヤホンはないけど、あの曲がエンドレスで頭を流れる。


私、涼哉君と一緒に曲聞いたんだよ?!

隣で体温感じたんだよ?!


夢みたい……。


そこで私は思い出す。今日が自分の誕生日だということを。


私は神様の粋な計らい(プレゼント)に感謝した。


                   了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る