第25話 五人の協力者

「確かに、安達の言うことはもっともだ。万人に等しく把握できるものでないと、本来は論拠にしてはいけないんだ」


 とはいえ、と由良が話を続ける。

「今回は、私といつきを信じて協力してくれ。……いつきもしっかり見えるようになったようだな」


 だからやめろって、という安達を、由良が再び制する。


「まずは、パイドパイパーの身元特定、#092参加者の身元特定と自殺防止。参加者七人を、六人で分担して監視、場合によっては接触しよう」


 アヤナ、康博はいつきの担当、暁のマ太郎は中嶋の担当にして、残りを分担する。


「何か動きがあったら、LINEの五十四期生グループで情報共有をお願いしたい。できるなら接触も試みてもらえると」


「知らない人からの接触は身構えるものだから、その康博くんって子にまた協力してもらえるとありがたいのだが」


 中嶋が話しかけてくる。

 わかった、相談しておく、と言って、暁のマ太郎のアカウントを控える。


「で、パイドパイパーの情報が得られなかった場合、どうする。どうやって防ぐ」

 森が上半身を乗り出す。


「アヤナちゃんの所在はだいたいわかっているし、守りを固める方向で。あと、明日の朝、アヤナちゃんに会うことになってるから、何とか信頼してもらって、パイドパイパーの気が入り込めないようする。本人の心がしっかりすれば、言いなりに自殺するようなことはないかと」


 悪い気をブロックするフィルターの作り方も、由良に聞いておかなくては。


「いつき、鈴ちゃんに協力してもらって、自殺ゲームがはやってるけど参加するなって注意喚起できないかな。あの子、アルファツイッタラーでしょ」


「そうだね、頼んでみる。でも、鈴のフォロワーって、どっちかというといわゆるリア充でしょ? 自殺ゲームに興味持ったりするかなぁ」


 いつきの言葉に、由良が怪訝な顔をする。


「いつき、リア充の定義、間違って覚えてる?」

「えっと、リアルが充実している人たち。お金持ちとか、友達が多いとか、恋人持ちとか、学歴が高いとか」


 いやそれは合ってるんだけど、と由良が首をかしげる。

「鈴ちゃんのアカウント、どっちかというとマニアックだよ?」


「え、恋愛におけるタイプ別傾向と対策とかの、恋愛指南をツイートしてるんじゃ」

 由良ばかりでなくよし子まで苦笑している。


「鈴ちゃんのユーザー名は、土器土器☆ハンター。確かにアルファツイッタラーだけど、古代史大好きイロモノ女子大生って位置づけだよ」


 中嶋が、「土器土器☆ハンター」に反応する。

「土器土器☆ハンターは私もフォローしている。天武天皇が飛鳥から吉野まで駆け抜けたのを追体験と称して競技用自転車で爆走したり、火打ち石はどの石が着火しやすいかの比較をしたり、火焔型土器を自作したりと、興味深いアカウントだ」


「そうそう。あと、旅行実況・鯖街道を行くとか。あの子、真榊の妹だったのか。世界は狭いな!」


 森も知っているアカウントらしい。

 半信半疑でいつきは携帯電話を取り出し、ツイッターで「土器土器☆ハンター」を検索した。


 確かに恋愛のレの字もない。

 鯖街道で巨大サバクッションを持って自撮りしている若い女性は、顔こそ隠しているが、確かに妹だ。サバのクッションカバーも、鈴の部屋で見たことがある。夏休みに友達と福井旅行に出かけていたが、まさか鯖街道だったとは。


 鯖街道旅行記は、サバクッションと一緒の写真をアップするごとにフォロワーから「サヴァ?」「Ça va?」と大量のリプライがついている。

「……え、ちょっと、なにが『ウィ、鯖ー!』よ……」


 いつきが動揺していると、由良があきれたように言う。

「鈴ちゃんが恋愛指南なんてするわけないだろう。大体あの子、まだ誰とも付き合ったことがないのでは?」


 言われてみればそうだ。

 恋人の影など感じたこともない。康博も、少し違うだろう。


「そうよね……。やだ、ちょっと考えたらわかりそうなものなのに、鈴が言うこと真に受けちゃった」


 由良が咳払いをする。

「うん。いつきって、そういうとこあるよね。よく考えるとおかしいのに、相手の言うことを疑わないというか。今回は笑い話だけどさ、ちょっと気をつけなよ。大事なことを見逃す可能性もあるから」


「ごめん。……気をつける」

 あまりにもいつきが落ち込んでいるからか、由良が明るい声で言った。


「あ、鈴ちゃんに、垢バレさせたこと、謝っといて!」


 午後からは神社でのお勤めに戻る予定なので、みんなにお礼を言い、今後のことをお願いして、いつきは由良の家を辞した。


 五人の味方を得ることができたのだから、大丈夫だと自分に言い聞かせながら、車を運転して家路を急ぐ。

 目が開いたせいか、ときどき生きていない人に反応してブレーキを踏んでしまう。早く、この目にも慣れなければ。




 夜、鈴経由で康博から連絡があった。

 パイドパイパーからのメッセージをスクリーンショットしたものが添付されている。


パイドパイパー @Pied_Piper

『十一月七日、旧暦十月十一日は神在祭です。

前日の十一月六日夜が神迎神事、つまり日本中の神様が出雲大社へ赴くため、神社が留守になります。神無月のいわれですね。

本来、安息の世界である幽世かくりよへは、定命が尽きるまで入れません。が、神様が留守の間なら、厳しい審査なしで入り込めるのです。

このチャンスを活かすかどうかは、あなた次第です』



 十一月七日という具体的な数字に、何か不気味なものを感じる。


 今日は十一月二日。あと五日だ。

 それに、アヤナに対して切られた期限の日でもある。


 この日に、#092の参加者全員に対して何か仕掛けるつもりかもしれない。


 鈴が、自分の携帯画面をスクロールさせて、いつきに見せる。

「でね、パイドパイパーから来た課題がこれだって。昨晩の分と、今日の分」



『今日から、誰とも口をきかないこと。声を捧げることで、幽世かくりよへ入れる体になるため。発した声は、幽世かくりよであなたの手枷足枷になると心得ること』


『身辺整理をすること。未練のあるものを捨て、部屋を掃除することにより、執着を捨てて良い気をまとうことができる』



「何これ。死に支度っぽい……」

「でしょ。ちょっと不気味で」


 鈴の許可を得て、スクリーンショットをすめらぎ學院大学第五十四期生のLINEグループで共有する。


「康博くん、まさかこれ実行してるんじゃ」

「ダイジョブダイジョブ、さっきSkypeかけたら、ちゃんと出たよ。『声を捧げよ!』とか言って。捧げてないじゃん」


 とりあえず、康博の洗脳は解けたままのようだ。

 何か新しいやる気のようなものすら、鈴を通して感じられる。


「画伯はとりあえず、パイドパイパーからの情報引き出すために、指示に従ってるふりをするって。あとはアヤナちゃんだよね」

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