第10話



 ――その頃、レノックス家では。



 レイの異母弟であるマルコムと、父親が話していた。


レイが追放された今、マルコムがレノックス公爵家の跡取りとなっている。


「マルコム。お前は、必ずや大勇者になるのだ。そのために、まずは冒険者として名をはせる必要がある」


 父であるレノックス公爵が、息子に言い聞かせる。


「はい、父上」


「とはいえ、お前はまだまだ経験が浅い。まずは、街の近くにあるダンジョンで修行をしろ。“神聖剣”の力を引き出せるようにするのだ」


「わかりました、父上」


 †


 マルコムは、父の命を受けて、街のギルドへと向かった。

 もちろん、黒エルフの奴隷、アラベラも一緒である。


「おい、今あるダンジョンで一番難しいダンジョンを紹介してくれ」


 ギルドの建物の中に入るなり、受付に上から目線で頼むマルコム。


 それに、お姉さんは少しムッとした表情を浮かべたが、しかし努めて冷静に対応する。


「大変失礼ですが、新規の冒険者はまずはステータスのチェックがございますが、よろしいですか?」


 お姉さんがそう聞くと、マルコムは胸を張って「もちろんだとも」と答えた。

 超レアスキルである“神聖剣”を見せびらかすいいチャンスだと思ったのだ。


 実際“神聖剣”のスキルによって、マルコムのステータスは3倍に強化されていた。


「マルコム様はユニークスキル“神聖剣”をお持ちなのよ。その辺の冒険者とはわけが違うの」


 アラベラが横から自慢げに語る。


「へぇ、それはすごいですね……」


 受付のお姉さんは、驚いて見せた。ただ、その反応はマルコムが期待したそれに比べれば、かなり控えめだった。


 ――“神聖剣”は、超絶レアスキルだぞ?

 ボク以上の、ユニークスキルを持ったやつなんてそうそういるはずがない。

 とマルコムは内心でそう抗議する。

 

「それでは失礼して――」


 お姉さんは、鑑定の力でマルコムのステータスを見る。


「なるほど、ほとんどのステータスが60超えですか。ええ、CからBランクのダンジョンに行くには十分でしょう」


 と、受付のお姉さんは特に驚くこともなく言った。

 それにマルコムはムッとして聞く。


「――なんだ、それだけか? 18になったばかりで、ボクほど強力なステータスを持った男はそうそういないだろ?」


 だが、受付のお姉さんは「いや、まぁ確かに同い年の冒険者よりは高いですが……」と口ごもる。


「ですが、なんだよ」


 マルコムは聞き返す。

 お姉さんは、どうやらマルコムは言葉を濁しても察してはくれないと理解して、その事実をハッキリと告げることにした。


「昨日、同い年でステータス1000越えの冒険者が来たものでして」


「1000!? そんなばけものがいるのか!?」


「でも、あのかたは特別だと思いますから。あなた様も十分にお強いと思いますよ」


 とお姉さんは、とってつけたように言う。


 マルコムは内心で歯ぎしりした。

 同じ年齢で俺の何十倍以上のステータスを持った奴がいるのか。


 ……いや、だが、まだボクには伸び代がある。

 まだボクは神託を受けたばかりなのだ、俺より強い人間がいるのは当たり前だ。


「……それでは、早速ですが、今攻略可能なダンジョンでいうと、ボス討伐済みのBランクダンジョンでなどいかがでしょうか」


「Bランクか。まぁいいだろう。肩慣らしにちょうどいい」


「二階層の奥に、満月の日にだけ開く扉があるそうです。そこについても攻略を済ませてください。ボスを倒した方によると、全体的にあまりモンスターは出ないそうです。なので、1日で片付くかと」


「わかった。1日と言わず半日で片付けてやる」


 マルコムは自分の力を証明するために、ダンジョンへと繰り出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る