第9話




 しばらくの間、Bランクダンジョンのボスをあっけなく倒せてしまったことに驚いていた。


「……“ゴミ強化”って、ほんとに強いんだな……」


 しかし冷静に考えてみれば当然かもしれない。

 なにせステータス100倍だからな……。


 ――いや、ここでそれを考え込んでも仕方がない。


 俺はとりあえず目の前にドロップされた宝箱を確認することにした。

 Bランクのボスがドロップする宝箱となれば、それなりにレアなアイテムが入っているはずである。


 ――宝箱を開けると、箱の大きさに反して、中に入っていたものは少なかった。


 入っていたのは、小さなハンカチのようなものだった。


「ん、これは……」


 手に取ると、ハンカチではなく、入れ物だとわかった。

 服についているポケットをそのまま剥切り取ったようなものである。


 上側が口になっているようなので、そのまま開くと――


 なんと、中に黒い空間が広がっている。

 ちょうどダンジョンへと繋がる<裂け目>と同じように、中は異次元になっていて空間が広がっているようだ。


「……なんなんだこれ?」


 正体がわからないので、ひとまずそれを服のポケットにしまいこんで、そのままギルドに持ち帰ることにした。


 †



 ギルドに戻ってくると、受付のお姉さんが少し驚いた表情でこちらを見た。


「もう帰ってこられたんですか? 何かトラブルが?」


「いや、トラブルはないけど、とりあえずダンジョンは攻略してきました」


 俺が言うと、お姉さんは「はい?」と聞き返して来る。


「これ、ダンジョンのマップです」


 俺はマッピングの成果物をお姉さんに差し出す。


「……え、第三階層どころか、ボスの部屋まで!? たった数時間で最奥まで行ったんですか!?」

 

「ええ。なんか、あんまりモンスターが出てこなくて。ゴースト・ファイヤーはちょろっと出てきたんですけど、他はもうほとんど散歩してるみたいな感じでした」


「モンスターが出てこない? でも、ダンジョン発見者の証言では、入り口からもううじゃうじゃモンスターが出てきたって」


「え、そうなんですか? さっぱり出てこなかったんですよ。後、なんかボスも一撃で倒れちゃって」


「ボスを倒したんですか!? Bランクのボスをたった一人で!?」


 確かに、それは自分でも驚きの成果だった。


「いや、でも……。確かにあれだけのステータスをお持ちなら、それくらい当然なのかもしれませんね……。これまでレイ様ほどお強い方が街にいなかったので、ステータス1000超えがどれくらい強いのかわかっていませんでした」


 自分では実感はなかったが、確かに結構強くなったのかもしれない。


「ところで、ボスがドロップしたこのアイテムなんですけど、なんなのかわからなくて……」


 俺は宝箱から出てきた謎のポケットをお姉さんに差し出した。


「ええっと、これは……」


 とそう言いながらポケットの口を開けた次の瞬間、お姉さんはまた飛び上がった。


「こ、これはマジックポケットですよ!」


「マジックポケット?」


「そうです。超レアアイテムですよ。中が一つのお屋敷以上の広さになっていて、物を収納できるんです。まごうことなき<宝具>です」


「<宝具>……ですか?」


 <宝具>は大抵ダンジョンボスからドロップする者なのだが、かなり腕の立つ冒険者でもほとんど目にしないと聞く。


 それをまさか自分が1度目のボス攻略で得るとは。


「これがBランクダンジョンのボスから……?」


「ええ、そうなんです」


「普通Sランクのボスを倒しても、なかなか出てこないのに、まさかBランクのボスからマジックポケットが出てくるなんて……。とんでもない豪運ですね……」


 多くの場合、ボスからのドロップはランダムである。

 Aランクのボスから大したことがないアイテムが出てくることもあるし、逆に極論Dランクのボスでもマジックポケットをドロップする確率がないわけではないのだ。


 ただ、ボスランクが上がれば上がるほど、よりレア度の高いアイテムが出やすい。


「Bランクのボスから<宝具>が出てくるなんて、歴史上で見てもほとんどない出来事だ」


「それは……一生分の運を使い果たしてしまったかもしれませんね」


「いや、もしかしたらレイ様は<運気>もSランクなのかもしれませんね」


 とお姉さんがそう言う。


 もちろん、<運気>なんて言うステータスは存在しない。

 だが……もしかしたら、“ゴミ強化”のスキルは、ステータス以外のものも強化できるのかもしれないな。


 

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