3節「ゼロ、再び」


「どうしてお前がここにいる―――!!?」


雷に打たれたような怒号が機械仕掛けの空間に響き渡った。

困惑する5名の候補生らを無視して、指揮官辻本ダイキは台座から降りた少女、呑気にあくびをしている“無垢なる殺戮者”に掴み掛かる。

端から見れば最後に現れた青年が、視界に入った年端もいかない少女を捉えた瞬間急に怒り狂う様子。しかし本人はそんな体裁など気にしていられなかった。


そう、この少女は“敵”だった存在。

影の組織エリシオンを構成する九名の幹部、九戒神使の第五位にして《羅刹》の異名を持つ者。

かつてエクシアの闇魔術によって産み出された人造人間ホムンクルスであり“。前個体の『ユナ』が必要以上の自我と繋がりを持ってしまい逃亡したため急遽、聖楔計画の途中で稼働させられた“スペア”でもある。


羅刹メアラミスの強さは正真正銘の“化物”であり誰も敵わない。辻本も1度「最果て」と呼ばれる地で少女と死闘を繰り広げたが結果は惨敗。暴走したゼロの破滅のチカラを持ってしてもまるで通用しなかった苦い経験は今でも忘れられない。


そんな人形を止めたのは―――人形であった。

心の有無が勝敗を別けた。ひとつの街が半壊する程の被害をもたらした羅刹が生まれて初めて敗北した時。



以降少女は組織(エリシオン)からも脱退し行方を眩ませていた。

それが今、俺の目の前で平然と“機関の候補生の制服を纏って”いるのである。


「メアラミス……!!!」


辻本は、そんな宿敵の少女の名前を突き刺すようにして言った。疑念が憤りになった彼は怒気が全身を包んでいる。

しかしメアラミスは信じられないものでも見るかのように、辻本の顔を見た。そして。


「……ねえ、キミさ。あまり虚勢を張らない方がいいよ?ウチはキミの事は知ってるから」


「ッ……!!!」


低い、静かな声に混じって静電気のような殺気が周囲に漏れていく。何億もの魑魅魍魎を束ねる鬼神のような絶大な殺気―――は周りの少年少女に届く寸前で引き潮のよう二人だけの世界観に波打たせた。


「エクシア、あぁ……今はマナって呼ぶんだっけ?どっちでもいいけど聞いてる。ところでさ、悪い魔女っぽく無くなったよね、あの人」


メアラミスの子供のような(実際子供だが)拙い感想に、辻本も少しだけ落ち着きを取り戻す。

そして思い出す。昨日の夕刻。つまり機関のある白虎へ朱雀聖都から列車で旅立つ直前、時宮マナが“後のお楽しみよ”と勿体振っていたお目付け役、もとい相棒の件について。


だが機関内で“ゼロの真実”を知る唯一の運命共同体がまさか彼女の事だったとは。そもそもユナに敗けて以来足取りを消していたメアラミスが見つかっていた事すら聞いていなかった。まったくこんなサプライズを仕掛けていたなんて……、


「……いいや、あの人は悪い魔女さ」


辻本はボソりと訂正して、それ以上詳しい概要は知らないと述べた少女と共に、ここまで意味あり気にコソコソと話していた二人を不審(不信でもある)感で満ち溢れ零れそうなくらいの眼差しで見つめていた『5人のメンバー』の下へと行き先不安、重い足取りで向かうのであった。




特務部隊ロストゼロ初顔合わせ―――。

辻本ダイキは整列させた(先程のメアラミスとの一件でそうさせるのにかなりの説得を労したが)後に改めて『指揮官』としての自分が受け持つ『部下達』、これから共に入隊式に参加する候補生6名を確認する。


右から順に眠たげな銀髪少女、金髪ツインテールのツリ目女子、蒼灰色の美形男子、暗い茶髪の童顔男子、朱髪高身長の女子、そして紫紺髪の眼鏡女子、計6名。

ちなみに現時点で名前や素性を把握出来ているのは右のメアラミスただひとり。左端で若干モジモジしている眼鏡の娘とも街で出逢ったが……。


彼らが身に纏う服装が黒基調に金のライン、所々に紅模様の入った制服であるのは街からここに来るまでに何度も目にした。

制服の名前は『黒鉄の魂(アイアンーフェリア)』

男子はズボン、女子はスカート仕様だ。


白制服ロングコート姿の辻本は腰に手を当て、すまなそうな表情でほぼ初対面の少年少女ら、今後命を預け預かる部下達に話し掛ける。


「さて―――悪いが赴任したばかりで君達のことは詳しくなくてね。」


「早速だがひとりずつ軽く自己紹介して」


「へぇ、随分と自分勝手な人なんですね」


言葉の途中で割って入ってきたのは金髪の少女だった。どこか軽蔑した眼差しで辻本を睨み付ける彼女は更に語気を強めて、


「こういう時って先ずは指揮官である貴方から名乗るべきなのでは?それともそんな必要はないくらい有名だから、そういう上から目線の英雄なんですか?」


ここで少し話を巻き戻す。辻本とメアラミスのいざこざの後、辻本は眼鏡の娘から候補生側の経緯を聞けた。


まず最初に“自分達だけ《セントラル》の門で変わったCOMMを渡された”、そして“放送で呼び出されこの要塞に入った”、すると“同じ女性の声で暫く待機”、の指示を受けたらしい。


(もうしばらくで皆様ロストゼロの指揮官を担う“方”が来られる予定です。合流後、様子を見て再度オペレートさせて頂きます。)


だけ言われて、10分程度、分けも分からずここで過ごしていたところに―――が彼らの視点だ。


「あたし達はまだ《ロストゼロ》って何なのかすらまともに説明されていない。」


「いい加減ちゃんと話して下さいよ……!!」


キツい言葉と視線をぶつける女子。明らかな敵意と反感を感じざるを得ないが、


「……ああ……悪い、無神経だった。だが俺も大した説明もないままここに連れて来られてね、せめて自己紹介だけでもさせて貰うよ」


「―――俺の名前は辻本ダイキ。朱雀アルテマ軍学校出身だ。一月前に政府からの要請があって本日《機関》に赴任した」


「《ロストゼロ》の指揮官を務めることになるらしいからよろしく頼む」


簡略なあいさつを終えた担当指揮官に対してロストゼロの候補生達はそれぞれ反応を示した。

※入隊式に参加する800名の新入生は職員について一切の情報を知らされてはいない


(っ……やっぱり……!!!)


(成る程、それで“ゼロ”という事か……)


「えええっ!辻本ダイキ……ってまさか、朱雀国の若き英雄のですか!?」


口をつぐむ金髪女子と何かを納得した素振りの蒼髪男子、から声をあげて驚く気弱そうな男子。

に続いて背丈の高い女子が興味を持って訊ねてくる。


「ほう、ということはその太刀、かの天紅月光に連なると……?」


「はは、詳しいな。その通りだ」


指揮官の笑みを左端で紫髪の女子は眼鏡の奥から黙って見つめる。飛んで右端ではメアラミスが何度目かのあくびをしていた。


「では改めて。今度こそキミ達の番だ。先ずはそうだな……(よし、踏み込んでみるか)」


「そこの金髪ツインテールの君から、自己紹介を頼む。それほど深く考えなくてもいい、名前や出身国くらいで結構だ。得物は後で確認する」


「ふぇ!?…………ぐっ―――分かりました、ええ分かりましたよだ!」


6人いるなかで最初に当てられてしまった彼女はその不意打ちに幼子のような愛らしい声を上げてしまったが直ぐに厳しい目付きに戻し、渋々目の前の指揮官と両サイドの同級生らに名乗り始める、


「シャルロッテ、出身は白虎帝国!」


活気帯びし金髪ツインテのツリ目女子―――シャルロッテ。。辻本は彼女の挨拶に頷きつつも別の観点で物事を捉えていく。


「ほとんどの候補生は講堂に集まっているのにあたし達だけにいる。しかも担当の指揮官は何も知らない……なんですかそれ。正直不安でたまりませんが、そうも言ってられないのでみんなよろしく!」


「…………“貴方”は…………っぅ」


ハキハキとした喋りは彼女が普段明るい性格なのが他のメンバーには窺えた。しかし締めに呟いた怨嗟の声が届いたのは“その対象”辻本ダイキだけであっただろう。


シャルロッテは辻本が名乗る前から彼の事を英雄と1度呼んでいた。あの時に明かされていたのは“これから担当の指揮官が来る”という情報のみ。

他の彼らのように名乗った後なら、たとえ朱雀人でなくとも辻本ダイキ=朱雀零組の一員にして若き英雄、の構図が成り立つだろう。そのくらいに高名な剣士、先導者なのだから。

しかし彼女は……、

あの態度から白虎人だけど朱雀の貴方のことをずっと応援していたファンです、は天地が引っくり返っても有り得ないはず。

とすればこの違和感は。多分それは表裏一体、朱雀の明日のため非情の刃を振るったもうひとつの辻本ダイキを知っている……。


「……ああ、ありがとう。よろしくシャルロッテ」


「―――では次は自分が。」


そう言ってシャルロッテと替わるよう一歩前に出たのは蒼灰髪の男子。細見のシルエットに整ったルックスだ。間違いなく幼少期から今までモテただろうな、なんて辻本は羨む。


「オズ・クロイツ。玄武出身です」


「辻本ダイキさんのことは一応、噂以外にも耳にしています。《混沌》についても。」


「僕も魔術師の端くれとして貴方のその“奇蹟と呼ばれる超常の魔力”には興味もあるので」


「頼りにはしていますよ、辻本指揮官。」


噂以外という表現に引っ掛かりを持たずにはいられないが玄武出身者。玄武は朱雀とはデリス大陸の歴史においてはわりと友好関係が続いている。現に零組も当時は実地任務として玄武に赴いた経験もあった。

各国と深い繋がりを零組の歩みのなかで手に入れた辻本ダイキ、噂以外の『本質』を人伝に聴かれていてもなんら不自然さはなかった。


(混沌……俺がこの奇蹟の一端を使える事はある程度調べた人間なら分かることだ。流石にディクロスやディニウスについて識る者は大陸でもごく僅かだろうが……)


無論、『虚構の英雄』に関しては知られているはずもない。しかし『混沌』という単語に必要以上に反応してはいけないと辻本は軽く微笑を返す。


「それは光栄だな。よろしく、オズ」


「じゃあ次は…………」


「「ボクが/私が……!!!」」


被ってしまった男子と眼鏡の女子の二人。どうぞどうぞと朱髪の女子を挟んで譲り合うその様子にシャルロッテは少しだけ笑顔を見せた。


「ふふっ、ここはレディーファーストにしてあげなってば」


「ボクは全然後でいいよ……」


「よし、という事で君の番だ―――はは、君の予想通りだったな?ものだ」


今朝、リューオンの街で出会っていた二人は自分達だけで微笑みあった。その様子にジト目で辻本を伺うシャルロッテとオズ、他2名。メアラミスは興味なさげに(一応話は聴きながら)その辺の虚空を見ている。


「な、ん、で!今日初めての顔合わせなのに指揮官は女子生徒と関係を持ってるんですか?なんか最高にやらしいんですけど!」


「シャルロッテとそこの朱髪の彼女を除く《ロストゼロ》女子は既に攻略済みでしたか。流石ですね、は噂以上のやり手のようだ」


「誤解を招くような言い方は止めてくれ!!」


早速弄られる辻本であったが、眼鏡女子本人から街での出来事が説明され何とか変な誤解は解くことが出来た。


雨月玲ウヅキレイ―――指揮官と同じ朱雀の出身になります……!《零組》の方々や、辻本ダイキさんの事はよく存じていて」


「(朱雀なんだ……っ、ううん、気にしちゃダメだよね)……よろしくね、レイって呼んでいい!?」


「は、はい……!シャルロッテさん……!」


微笑ましい女子のやり取り、に油断していると紫紺髪ショートカットを揺らす眼鏡女子、玲が辻本の近くまで駆け寄って来てまるで愛を請うような仕草で、


「あ……あの!ふつつかものですがどうぞよろしくお願いします……♡」


「(先輩って……)……よ、よろしくな、玲」


一時間程前に出会った時の第一印象はひかえめ系と評価していたが、ボールペンで2重線を引いて訂正印を押しておこう。

『朱雀零組』について詳しい少女、雨月玲。

彼女はとても積極的であった。



「―――という事でシャルロッテさんと同じ白虎帝国の人間です。よろしくお願いします……」


気弱で臆病、というイメージをどうしても払拭できない彼『朔夜サクヤ』と名乗る少年が挨拶を終える。

ダークブラウンな若干癖毛の下にある童顔。同じロストゼロの候補生男子オズとは対照的にベビーフェイスでありモテる、とは違った感じで異性に騒がれそうだと辻本の所感、


「へぇ、よくみるとなんかキミ女の子みたいでかわいいね!しかもあたしと同じ白虎!サクヤ君は仲間として認めてあげる!」


「かわいいって……ボクは正真正銘の男ですよ!ねえオズくん!辻本指揮官!」


じっと見つめてくる3名の部隊女性陣からささっと離れ、朔夜は涙目で男性陣に訴えかけた。


「僕に振られても困るが別にいいじゃないか、癒し系マスコットみたく優しく愛でて貰えば」


「あはは……(本人にとってはコンプレックスなんだろうな)……了解だ朔夜、これから頼むぞ」


悲しげに辻本に頷いたロストゼロの癒し系男子(他称)から6番目の順番となった候補生女子へ。


「そしたら次は君かな、どうやら武術に精通しているようだが?」


先程、辻本が自己紹介し朱雀の若き英雄が話題になった時、剣術《天紅月光流》に興味を示していた朱髪ロングの武道娘が口を開く。


「ええ、《森羅水滸流しんらすいこりゅう》。龍國に伝わりし棒術の流れを汲みます。」


「棒術……剣術ではないんですか……?」


朱髪女子に向けた玲の質問を代わりに辻本が答えた。


「“突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀“。棒術の最大の特徴は“変幻自在”に尽きるんだ」


「全ての部分が攻撃する部分にも持つ部分にもなり得る。確かに近年の得物と比べれば使用者は減っているが実力者が扱えば夢想の武―――剣にもなれるという優れものさ」


「さ、さすが……お詳しいですね……先輩っ」


「ていうかこの人、勝手に話に入ってきてしかも饒舌になってる……武術マニアなの……?」


羨望の眼差しで褒める玲と、引き気味のシャルロッテ。つい話を脱線させてしまったと反省する辻本に笑みを浮かべた棒術士の女子は、


「遅れたが私の名はアーシャ。青龍王国の者だ」


「私が尊敬してやまない人物がこの機関に指揮官として出向されると聞いてな、彼女の高みに近付くため同じ道を選んだ。」


アーシャの言動から礼節正しい性格なのが一同にはすぐに伝わる。するとまたしても同じ朱雀出身の辻本ダイキをとにかく敬う玲が、


「それってダイキ指揮官のことですか……?!」


「すまぬが辻本殿ではなく。まあ後に分かる事であろう」


憧れの英雄を否定されてしまった玲は自分のことのように落ち込んで肩を落とす。


(青龍出身で武人のアーシャ、彼女が機関に指揮官として呼ばれた尊敬する人物……間違いなくあの人の事だろうな。どのルートからその情報に辿り着いたのか気にはなるが)


となればアーシャが天紅月光流についてある程度の知識があったのも頷ける。剣の世界は果てしなく広いが、人と人の縁が形作るこの世界は案外狭いのかも知れない、と辻本は思った。


「ちなみに、どうやらこの部隊では指揮官殿を除けば19才の私が最年長のようだ。特に年齢で上下の意識はしなくてもよいのだが、一応」


「フッ、ならば遠慮なくアーシャと呼び捨てにさせて貰おう。僕は18だが、君達は?」


オズが腕を組んで他の同級生、候補生に訪ねる。


「あたしも今年18!オズ君おないなんだね!レイは何歳なの?」


「わ、私は17才です……えっと、朔夜さんは」


「ボクも雨月さんと同じ17だよ、ってことはボク達が最年少なんじゃ……?」


「いや、最年少はぶっちぎりで“彼女”だろう。」


指揮官の言葉、そして向けられていた視線に全員が同じ斜め上を向いた。途中から反応も気配もしないと思っていた少女は、天井にある入り組んだパイプラインの一つに腰掛けうたた寝していたのである。


「って!あの子いつの間にあんなとこに!?」


「お、落ちたら危険です……!」


「そもそもどうやって昇った……その所作の足音すらしなかった……ッ!」


シャルロッテ、玲、オズが続けて驚きの言葉を口にする。少女の人間離れした身のこなしがあればあの高さは余裕だったはず。唯一彼女を知る辻本はうたた寝から醒め、猫のように目をこすっているメアラミスをただ地上から見つめる。


『メアラミス』。青みのある銀のウェーブがかった長髪、人形のよう整った小顔、常に眠そうな目付き、いつも高いところで脚をぶらつかせる無防備な少女。単純に足癖が悪い、ではなくその動作すらも殺しの準備運動にさえ感じられた。


「……ふぁーあ……んんっ」


またもやあくびをしている少女。常にぶらぶらさせる脚は黒タイツに包まれている。ロストゼロでは彼女、メアラミスと雨月玲が黒タイツを履いており、シャルロッテとアーシャは制服のスカートから生足を伸ばす。


「指揮官、あえてスルーはしてたんですが……あの子は何者なんですか?」


「軍人の候補生にしてはあまりに幼すぎる気がしますが……」


「彼女の名前はメアラミス。推定だが年は13くらいだと思う。」


辻本はシャルロッテとオズの問いかけにそう返事した。実際の年齢、そもそも人形であるメアラミスに年齢などという概念や縛りは無いのかも知れない。だがそれをこの場で述べるにはあまりに現状“各々”の信頼関係が貧弱すぎた。


メアラミスについてはこの後で当人、そして機関の所長ロクサーヌ。更にはメアラミスを送り込んだ悪い魔女マナにしっかりと問い質す必要があるな。

そんな風に出方と方針を纏めていると、


「……ん?」


「……ッ?」


上空のメアラミスの何かに気が付いた声、とほぼ同時に地上では辻本ダイキが反応。

駆動音、何かが猛スピードでこのエリアに向かって来ている。この迅さなら10秒程で此方とぶつかるはずだ……!


「―――総員、気を付けろ!!!」


辻本は声を張って《ロストゼロ》、まだこの少人数部隊の意図すら知らぬ自分を含めた少年少女6名に警戒の命令を下した。


この一声で十分に訓練され実戦も積んだ部隊ならば自然に各位が背中を預け合う陣形を取ると共に得物を抜刀していたであろう、

しかし候補生達の殆どは指揮官が突如発した警戒の指示に反応しきれていなかった。


脳がその危険が認識出来たのは複数の中型の(3,0Mサイズの)自律型ロボットが3体、本物の機銃や魔導剣を構え包囲網を敷いてきた時点。

身の危険を咄嗟に感じた候補生たちは、各々が入隊の際に適正審査があると言われ装備していた得物に手を翳す。

まず慣れた手付きで抜刀したのはアーシャ、先程話題にも上がった長棒ロッドを構えた。

次にシャルロッテとオズが負けじと抜刀。


「っ、なんなんですか!?こいつら!!」


「落ち着け……!どうやらまだ攻撃命令は受けていないようだ」


シャルロッテが得物の双剣。双翼のよう折り畳まれていた二重の剣を分離させ左右に1本ずつ握りながら叫ぶ。動揺はしているが武器の構え方からある程度の訓練は受けていたことが伺えた。

対してオズ、慌てふためくシャルロッテを鎮めながら冷静沈着に“敵”を見極めた。そして……、


「“Ouvrir(開け)”―――魔術書『ゲーディア』!」


詠唱とは異なる呪文発声の直後、ボッ!と発火したような音から彼の右手には分厚い書物が手に取られている。

そしてオズの周囲には恐らく彼の魔力を媒介にして喚ばれた霊術のツルギが数十の本数で金色に輝きながら、まるで主を守る剣と盾を両立するよう浮遊しており。


「《零光剣イルミナルサイファ》!!―――♪♪♪」


口笛を吹くとその旋律に合わせて踊るよう剣達が一矢乱れない動きで共鳴。まるで軍人のパレードのよう1本1本の小剣が死の戦慄を奏で合う。


「それがオズさんの“チカラ”……!」


玲は眼鏡レンズの奥の儚い瞳で捉えた魔法剣に脅えるような素振りで呟いた。


「朔夜に雨月、君達は下がっていろ。そこの二人も武装を解除して楽にしてていい」


戸惑いと突然の事態にへたりこんでしまっている玲と朔夜、そして戦闘体勢のアーシャとシャルロッテにも冷徹に言い放つ。


「な、バカにしないでよね!キミの方こそ、ここはあたしで片付けるからその辺で座ってていいんだから!」


黒魔力を纏う黒金制服の魔術少年はシャルロッテの噛みつきを完全スルーして更に……、


「あぁ、指揮官様も、ここは僕が殺ります。」


「―――オペレーションシステム起動。これより要塞訓練レベル0を開始します。この施設において最低レベルの設定、すみやかに対処して下さい。繰り返します……」


謎の施設内、要塞内に女性の声が反響する。この冷たい声は自分達をここまで来させた人の声だ、と候補生たち。辻本も彼女がソフィア・マノであると確信を抱く。


「……フフ、最低レベルとは侮られたものだ」


辻本は機関側の測定に不服そうなオズの隣まで進むと、腰に差した長鞘を強く握りしめ謎のロボット集団を見据えた。


「いいや、四大国の技術を集結させたこの機関が運用する自律機械兵パンツァーソルジャーだ。君は魔力操作に大した自信があるみたいだが、指揮官として君の単独行動を認めるわけにはいかない。」


「それに―――」


それに。自分の言葉の途中、辻本ダイキは《朱雀零組》にいた学生時代を思い出す。


「俺達はだからな。」


「ぁ…………」


指揮官が見せた先導者としての一面にロストゼロの候補生6名は各々が想いを巡らせる。ただひとり上から高みの見物をしているメアラミスも彼のその言葉に対してだけは真剣な眼差しをしていた。

辻本は出発前に受け取った新たな得物、夕陽に照らされたような輝(ヒカ)りを放つ刀身、黄昏の太刀をゆっくりと鞘から抜くと、


「《ロストゼロ》戦闘準備!互いに戦術スタイルを確認しつつ敵集団を撃破する!!」


今、『ゼロ』が再び始まった。

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