第34話 ぎこちないメンバー

水曜日 夜八時


「あれぇ?二人まだ来ないのかな」

グラスはギルドのアジトにいたが一人だった。




「だからぁ!今度の土曜日にうちの実家に来なさいって言ってんの!!」

綾は部屋のパソコンの前で大きな声を出している。


「急すぎるって!着ていく服とか手土産とか買う時間も必要でしょ!?」

貴俊も自分の部屋のパソコンの前で話していた。


二人は電話をしていたがそれは少しエキサイトしていた。


「あんた、もう忘れたのかしら?」

「な、何を?」

「私が勝ったのよね?」

「何に?」

「あぁ!?」

「……僕の負けでした」


「で?私は今度の土曜日に実家に来なさいって言ってるんだけど?」

綾は高圧的に命令している。


「ふ、服は?」

「いつものスーツでいいわよ」

貴俊の問いかけはすぐに解決される、しかしまだもう一つ考えられることがあった。

「手土産は?」


「明日か明後日の仕事帰りに買えるわよね?」

綾の要求は特に無理のないものだった。


「…何も言い返せない」

「基本的に言い返す事は許さないけどね!」

「わかった、わかったよ…」

「日曜日にあんたの実家ね」

綾の行動力はスピード感溢れていた。


「…うーん、ごめん。それは本当に無理だよ」

声を落とした。


「何で?」

「うちの両親の仕事は土日休みじゃないからスケジュール合わせるとしたら最低でも一ヶ月前から言っておかないと」


「…何の仕事してんの?」

「父さんはコックで母さんは看護師」

「どっちも専門職なのね…。確かにそれは難しいわ」

「良かった、理解してもらえた」

貴俊はホッとした。


「どういう意味かしら?」

「あぁ!?知らねぇよ!とにかく日曜な!って来るのかと」

「…あんた、私を何だと思ってる?」

「ジャイ…、素敵な未来の奥さん」

「本当にジャイアンとして振る舞ってやろうか?」

「ごめんなさい」


「…ねぇ、あんたってそういう専門職の方が合ってるんじゃないの?」

「何で?」

「何でも何も今の職場じゃ…。あっ、ごめん」

「最後まで言ってから謝ってくれない!?」

「ゲームだと強くて思考的で行動も強気だし、何かの専門的な業務の方が合ってそうよねぇ…」


「ごめん、それは考えられないんだ」

「何で?」

「………僕が独りだったから」

「え?」

「子供の頃、小学三年生ぐらいからかな。基本的に朝起こされた時にはもう両親が出勤する時で夜ご飯も独りで食べてた。土日も基本的に両親いなくて独り、どこかに遊びに連れて行ってもらった記憶も無いんだ」


「そう、だったの…」

「別に両親が嫌いなわけじゃないけど、両親のような仕事に就こうとは思わなかった」

今までの貴俊の話を聞いて綾は一つ気付いた事があった。

「…ねぇ、あんたが料理とか家事出来るのって」

「うん、中学の頃からは全部僕がやってたよ」

「そっか、まぁそれは置いといて」

「え?……置いとくの?」

貴俊は戦慄した、まさか自分の話をそのままスルーされるとは思わなかった。


「置いとくよ。話はしたんでしょうね?」

「話?」

「おい!どうしても結婚したいとても素敵な女性がいるんだ。とか」

「そこまでは言ってないけど結婚考えてる人がいるとは言ったよ」

「今度の日曜日に連れてきなさいとは言ってた?」

「言ってないよ、来月ね」

「まぁ、しょうがないわね…」


そのすぐ後、二人のスマホにメッセが届いた。

ギルドのグループメッセだ。


『お二人共!何してるんですか!?』

さとこからのメッセージだった。


「やばっ!もうこんな時間じゃない!」

時間はすでに夜九時を過ぎていた。


「すぐに行こう、きっと怒ってる」

「そ、そうね!」

二人はログインした。




「遅いんですけど」

グラスは怒りマークや地団駄モーションを繰り返している。


「ご!ごめん!結構待ちました、よね?」

ギルド代表者として貴俊はまず謝った。


「待った!何ならサッとワールド一周しながらモンスター倒してた!」

「グラスちゃん、ごめん!あいつが結婚の決心しなくてさ」


「…オニオンさん?何をしてんの!?」

「待った!そう簡単に全てを信じないで!」

「うわぁーん」

フージンが泣くモーションをしている。

「私を嘘つきに仕立て上げようとしてるぅー」


「オニオンさん、最低」

「そうか、これが八方塞がりってやつか…」


「まぁ冗談はさておき」

「はい、何ですか?」

フージンとグラスで何事もなかったかのように会話を始めた。


「………」

オニオンは黙っておこうと決める。


「次のイベントのギルド戦はグラスちゃんそのままで行く?」

「まだ新しいの見つけてないんでこれで行こうかと、戦い方のバリエーションを増やせば活けるとは思うんですけど」

「…そうね、あまり変えすぎても操作の問題もあるからね」

「はい」


「あんた、どう思う?」

「……」

「おいこら、無視か?」

「……うーん」

「あっ、考えてたのね」

「…グラスさん、鎧脱いでもらってもいい?」


オニオンの発言にフージンが怒る。

「このド変態が!!グラスちゃん、運営に通報!」

「はい!すぐに!!」

「待った!待った!そうじゃなくて身軽にしませんかって事!」


「…どういう事?」

「盾のみの防御力とか試した?もし鎧を外しても盾のみの防御力でいけるなら身軽な方がカウンターも効果的になるかも」

「いや、試してない。とにかく防御力を上げようとしてたので」

「一回試してみません?ギルド内でのエキシビション出来るから」

「わかりました。鎧外すだけでいい?」

「そうですね、盾以外は全て外してください」

「……変な想像してないよね?」

「そんな変態に見える?」

「はい」

「即答は悲しいんですけど…」


フージンは二人の会話に思うところがあった。

「ちょっとまだぎこちなさが残るわね…」

「まぁ、それは…」

「少しづつ…」

二人は何となくまだ馴れていない。


「よし!じゃあ二人で何回も殺し合ってきなさい!」

「物騒な事を言い始めた…」

「仲良くなるにはまずは殺し合いから」

「言葉変えよっか…」

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