第5話 女神の聖域3

「っ…!池田君、戻ってきたか!」


 扉の開く音で起き上がり、この状況を抜け出せた事に少し安心する。

 だが扉から出てきた二人の姿を見て唖然とした。


「ルミィ、儀式ってここでするの?いや、もうルミーナ様か女神様って言った方がいいのかな?」


「カオルぅ、私だって本当はずーっとルミィって呼んで欲しいんだよ?でも、儀式の最中は他の神様に見られちゃうかもしれないから女神様かなぁ。寂しいから儀式を始めるまではルミィって呼んで♪」


「わかったよ、ルミィ。でも、本当にもう時間が無いの?もう少しだけ部屋に戻らない?最後にもう一度ルミィの温もりを感じたいんだ」


「もう、エッチなんだから!ベッドでいっぱいお話ししたでしょ?ここに来てから何もしないで50時間経っちゃうと他の神様に怒られちゃうの!もう少し気付くのが遅れてたら間に合わなかったかも」


 なんだこいつらは。

 上裸でキスマークをいくつも付けたイケメンに腕を組み、肩にしなだれかかる美女。

 胸焼けのしそうな甘い雰囲気。

 会話の内容から、扉の向こう側でしていた事がわからないほどウブじゃない。


「おい、池田君…これはどういう状況なんだ?」


 空腹でふらつくが立ち上がり、イケメンに問いかける。


「あっ、黒石さん!ちょっと遅くなってしまってすみません!僕は今からルミィの為に、異世界に行って魔王を倒すんです!」


 イケメンの様子がおかしい。

 ここに来る前、女の子が苦手と話していた時とは別人のようだ。

 というか目がイッちゃってる。


「異世界?魔王?扉の向こうで何があったんだよ。お前ちょっとおかしいぞ?」


「おかしくなんてありませんよ!僕はルミィに本当の愛を教えてもらったんです!今までの僕は本当の愛を知らなかったんですよ!わかりますか!?黒石さん!」


 駄目だコイツ早くなんとかしないと。

 完全にイカれてる。

 こっちは腹減ってるうえに気持ち悪いもの見せられてイライラしてんだよ。


「いや、わかんねーよ。そこのビッチとヤりまくって本当の愛に目覚めたってか?異世界にいっ…ぐぇっ!?」


 いつの間にかイケメンに胸ぐらを掴まれ持ち上げられてる。

 まったく見えなかった。

 人間のできる事じゃない。


「ルミィの事を悪く言うなっ!!!黒石さんでも許さないぞっ!!」


 目を充血させながら唾を飛ばすイケメン。


「っ…!初対面ですぐにヤらせる女なんてビッチだろ。冷静になッガハッッ!!」


 息が詰まり、頭がチカチカする。

 体が痛い、床に叩きつけられたみたいだ。


「黒石さんでも許さないって言いましたよね…覚悟して下さい」


 これはヤバイかもしれない。

 必死に体を動かそうとするが痛みで思うように動かない。

 その上イケメンに腹を足で押さえつけられていた。

 詰んだ…。


「カオル、儀式に間に合わなくなっちゃう。本当にギリギリなの。そいつの事はもういいから早く始めちゃお?」


「あっ!ごめんよルミィ!つい頭に血が上っちゃって!異世界に行く前の残った時間をルミィと二人で過ごす方が大事だったのに!」


 助かった…。

 一瞬ビッチに感謝しそうになるが、こんな事になったのは元はと言えばコイツのせいだ。

 死ねや糞ビッチ!


「ふふっ、いいよ。そのかわり早く魔王を倒して私に会いにきてね?その時はまたいっぱい愛し合いましょ♪ね?勇者様♪」


「そうだね!愛してるよ、女神様♪」




 空腹と痛みの中で、俺は転送の儀式とやらを最後まで見続けた。





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