第6話 女神の聖域4

 頭がおかしくなってしまったと思われるイケメンがいなくなり、ビッチ女神と二人きりになった。

 イケメンのような甘い展開を自分もするとは思えない。

 もしもそんな状況になったとしても全力で拒否する。

 こういうビッチは反吐が出るほど大嫌いだ。


「は~、やっぱり若いイケメンは最高♪スキルもいっぱい与えてあげたし♪早く戻ってこないかな!」


「おい…。俺はこの後どうなるんだよ…?」


 先程までの甘い展開を見てイライラとしていた俺は女神に問いかける。


「は?勝手に喋んないでくれる?キモいんだけど。あんたの声が耳に入ったせいでさっきまでの気分が台無し!ウッザ!」


「…………」


 イケメンと態度変わりすぎじゃねーの?

 まぁ、わかってはいたけど。


「あっ、儀式の記録確認しないと。ちゃんと綺麗に撮れてるかな~……うん、バッチリ!美しい女神と勇者の別れになってる!」


 何もない空間から薄い大きめなタブレットのようなものを取り出し何かしているビッチ。


「…何をしてるんだよ?俺はどうなるんだって聞い…え?なんだこれ!ふざけんな糞ビッチ!」


 少しずつ糞ビッチから離れるように宙に浮かんでいき、3mほどの高さで停止した。

 言葉を遮られる事が多い気がする。


「うーん、薫はちゃんと使徒として異世界に転送されたから大丈夫だけど…問題はこのゴミよねー、すっかり忘れてた。今更協会に連絡しても遅いだろうし…。でも、何で一緒に転移してきたんだろ?申請したのは薫だし転移装置も1人用で間違いないし。ま、ゴミがここに来たのは私のせいじゃないしー、神の怒りだって起きないでしょ。もし協会が何か言ってきたらママになんとかしてもらおっと♪」


 宙に浮かされ距離が離れたので何を言っているのかよく聞き取れない。


「何ぶつぶつ言ってやがる糞ビッチ!!何するつもりだ!さっさと降ろ…ギャッッ!!」


 全身が熱い、また床に叩きつけられた。

 だが、イケメンに叩きつけられた時とはまるで違う。

 この衝撃だけで死んでしまってもおかしくないだろう。


「いだぃ…じぬ…」


「喋るなって言ったよ?ってヤバ、さすがに殺すのはマズいよね。面倒臭いし後は任せよっと。メイー!」


 糞ビッチがどこから出したのかベルを鳴らす。

 すると質素な黒い扉が現れ、メイド服?を着た女性が出てきた。

 さっきの衝撃で眼鏡が吹き飛んだみたいでよく見えない。


「お呼びですか?ルミーナ様」


「メイ、あのゴミをどうにかしてくれない?召還の時に選んだ勇者にくっついてきたの」


「…召還の儀式は2日前だったと記憶してます、元の世界に戻すのなら協会への連絡が遅いのでは?」


「ちゃんと戻すつもりではあったんだけどさー、素敵な勇者様に夢中になっちゃってすっかり忘れてたの。時間がギリギリで勇者様の転送の儀式を優先したら、ゴミを処理する時間がなくなっちゃったんだよねー」


「…何故あのような酷い怪我を?」


「私に発情したのか急に襲いかかってきたの。とっさに反撃しちゃったらああなっちゃった♪死んだら面倒臭いでしょ?メイ、後はよろしくね?」


「お待ちください。この人はこちらに来てから、まさか50時間経過してるのですか?」


「えっとー、今21時前だから微妙ね。ま、事故だからしょうがないでしょ」


「さすがにそれは不味いのでは…」


「しつこい!!いい?これは事故だから私は悪くないの!それにママに言えばなんとかしてくれるわよ!あんたは黙って早くゴミを処理しなさい!私はカオルの勇姿を早く観なくちゃいけないんだからっ!」


 朦朧としながら会話を聞いていると糞ビッチが扉から出ていった。


「…大丈夫ですか?今、気休め程度ですが回復魔法をかけるので動かないでくださいね」


 メイドの女性の手が光った。

 その手をかざした部分の痛みが和らいでいく。

 動けないほどの痛みではなくなったのでフラフラと立ち上がる。

 ぼんやりとしか見えないが緑髪でショートカットのメイドさんだ。


「ありがとう、ございます」


 口の中が血だらけで喋りづらい、前歯が折れたようだ。


「お礼は結構です。申し訳ありませんがこのエプロンで頭を覆って私の背中におぶさってください。急いであなたを連れて行かなければならないんです!」


 メイドさんの温もりが残ったエプロンを手渡され動揺する。


「えと、急に、そんな事言われても、心の準備が」


「早く!本当に急いでいるんです!あなたの人生がかかっているんですよ!」


「り、了解です」


 恥ずかしい気持ちを抑えながらエプロンで頭を覆って、メイドさんにおんぶされる。

 柔らかくてあったかいし、凄くいい匂い。

 荒んだハートが滅茶苦茶癒される。


「これからある場所に行きますが、頭を隠して私がいいと言うまで声を出さないでください。変に絡まれたら間に合わなくなるかもしれないので。では、行きます」


 頭を覆っているのでよく見えないが隙間から

 メイドさんが黒い扉に鍵を差し込むのが見えた。


「登録したままで良かった…」


 扉を開き進んで行く。

 ちらちら隙間から覗くと白い壁や床が見え、人の話し声が聞こえてくる。


「あれ?メイじゃん。どしたの、その背中の物体」


「ニア!ちょうど良かった!奥の応接室空いてたら使わせて!それと、今手が空いてる1番偉い人呼んでちょうだい!後、帰還装置をすぐ使えるように手配してっ!」


 メイドさん、凄く急いでくれてる。

 俺の人生の為にだと思うと心にジーンとくるね。

 まぁ、実際は糞ビッチの尻拭いの為なんだろうけど。


「うわ、ヤバい案件かよ。とりま奧は使ってるから二階の応接室使って。なるはやで準備して連れてくから」


「ありがと!」


 メイドさんが階段を上る。

 おんぶの都合上ピッタリくっついているわけで振動が股間にダイレクト。

 元気な俺なら元気になっていただろう。

 しかし嬉しいような悲しいような、今の俺は振動が全身に痛みを与える状態、少し興奮するだけだ。

 ちくしょう、元気になったらもう一度お願いできないだろうか。


「申し訳ありません!痛かったでしょうか!?」


「いえ、このくらい平気です。お気になさらず」


「そうですか、少し息が荒くなってましたので。少しゆっくり進みますね」


 ハァハァタイム終了。

 そんなこんなで部屋に到着、ソファーに下ろしてもらい少し落ち着くことができた。


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