第4話 女神の聖域2

「さて、どうしたもんかね」


 二人を見送った後、とりあえず自分の持ち物を確認する。

 財布、スマホ、タバコ、ライター。


「今は19時か、やっぱり圏外だよなぁ。スマホは時計くらいにしか使えないか」


 こんな謎の草しか生えてない場所に電波が届くとは思えない。

 あの女が女神の聖域とか言っていたし普通の場所ではないのだろう。

 二人が戻って来る前に周囲をあらためて確認してみる。


「草しか無くて地平線が見える、空が青くて雲一つ無い、つか太陽も無いのに何で明るいんだここ?気味悪いわ。変な生き物とかいないよな、虫とかマジ無理なんだけど」


 しゃがんで草をまじまじと観察してみるが虫が付いてる様子は無い。

 見た目はなんの変哲もない草だ、ただ匂いがしない。

 何本か抜いてみると根っ子が無い。

 草のあった場所には土が無く、白い床が見えた。


「なんだよこれ…偽物なのか?」


 床を触ってみるが少し温かいだけでただの床だった。


「…とりあえず少し辺りを歩いてみるか」


 何も無い草原を100mほど進むと見えない壁にぶつかった。

 壁の向こう側には特に変わらない草原が続いている。


「なんだこれ…ホログラムか何か?とりあえず壁に沿って歩いてみるか」


 壁に沿って歩き、確認してみると最初の場所を中心に半径100mほどの円形で見えない壁があった。

 壁に何かないか体をくっつけ、ベタベタと触りながら一周してみたが特に何も無い。

 壊せないか体当たりしてみたり、思いきり蹴飛ばしてみたが壊れる気がしない。

 スマホの時間を確認してみると23時過ぎ、四時間ほど過ぎていた。


「駄目だ、ここから出れる気がしない。つーかどんだけ長話してんだよ。腹減ったし、イライラしてきた。タバコ吸わせてもらうからな」


 一応、喫煙者のマナーとして我慢はしていたのだ。

 こんな場所に無理矢理連れてこられたあげく、何時間も放置されたら気を使うのが馬鹿らしくなる。

 タバコを吸いながら見えない壁にもたれ掛かる。


「あっちは今頃二次会か。池田君居ないしどうなったんだろ。幹事の俺もいないし、ぐちゃぐちゃになってるんだろうなー。はぁ、仮にあっちに戻れたとしても面倒臭いな」


 色々あって少し疲れたのか眠くなってきた。


「戻ってきたら池田君が起こしてくれるだろ…寝よ」


 タバコの吸殻を箱に入れ、壁を背にして横になり目を閉じた。



 目が覚めて時計を確認する。

 朝7時、結構寝ていたみたいだ。

 まだ二人は戻っていない、寝る前と変わらず静かな草原が広がっている。


「…まだかよ。くそ、喉渇いた」


 喉が渇いているし、腹も減っている。

 イライラする気分を誤魔化す為にタバコに火を着ける。


「池田君は大丈夫かね。女性苦手って言ってたし、半日くらいでどうこうなってるとは思わないけど。でもあの女もかなりの美人だったしなぁ」


 下衆な考えが頭をよぎるが、池田君も元の場所に戻る為に頑張ってると信じてこれからどうするか考える。


「後は地面、いや床か。これで何もなければお手上げですわ」


 午後1時まで、空腹と喉の渇きを我慢しながら何かないか這いつくばって探した。


「くっそ、結局何も無しかよ。疲れた…」


 もうこの場所でやる事がなくなる。

 後はひたすら二人を待つしかない。

 そうなってくると空腹と渇きが一気に押し寄せてくる。


「腹減った…。喫煙室に鞄持っていけば良かった」


 鞄の中にはのど飴と歓迎会用に買っておいたドリンクタイプのウコンが入っていた。

 今の状況も少しはマシになっていただろう。


「動いても腹減るだけだし戻るまで寝っ転がってよ」


 寝たり起きたり、タバコを吸って気分を誤魔化しながら時間は過ぎていった。


 朝の7時、まだ二人は戻らない。

 空腹と渇きが我慢できずに生えている草を試しに口に入れるが固くて無味無臭、噛みきれないし飲み込める気もしない。

 タバコも無くなったし暇なのでボーっと草を咥えながら二人を待つ。


 夜19時をスマホで確認する。


「…まる2日間経ったか。このままだとヤバイよな…」


 飲まず食わずで何の変化もない草原。

 正直キツイ。


「餓死は嫌だなぁ…何か飲みてぇ」


 今から何か脱出方法を考える気力も湧かない。

 寝っ転がりながら空のような物を眺めていると、扉の開く音が聞こえてきた。













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