第11話

「チョコバナナ食べたいっ!」

「気持ちは分かりますが、大きな声で言わないでください」

「バナナ食べたい!」

「分かりましたから。シャラップっ!!」

「キミのバナナ食べたいっ!」

「わざと言ってますよね? 俺を困らせて楽しいですか? そもそも露骨な下ネタって嫌いなんですよねー」

「バナナ食べたいと言っただけで下ネタ扱いされるんだー。意識しすぎじゃない?」

「キミのが余計なんですよ、そもそも」


 彼女は完全無視を決め込み、早歩きになってしまう。

 都合が悪くなると逃げてしまうクセがあるのかもしれない。

 と思っていたけど、違ったようだ。


「ほらぁー。早く行くよ! 早くバナナ食べさせてくれるんでしょ?」


 軽やかなステップを取り、彼女が振り向いた。

 翻る長い黒髪のその先はニタァと笑みを溢している。


『バナナ』発言なるもののせいで、生徒たちの視線が嫌なほどに突き刺さる。男女共に顔を真っ赤にさせ、物珍しそうに見つめられている。



「あの……Nさん。これ以上からかうのはやめてください」

「からかっているわけじゃない。イジメているんだ」

「そっちの方が最低ですよ!」

「先輩が後輩を洗礼するのは当たり前な話だろ?」

「年功序列というのは理解できますが……面倒な話ですよね」

「まぁーそうだよね。ここで気に入られるか、嫌われるか決まるようなものだし。女性の場合は接待とかもあるんだぜー」


 軽そうに発言したけれど、表情はどこか重く感じる。

 何か訳ありなのだろうかと考えを巡らせていると、


「次のお客様どうぞ。こちらにお願いします」


 無事にチョコバナナをGETし、ご満悦なNさん。

 お菓子を買ってもらった子供みたいな笑顔を振り撒く。

 その笑みだけで周りの人間は和んでしまう。


「チョコバナナってペロペロするものじゃないですよ?」

「チョコだけを食べたいんだよ」

「バナナは無視かよ!」

「イチゴのショートケーキを考えて欲しい。最後までイチゴを残す人っているだろ? それと同じだよ」

「ケーキを引き合いに出すのはズルイです。そもそも食べ方がちょっと……」


 チョコが付着しないように、髪の毛を耳元に掻き上げ、バナナの先端部分をペロペロと舐めるNさんの姿は色っぽかった。そこには下品さは感じられない。仕草の一つ一つが洗練されており、育ちの良さと気品さを垣間見ることができる。小さな舌を下から上へと動かす様は、極上の快感を提供するマッサージ師のようだ。


「自分のが舐められていると、いつから錯覚していた?」

「錯覚も何もしてませんって! って、あの……何を視線を下にやっているんですかー! み、見ないでぇー」

「小さいんだね、キミ」

「余計なお世話だ。それと、まだ覚醒してないし」

「わたし……露骨な下ネタって嫌いなんだよね」

「アンタが言うなよ! 自分から話を振ってきたくせに!」

「まぁまぁーそんなに怒らないでよー」


 そういって、Nさんは俺の口の中にバナナを突っ込んできた。

 コーティングされたはずのチョコはほぼなくなっている。

 それでも甘みを感じてしまう。彼女の唾液が原因か?


「あのー女の子ってお砂糖とかでできているんですかね?」

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