第10話
Nさんは花より団子な女の子らしい。
彼女は全ての売店を見て回ろうと言ってきたのだ。
美人からの提案を断ることもできず、俺は了承した次第だ。
「それで、あの……これは?」
「二人で見て回るって言ったでしょ? 半分個だよ」
「そ、その……流石にこれは」
「と言われてもだねー。一緒に全部回るんでしょ?」
「はい。そうですけど」
「全て一人で食べろというのかい?」
「そういうわけではありませんけど……そ、その」
「もしかして……わたしが食べたあとは食べられないーという乙女チックな考えをお持ちなのかなー?」
ニタニタと小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべられる。
「そうですよ。悪かったですね。心は乙女なんですよ」
「驚愕の事実発覚!! 実は女装癖があるとか? 服貸してあげよっかー?」
「違いますよ。言葉のあやですよ。ピュアってことですよ」
服貸してくれるというのは嬉しい話だけどさ。
特に匂いを嗅いで……って、俺は何を考えているんだ。
「いいから食べなよ。お腹空いてるんでしょ?」
「お腹は空いてますけど……お金払ってないし」
「わたしの奢りだって言ってるでしょ。遠慮しなくてもいいんだよ」
「遠慮しますよ。お金の貸し借りって怖いですし」
「たしかにそうだよねー。大人になってからの人間関係のイザコザって大体お金関連が多いし。子供の頃は、100円のお菓子を買ってもらうだけで喜んでいたのにねー。不思議だよねー」
「まぁーその気持ちは分かりますよ。今でもガム一枚、飴一個で笑顔になれますからねー。ま、俺もらったことないですけど。もらう準備してたのに、俺だけスルーされちゃってましたけど」
あの腐れアマ共がよぉー。
体育祭終わりに「お疲れ様ー」とか言って、クラスのみんなにお菓子配ってたくせに……俺には渡さないとか、マジで舐めてる。活躍という活躍はしなかったけど、お前らのために一番不人気な借り物競争に誰が出たと思ってんだぁ?
どうせアレだろ? クラスのイケメンにいいところを見せつけてやりたいとか思ってやったんだろ? 知ってんだよ、お前らのなぁーその軽はずみな行為に傷付く奴がいることを忘れるなよ。
「それってもうイジメじゃないの? 新手のイジメ」
「やめてくださいよ。クラスの奴等から俺がハブられているみたいな言い方」
「いや普通に考えてそうでしょ。他の人達には渡したのに、キミだけもらえないって辛くないの?」
「辛くはないですよ。俺の能力『
「能力名を決めるって気持ち悪いね。お菓子もらえなくて覚醒するとか……笑っちゃうんだけど。沸点低すぎるでしょ」
あはははとお腹を抑えられながら笑われてしまう。
ま、彼女の言う通りである。
おかしくれなきゃ、覚醒しちゃうぞ?
なんだよ、このスゲェ頭悪そうな発想は。
一人だけ脳内がハローウィンになってやがる!!
「思うんだけどさ、どうして必殺名を叫びながら戦うんだろうね。必殺名を言わないと攻撃出せない仕組みとかあるの?」
「アレってナレーションじゃないんですか?」
「えっ? 普通に幽白とか能力名言ってるよー? レイガンーって」
「アレはアニメ版だけですよ。現に漫画の方ではほとんど言ってないんです。でも臨場感があって好きなんですけどね」
「へぇー詳しいんだね。流石は青春を捨ててるだけのことはある」
「最後の一言は余計ですよ。それに全然詳しくないですし。ただ、アニメ版から入ってしまい、原作では戦闘シーンで『レイガンー』って言わないことに違和感を覚えただけですし」
「ふぅーん。そっか。ってか、世代じゃないのによぉーく分かったね」
「キッズステーションで放送されてましたから」
「キッズステーション見たんだね」
「あ、あの……勘違いしないでくださいよ。今は見てませんよ、はい全然見てませんよ。少女向け特撮テレビドラマしか見てませんからね。小学生ぐらいの女の子たちを見て癒されているだけですからね」
Nさんの表情が固まっていた。少しずつ崩壊しているし。
このままでは本気で気持ち悪いと思われるかもしれない。
「もうぉー勘違いしないでよね。ただ、テレビを付けたら偶然目に入っただけなんだから。本当は見る気とか全くなかったんだけど……みんなの愛を守るために、悪を逮捕する健気な少女たちの頑張りを見るのは当たり前だと思いませんか?」
「気持ちは分かると思うんだけど……年齢を」
「好きという気持ちに偽りはない。年齢なんて関係ない。好きなものはどんな年になっても好きなんです。生まれてから17年間という月日が経ち、俺は様々な作品に目を通してきました。そして、その中でも少女向け特撮ドラマが面白いと思った。紆余曲折してきたけど、これしかないと思った。ただそれだけの話なんです。それでも、Nさんは俺を侮辱しますか?」
「侮辱はしないよ。でも、軽蔑はするかも。好きという気持ちは尊敬するけど。それならもちろん映画は見に行ったし、グッズとかを購入したのかな?」
「そ、それは……話が違いますよ。俺みたいな高校生が一人で映画を見に行ったら、可愛い妖精ちゃんたちが困っちゃうじゃないですか、あははは」
「節度を守って楽しく遊びましょうという注意書きの重要性を改めて知ったかも」
それで、と彼女は言って、食べかけのホットドックを渡してきた。要するに半分個したということなのだろう。
「少女よりも大人の方が魅力的だってこと教えてあげよっか?」
「はい?」
「アーンしてあげようかなって思ったのにー。しないの?」
「あの喜んでお願いします」
「でも、キミロリコンなんでしょ?」
「ロリコンではありません。ただ守備範囲が広いだけです。子供を見て可愛いなぁーと思うことはあるでしょ? それと一緒ですよ。本当の話をすると、俺……年上好きなんですよね」
「そっか」Nさんはニタァと口角を上げて、俺の手からホットドックを取った。
「もしかしたら、わたしにメロメロになるかもね」
「メロメロにできるものならやってみろですよ! フンっ」
二秒後……完全にメロメロになりました。
はいーアーンの魅力、最高です。
もっとしてください。お願いします。
「完全に堕ちた表情を初めて見たかも♡」
そういって愉快げに微笑むNさんを見て、あー幸せだなと俺は思うのであった。
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