第9話

「あのさ……やっぱり見られてるよね? みんなの視線が集まってるように見えるんだけど」

「そうですね。はい、ガッツリ見られてますね」


 美人巨乳(一般客)を引き連れて歩く男子生徒。

 それは目立つわけだ。Nさんは周りの視線を気にする素振りはあるけれど、別に大したことはないって感じだったけど。

 うん、流石に道歩く生徒たちからチラチラと見られれば流石に気付くよな。


 胸元が開いた白のブラウス。

 服の上から分かる圧倒的なボリューム。

 男子生徒は鼻先をヒクヒクさせて目を奪われているようだ。


 無理もない。隣にいる俺だってドキドキしっぱなしだし。


 彼女の魅力はここまでに留まらない。


 足元が映える黒のタイトスカート。かと言って、自分から見せているという意識は全く感じられない。

 黒の布切れが隠す太ももは、日焼けを一度もしたことがないと錯覚させるほどに美しい。黒という色が身体を細く見せるのは当たり前だが、出るべき部分はしっかりと出ている。

 特に腰付きとおしりまでの辺りは至高の曲線美を物語る。

 まるで一流の彫刻家が『美』を追求した限りのようだ。


 控えめに言って、大人の女性って最高です。


「やっぱりあれかな? キミの童貞臭さが漏れてるのかな?」


 前言撤回。大人の女性はダメだね。

 人前で童貞呼ばわりしやがって。何が童貞臭さだ。

 ただアレだ。普段は白い目で見てくる奴らが羨望の眼差しで見つめてくるってのはいいね。


「Nさんが美人だから目立つんですよ」

「そっか……原因はわたしか」

 そういった彼女はパンフレットを眺めた。


 パンフレットは、来場者に渡されるものである。

 これには校内の出し物などに関することが説明されている。

 どの教室、どの時間帯に行われているのかなどなど。


「お面屋さんはないんだね。ガッカリだね」

「お面屋さんに行きたかったんですか?」

「だって、キミとのせっかくのデートなんだぜ。こんなに注目されてたらイチャイチャできないだろ?」


 何を聞くんだ、こんなの当たり前だろみたいな感じで言われてしまったけど……この人一体何を考えているのかさっぱり分からない。


「イチャイチャも何も俺とNさんは付き合ってもないじゃないですか。それなのにデートだなんて」

「そっか」しんみりと小さな声で言って「わたしだけだったのか。デートだと思って年甲斐もなくはしゃいだのに……」


 屋上を出た後の彼女は表情に笑みが増えていた。

 元々彼女は俺とは住む世界が違うのだ。

 学生時代は行事ごとの中心にいるような人なのだろう。

 それぐらい彼女のそばにいれば、嫌でも分かる。

 確定はできないけれど……うん。


「男女二人で仲睦まじくしていればデートだって友達が言ってました!」

「友達がいないくせに?」

「友達の友達が言ってました」

「友達がいないくせに?」

「近くに座ってる男子が言ってました」

「盗み聞きしてたんだね」

「声がデカいから悪いんですよ。騒音問題で訴えてやろうと考えてましたから」

「器がちっちゃいね、キミ」

「はい。僕の心の寛容さは器に溢れるほどですからね」

「………………」


 不意を突かれてしまったのか、Nさんは何も言い返さなかった。ただ俺をじっくりと見つめて、むうぅーと唇を尖らせた。


「ほらぁ……置いてくよ。トロトロしてたら」


 早足になった彼女を追いかけ、寄り添うように二人で歩く。


 意外と文化祭ってのも悪くないのかもしれない。

 こうやって女子と一緒に見て回るってのは。

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