月の光

神棚に花?

何故?


神棚といえば

さかきがたてられるのが通常の慣わし。

古来、

先の尖る葉には神が宿るとしていたそうだ。榊はより神に近い葉として重宝されていた。


走り寄りその花を間近で確かめる。


はっと

息をのむ…。


馬鹿な…。


あまりにも受け入れられない状況に思わず笑いが込み上げる。


もちろん愉快な笑いではない。

信じられないという現実逃避の笑い…。


そこに供えられた花は

紛れもなく

白い甘野老と

紫のエリンジウムだったのだ…。


膝の力がぬけ

腰が砕けたようにへたり込む。


妻は…。

静子はいったい何を私に伝えようとしてるのか…。


せっ…せんせいー!?


麻倉の声に

はっとして祠の入り口に目をむける。


雨足が強くなり

ザーザー

という激しい雨音が響きわたる。

ゾクゾクと何かの視線を感じる。


少し離れたところで獣の目がひかる…。


雨に濡れた白い狐が恨めしそうにそして力強くこちらを見つめている…。


絵に描いたような稲妻が空をかけめぐる。

大気の不安定な音が静けさを助長する、


と思うのが早いか否か


空気が張り裂ける程の轟音が響きわたりる。


いゃー!!


大丈夫か?!


あまりの雷の眩しさに目を閉じる…。



再び目を開くと、


先程上がってきた石段に

白いあかり

がぼんやりと灯る

提灯?

一つ…

二つ…

と灯をともしていく…。



あー。

そうか…。

非現実的な出来事に戸惑っていたのに、


一つ一つともる提灯の灯りに、

少し冷静さを取り戻していく。

その灯りの一つ一つに静子と共に歩んできた出来事が頭の中に流れていく…。



そうか…

君はもう逝くのか?


心は今の状況を察したようだ。

感情とは別に当たり前のように涙が、

瞼の雲から雨のようにながれだす。


わたしはおそろしいんだ。

静子が…、

君を失う事が…

君がいなくなる事を

いつまでも受け入れない。

特別な事などのぞまない…。

ただ毎朝目覚めて

仕事に出かけ

家に帰って寝る

そんな当たり前の日常も

君がいないと成立しないんだ。

なのに…。


なんで私を置いて逝ってしまうんだ…。


雨の雲間から

いつのまにか月の光が差し込む。


白い狐が月の光を浴びて

霧状の雨と愛塗あいまみれて、

蜃気楼のように人の形を創り出す。



わたしは…、

あなたを置いて逝きたくない…。

でもあなたには生きてほしい…。

あなたには幸せになってほしい。

でもあなたの心は失いたくない。

わたしだけを想ってほしい。


静子…。


雨雲がまた月に差しかかり月光を遮りはじめる。


あなたと一緒になれて幸せだった…。

もっと一緒にいたかったわ…。


静子!!

私も…


残酷にも雲は月を覆う。

光を遮る。

そして白い狐は闇の中に消えていった。


温かい愛に溢れて

冷たい雨に晒され

大事な人を失っていく…。

声もでない…。

明日の希望も見出せずに…

呆然と立ち尽くすしかなかった。

いつまでもやまないあめのなかで…






















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