月の陰

私の手を振り払うと、

先生は神棚の方へ駆け寄っていった。


少しさみしい気持ちになりながら、

本来の目的である月の雫の所在を

探すために部屋全体を見渡した。


何気なく入口の方に目を向けると、

何かの視線を感じる。


せ…せんせいっ!


と呼びかけると

先程まで熱心に見ていた神棚の花をおき

こちらに向かってきた。



しろい…キツネ?



外の雨足はますます強まり、

木々を揺らす風も大きな音をたてていた。

先程からゴロゴロと大気が不安気な音をならしている。

先生は私の横を通り越して、

白いキツネの方へ向かっていった。


黒い雲間に黄色い稲妻…。


だぁぁぁーん!!!


と鳴り響く

大きな物をおとしたような雷鳴…。



いゃー!!


あまりの音に瞼に力が入り目を閉じて

思わず悲鳴をあげる。



しばらくして恐る恐る目をあけてみる…。


ゾクゾクとした寒気がした…。

先程上がってきた道に


紅い光


が灯っていく…。


なんの光?

あれは…提灯?

そう飲み屋さんの提灯の様な赤い提灯。


その提灯の前にキツネが現れる。


私は蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる。


先生を呼ぶにも声がでない。

雨のせいでれた大気だからか、

体中の汗腺が開いて

ジンワリと汗でぬめってくる。

いや蒸し暑さじゃない。

これは冷や汗だ…。


雨雲の切間から月の光が差してくる。


月光にさらされた狐の陰が

黒い塊となっていく。


なに?!

なんなの?


黒い塊が心に話しかけてくる。


って素敵だわ…。

それだけでなんでもできる気がする…。

本当にずるい。

わたしはあなたがどういう人か知らない。

だけど私はあなたがどういう人かわかる…。



声がでない…。

必死で心の声で叫ぶ。

どういうこと?

どういうことなの?

何?祟り?怨霊?



わたしは今まで真面目に生きてきたわ。

そして彼に尽くしてきたの。

あなたよりずっと彼をわかっているわ。

なのになんでこんなに悲しいめにあわなくてわならないの?



あっ…。



ようやく何が起きてるかを理解してきた。



違う私はただ…。



黙って!!

あなたがどういうつもりか知らない…。

でも少なくとも彼はあなたを求めているわ。

その時点で誘惑したも同然じゃない!

それがわたしには憎いし

恨めしい…。

やきもち?嫉妬?

その通りよ…。

でもね…しかたがないじゃない。


先程までの抑揚の無い単調な喋りから

怒りを露わにた声に変わってきた。



いやでも…



黒い塊が私の上に覆い被さってくる。

口を塞ぎ

煙で巻かれるように視界を閉ざす。



わたしはあなたのことを知らない。

でもあなたは彼を…

主人を誘惑して惑わしてる

最低な人間てことは知ってるわ!!



たまらずに力を振り絞って立ち上がり、

黒い物を引き剥がそうとする!

立ち上がるが

息苦しい。

前が見えない。

話す事もできない。

先生は?

見えない、苦しい、見えない、苦しい…。

息が上手に出来なくて、

整えながらもがく。


暗闇の中何とか感じる月の光がある方へと向かって歩きだす…!!!


あっ

あーー!

あーー!


雨雲がまた月を覆っていく。


そのまま私は木々の生い茂った

深い深い崖の下まで落ちていった。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る