からみあう糸 それぞれの思い 生駒静子

目を開けると

辺り一面が闇だった。

色のない世界とは…。

こんなにも味気ないものなのか。

闇とはひどく落ち着かず、

闇とはとても心地よい。

静寂…。音のない世界…。

何に向かって歩いているのだろうか?


歩くのは…。

自分の意思ではない…。

ただ前に進むしかないのだ。


光…?

遠くから微かに聞こえる音?


静寂を打ち破るサワサワという音。

まるで山の中に迷い込んで

不安になっている時に見つけた

川の流れの音のよう…。

川?

あー…。

そうか…。

三途の…。


不意に目の前の闇に光の線が走る…。

淀んだ空気の匂い。

雨の前の湿度の匂い。

獣の気配…?


白い狐…が闇に一線を描く。

あの川を越えたら私死ぬのかな…。


何か手に持っている。

甘野老あまどころとエリンジウム…。

ふふっ…。

笑いがこみ上げてくる。


ハァー…。

ため息?

私の吐いた

白いため息が狐の形になっていく。

白狐びゃっこに思いが募っていく。


不思議な狐。

神社の前にある狐みたい。

しばらく狐を目で追うが…

やがて見失う。

自分の何かを失った気分になり、

必死になって白狐を探す…。


ポツリポツリと何かが頬を濡らす。

悲しみと憎しみは紙一重。

何かを得る為には何かを失う。

そう思うと涙が流れた。


でもどうやら頬を濡らしたのは

涙だけではないらしい。

雨か…。

私は雨が嫌いじゃない。

春の雨が好き。

生命のリフレイン。

暖かい水にうたれ、

新しく芽吹く生命の香りがする。


人もまた雨に打たれて成長する。


でも今わたしを待ち受けているのは、

新しい脈動ではなく、

朽ちていく木々…。


川の前に立つ…。

川面に写る私は

白狐になっているのだ。


本当はまだ死にたくない。

私にはまだやりたい事がある。

もっと彼に尽くしたい。

彼を支えてあげるのは私の役割なのに…。

何故私が死ななくてはならないの…。


思えば思うほどに雨足がつよくなる。


彼を支えてくれるなら…。

などと思ってみたものの。

狂おしい。

私の知らない彼を

彼女は知っているのだろうか?

今まで彼につくしてきた気持ちは

無に返ってしまうのだろうか?


ゴーン…。

というすごい黄色の雷鳴

色のない世界に次々と色がつく。

まるで感情という形のない物を

新たに作り出すようなきもち。


そうかこの世界はわたしの…。



降り注ぐ思い…。

ポツリポツリ…。

色のない世界

音のない世界

白い狐に青い雨…。


この思いの雨はいつかやむのだろうか?


いや…。


やむことない。


ふりやまないあめ


あいしてやまないあい



絶対にさせない。

あなたのおもいとおりには。

絶対にあげない。

わたしとかれのおもいで、


降り積もるのは雨の粒より

心にのこる名残



止むに止まれず

あなたをおもう。

愛は時として憎悪を呼び起こす者なのだ。


行こう。

彼の元へ…。



そして私は闇を駆け抜ける事にした。











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