エピローグ

第49話 エンドロール

「それで結局戻ってきた、そういう事でありんすか」

「そういう事だ」


 栃葉城とちばらき県立栃金崎とかねさき高等学校1年A組。

 9月1日火曜日午前8時20分。

 クラスはそのままだし夏休みを挟んだので実質1月経っていない。

 そんな訳で転校生とは違い普通通りに登校してきた訳だ。

 担任の松見先生もそれでいいと言っていたし。


 俺の行った学校が解散した話はほとんどの生徒がニュースで知っていた。

 だから状況はほぼわかって貰えている。

 

「でも奨学金と優先入学がそのままなのはやっぱりずるいと思うのでござるよ」

「これでも大分条件は後退したんだけれどな」

 学校は無くなったがお詫びという事で特典は2つほど残っている。

 ひとつは向こうの学校が存続した場合と同額の返還不要奨学金が支給される件。

 もうひとつはいわゆる五科目に相当する教科の平均評定が3.8以上なら国立大学何処でも優先的に推薦入学OKという件だ。


「その分夏休みが無くなったり環境が変わりまくったり、授業の進度が無茶苦茶になったりしたんだぞ」

「でも受験勉強をしなくていいというのは羨ましいでおじゃる」

「確かにそうだよな」

 小川にまで言われてしまった。


「あと、向こうで彼女は出来たでおじゃるか。向こうは女子率8割と聞いたのでおじゃる」

 ちょっと待て内海。

「女子の割合、もう少し低いぞ」


「少し程度でおじゃる。はたまたも前に会っていた美麗な先輩ともっと懇ろになったのでおじゃろうか。向こうは寮生活だったと聞いたで候。だから夜、魔法で女子寮に侵入していけない遊びをズッコンバッコン……」


 バスッ!

 丸めたノートが内海の頭を打った。

「また内海、品のない話している!」

 勿論森川さんだ。


「この辺の関係性も前と同じだな」

 思わずそう口にしてしまう


「夏休み前と後くらいでそうは変わらないでしょ」

 西場さんコメントありがとう。


「我が輩は夏でアバンチュールを楽しみたかったでおじゃる。でも熱い夏は小生を一瞥もせずに通り過ぎたのでおじゃる」

「夏の暑い行事は皆で行ったでしょ!」

「コ●ケは確かに暑いけれどそういう暑さとは違うでおじゃる」

「黙れうるさい」


 まったくもってこの辺は変わらないなと思ってしまう。

 変化が無い事も悪い事ばかりではない。


「ところで川崎、川崎はまだ魔法が使えるの?」

「一応まだ使える」

 俺は西場さんに頷いて、右手の平を広げて上に向ける。

 ふっと手のひらの上に火の玉が出現した。


「本当だ。近づくと熱い。でもあの後使えなくなった人が多いって聞いたけれど」

「俺も使えなくなるかもしれないけれどさ、今はまだ大丈夫」


 この辺については清水谷教官が言っていた。

『ただ向こうの世界の記憶を使って魔法を使っていた奴は、記憶がなくなるとともに使えなくなるだろうと思う。でも自分で意識して魔法の使い方を練習したなら、もう一つの記憶が無くなってもおそらく魔法は使えるままの筈だ。向こうもこっちも物理法則は同じようだからな。つまり……』


「魔法は終わらない、か」

 何となくあの時の清水谷教官の台詞の続きを口にしてみた。


「あ、それ、ナイトミュージアム3?」

 急に森川さんにそんな事言われる。


「何ですか、それ」

「In loving memory of Mickey Rooney And for Robin Williams Magic never ends. 英語『ナイトミュージアム』シリーズの最後である3作目、エジプト王の秘密のエンドロールに出てきた言葉でおじゃる。これはこの映画がロビン・ウィリアムズの最後の出演作品であり、1作目に出演したミッキー・ルーニーの最後の出演作品でもある事から追悼の意味で出たのでおじゃる。更にエンドロール前のシーンでロビン・ウィリアムズが『さらば友よ、笑いたまえ』なんて言っているのが奇しくも遺言のように聞こえるのを含めて映画ファンには涙ものの場所なのでおじゃる」

「はい、解説ありがとう」

 うーむ、こんなの映画ファンの常識なのだろうか。


 でも確かに俺にとってもあの学校はそんな感じだったのかもしれない。

 遙香がいたあの学校は。

 世界も元に戻って学校もなくなったけれど、あの日の続きに俺はいる。

 それは間違いない。


「ところで川崎、質問でおじゃるが本当に向こうの学校で彼女は出来たりしなかったのでおじゃるか。また会ったりとかはしないのでおじゃるか?」


「彼女かどうかは別として、また会う約束はしたな。とりあえずは今週日曜、近況報告を兼ねて」

「それは勿論女子でおじゃるな」

「女子ばかりの学校だったし、男子はあまり近い奴がいなかったしな」

 塩津さんは東京の上野高校、須崎さんは千葉の船橋高校。

 他は全員結構遠かったので、この2人とだけれども。


「ずるいでおじゃる。川崎ばかり何故ウハウハなのでおじゃる」

「内海うるさい」

 急に静かになったなと思って見たら内海が森川さんに首を絞められていた。

 外そうにもがっちり固まっていて外せない模様。


「毎回思うんだけれど、本当にあれ、放っておいて大丈夫なのか?」

「多分大丈夫だと思う。今までは大丈夫だったから」

 おいおい西場さん、本当に大丈夫なのかよ。


 そう思った処でチャイムが鳴り始る。

「むっ、時間切れか」

 森川さんが自席へと戻り内海も解放された。

 そして先生が入ってきて、出席をとった後、数学の授業がはじまる。

 何気に向こうの学校で一度やった場所だ。

 教科書まで同じなので今日は楽勝だな。


 俺は窓の外へと視線をやる。

 空はすでに雲が秋の空だ。


 放課後はまた課外活動が待っている。

 茜先輩にメールで『ちゃんと来いよ』と念を押されていたりもする。

 まだ魔法研究会、課外活動としての籍は残っているようだからな。

 先輩達にも久しぶりに会うな。

 ちょっとだけ楽しみだ。

 まあ最後に会ってから2週間程度だし、そんなに変わっていないとは思うけれど。


 あの日の遙香に向けてそっと呟く。

 彼女はまだけれど、お兄は元気だしそこそこ幸せにでやっているぞと。


(終わり)

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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~ 於田縫紀 @otanuki

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