第44話 合宿2日目 ~午前中

 夕食の後はふすまを広げて大広間状態にした後、カードゲーム大会。

 なおその後は俺と遙香関係の話題は特に出なかった。

 しおつ知佳すざきも特に何も言わなかったし。

 なお寝る時は当然ふすまを閉めて男女別部屋だけれども。


 翌日は朝食の後、この寺を管理している住職さんが来て、この寺についての説明をした後、30分の座禅体験。

「川崎、随分叩かれとったな。遙香ちゃんの水着姿でも妄想しとったんちゃう」

 終了後そんな事を言う秀幸つるみ先輩にはこう言い返す。

「昨日ずっと子安先輩といちゃいちゃしていた人に言われる筋合いはないです」


 魔法研究会の男子5名は全員彼女持ちだ。

 というかこの学校の男子はほとんどが彼女持ち。

 いないのはクラスの北村くらいだ。

 何せ男子の3倍以上女子がいる学校から仕方ない。

 学力と魔力を併せて選抜するとどうしてもこうなってしまうようだ。


 その後は海。

 平日だが夏休み中なので人はそこそこいる。

 だが関東地方の海のような混雑状態では無い。

 砂浜もあまり海から垂直方向の広さは無いが、人がそこまで多くもないので問題は無い。

 昨日と同様休憩用のタープとクーラーボックス2個を設置した後は海を満喫だ。


 本日は遙香は同学年の連中と一緒に何処かで遊んでいる。

 だから俺は基本1人で海だ。

 実際海は意識して泳がず入っているだけでも割と面白い。

 波が来てふわっと浮かぶ感覚とか、それと同時にすっと流される感じとか。


 水中眼鏡をして泳げば泳いだなりにそこそこ発見もある。

 この辺の海、砂浜でもそこそこ魚がいたりもするのだ。

 ハゼっぽいのとか、鰯か何かの小魚とか。

 一度舌平目みたいなのが動いたのを見た時は驚いた。

 砂の海底にしか見えない場所がいきなり動いたから。


 ぶっ通しでずっと海にいたら何か身体の動きにキレが無くなってきた。

 これは疲労か、体温低下か。

 いずれにせよ少し休んだ方がいいだろう。

 休憩所へ避難し、ポケットから硬貨を入れてお茶のペットボトルを飲む。

 脱水症状になったらまずいしななんて思いつつ。


 誰もいないのをいいことにタープの下、ビニールシートをしいた場所に寝っ転がっていたら誰かやってきた。

「何へばっているの」

 しおつ知佳すざきのコンビだ。


「ずっと海に入っていたら体温が低下したみたいでさ。それで自主休憩中」

「でもちょうど良かったかな、孝昭がいて」

 知佳すざきがそう言った事で一瞬俺はどきっとする。


「孝昭は何処まで憶えているの。こうなった前の事」

 予想とは違う話だった。

 てっきり遙香かしおつ関係の話が出るかと思って身構えたのだけれども。


「3月に突然魔法が使えるようになった事。全国一斉テストの結果でこの学校に来た事。この学校はその寸前に設立された事。あとこの研究会を作るため、須崎さんや塩津さんと一緒に清水谷教官にお願いに行った事もかな」


「つまり私達と同じね」

 知佳すざきの台詞にしおつも頷く。

「みんな両方の記憶があるのかな。そして適宜使い分けているのかな」


 しおつの台詞で俺は気づく。

 知佳すざきしおつに遙香の件について言っていない事を。

 俺は知佳すざきには話した筈だから。

 遙香が向こう側の世界にしかいないという事を。


しおつも元の、21世紀の日本の記憶はあるのか」

 しおつは頷く。

「前に知佳にそんな話を聞いて、それ以来なんとなくわかるようになったの。でもこれってずっとこうやって変わっていくのかな、2つの世界が同じになるまで」


 そうか。

 その辺は知佳すざきにも話していなかったな。

 そしてしおつも知らないと。

 なら言ってしまってもいいだろう。

 この2人には。


「また世界は離れていき、元の状態に戻るらしい。緑先輩が言っていた」

「緑先輩って茜先輩の友達で、この学校が出来る事を事前に予知していた先輩だよね。孝昭ともおなじ学校出身の」

「ああ」

 どうやらおぼえていたようだ。

 ひょっとしたらあの喫茶室であった時以降にも茜先輩に話を聞いているのかもしれない。


「いつ頃からそうなるの?」

「それはまだ緑先輩にもわかっていないらしい。でも世界を近づけた目的はも果たされた。だからあとは時間の問題だって」


「その辺まだ全然聞いていない。そんな話まだあったの?」


「ああ。元々は水甕座時代の方の某国に魔王が出現しそうだというのがきっかけだったらしい。それを危惧したファイブアイズ+3諸国が昨年末から合同作戦として魔王を倒す方法を得る為、他世界の知識を得ようとした。その方法として2つの世界を近づけたようだ。新聞記事と緑先輩の予知によればだけどさ」


「それってこの前の学校襲撃が関係しているの?」


 俺は頷く。

「ああ。あの時に対魔王用の兵器をいくつか試したようだ。ネットのニュースにも出ていた。結果、魔王相手でも効果を発揮するだろうと判断されたらしい」


「そう言えばそんな記事、ネットでも読んだ気がする」

 しおつが頷く。


「でもそうだとしたら遙香ちゃんはどうするの」

 しおつの前でその話題を出してくるか、知佳すざき


「どうしようもないさ」

「どうしようもないって何よ」

「向こうにも俺はいる。だから遙香は問題無い」

 そう、遙香は問題無い。

 今までも問題無かったのだから。

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