第40話 合宿の話し合い

「それでは清水谷教官から、今回の合宿についての話があります」

 出たな清水谷教官大ボス

 というのは冗談だが元来この人は教師というより研究者畑の人。

 一応、物理の中学校・高校教員免許は持っているそうだけれども。

 ただそのせいか俺達にとっては他の教官よりとっつきやすい人だ。

 割と本音で話してくれるし。

 今回のこの急な合宿について、教官はどう説明するのだろうか。


「さて、合宿については会長の柳川が言った通りだ。教頭に出す書類には合宿の目的として『会員である生徒相互の親睦を深めるとともに、魔法について相互に教えあい各自の能力を高める』と書いておいた。でもまあぶっちゃけこの辺はお約束の台詞。要は暇だしいつも山の中だしたまには海にでも行って皆で遊ぼう。それだけの話だ」


 暇だしいつも山の中だしたまには海にでも行って遊ぼうか。

 非常にストレートでわかりやすくていい。


「なお今回は急な予定だったから安い宿の手配が出来なかった。代わりに私の伝手で寺の建物を使わせて貰う事になった。だから住職による寺の紹介と座禅体験の時間が2日目の夕方に1時間ほど取られている。掃除もやらなければならん。あと食事は交代で自炊する事になる。その代わり宿代は無料だ。


 結果、往復のバス代と食事代実費だけ、なおかつ学校からの補助金ありで2泊3日5千円程度という値段になった訳だ。宿を探すのに電話しまくり、更に学校へ提出する書類を休日にやった私の苦労を察してくれれば幸いだ。以上」


 ここで拍手が巻き起こる。

 勿論最初の数人は仕込みだろう。

 でもこの辺の呼吸については会員のほとんどが良く理解している。

 清水谷教官はとりあえずこうやって持ち上げておけば問題ない人なのだ。

 研究に関する事以外については。


「そんな訳でまずは参加者を確認したいと思います。これから学内SNSのアンケート形式で参加希望を取ります。参加したい、参加しない、それぞれ回答して下さい。なお費用5千円については来月の奨学金から引き落とし予定です」


 つまり今現金がなくても問題無いという事か。

 月末だからその辺の条件はありがたいな。

 そう思いながら俺はタブレットを見る。

 スピーカーがピンポンと小さな音をさせてアンケートの到着を告げた。

 早速開いて読んでみる。


「お兄、参加だよね」

 横から遙香がそんな事を言う。

「ああ、遙香は?」

「勿論参加だよ」

 なら仕方ないな。

 俺は参加にチェックを入れ、確認ボタンと返送ボタンを押す。


 回りも俺達と同様、相談しながら回答しているようだ。

 そう思ったら俺のタブレットがブルブルと振動した。

 SMSメッセージが着信。

 知佳すざきからだ。

『孝昭は参加するよね』

 はいはい。

 向こう側に座っている本人を見たら、こっちに向かって小さく手を振ってきた。


『遙香が行くというから参加する』

 そう返答しておく。


「さて、回答は残り8名です。現在のところ参加が17名、不参加なしとなります」

 どうやら皆さん参加するようだ。

 まあ暇だし他に用事もないだろうからそうなるだろうな。

 参加費も普段の食費プラスアルファで済むし来月払いだし。


「はい、これで25名全員の回答が集まりました。全員参加希望という事です」

「それじゃ私は教頭への報告、向こうの寺やバス会社への連絡をしてくる。後はそっちで決めろ。任せた」

 清水谷教官が立ち上がり、部屋を出て行った。


「それではこれから食事当番の割り振りと部屋決め、向こうでの予定の決定を行います。まずは食事当番のについてです。今回調理するのはは1日目夕食、2日目朝昼夕食、3日目朝食の合計5回になります。ですのでそれぞれ5名ずつで班を作って、1回ずつ担当して貰う予定です。なお時間と注文の都合で食事メニューは既に決まっています。資料をSNSで送信しますので確認して下さい」


 SMSメッセージが着信する。

 合宿のメニュー表と、あとアンケート様式がついてきている。 

 まずはメニュー表を見てみる。

  1日目夕食がカレーライスとサラダ。

  2日目朝食がご飯、味噌汁、焼鮭、卵焼き、納豆。

  昼食がサンドイッチと牛乳。

  夕食が立食パーティ形式で、おにぎり、鶏唐揚げ、フライドポテト、サラダ。

  3日目朝食がサンドイッチと牛乳だ。


 それぞれに材料も1人あたりの量も書いてある。

 更に別添で調理方法まで簡単ではあるが記載されていた。

 これは誰が作ったのだろう。

 清水谷教官は料理が出来ないと前に言っていたから違うな。

 茜先輩か知佳すざきさんか、しおつさんあたりかも。


「このメニューで作る予定です。調理当番については料理の得意不得意があると思います。ですから自己申告を元にこちらで機械的に組み合わせる予定です。ですのでメニューと作り方を読んだ上でアンケートに回答願います」

 

 アンケート様式を見てみる。

 メニューそれぞれに、

  1 ほぼ作れる自信がある

  2 多分作れるとは思う

  3 自信が無い

と3段階評価がついていて、そこにチェックを入れる方式だ。

 俺自身は両親が働いていたからある程度何でも作れる自信はある。

 この中のメニューは一通り作ったことがあるな。

 作り方を見ても生徒が作る事を考慮して簡単にできるようにしてあるようだ。

 でもまあ、ちょっと遠慮をして、全部2にチェックしておく。


「お兄は全部1でしょ、本当は」

 春香からの指摘は無視だ。

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