第39話 このままがいい。問題無い
「それで向こうの遙香はやっぱり交通事故で死んだの? 4年の時の」
「ああ」
そう何気なく答えて気づく。
今俺が答えてしまった事とその意味に。
「何で気づいた?」
「向こうの世界に遙香がいるのなら、その記憶が私にもある筈よね。だからその気になって記憶をたぐってみたの。そうしたら確かに向こうの遙香の記憶は見つかった。大分昔、小学4年までの記憶だけれどね。でもあの交通事故で車が迫ってきた後の記憶はどうしても思い出せない。つまり向こうの遙香はあの交通事故で死んだ。そう考えると全部理解出来るの」
秩父に行った時、その辺に気づいたんだろう。
失敗したとも思うが、気づかれても仕方ないとも思う。
その辺の事は俺自身どう感じているのかよくわからない。
考えないようにしているのかもしれない。
麻痺しているのかもしれない。
でも心の何処かが痛む気がする。
気のせいかもしれないけれど。
「ところで遙香がいない向こうではお兄に別の恋人か仲のいい女友達とかいるのかな。こっちでは女の子とばかりつるんでいるように見えるけれど」
いきなり話題が変わる。
でも女の子とつるんでいるか。
確かにそうだなと自分でも思う。
勿論理由はあるけれど。
「茜先輩と緑先輩はこの学校に来る前からの知り合いで相談相手ってところだ。前に緑先輩の部屋で話したよな。前の学校でここに入る為、魔法研究会を作って3人で勉強していたって。そんな訳で話をするようになった。この学校や世界が変わりつつある事を話せる相手が他にいなかったというのもあるし」
「なら彩先輩は?」
ぎくっ。
『彩、孝昭の事が好きなのよ』
「魔力が近いし同じクラスだし席が近いというのがあるのかな。だからどうしても組む機会が多くなる。研究会も同じだし。それだけかな」
実際それだけなのだ。
「彩先輩はかなりお兄の事を気にしているように見えるけれどな」
ぎくぎくっ。
女子の方がそういった事に鋭いのだろうか。
「そうか。特に俺はそう感じないけれど」
とりあえずそう言わせて貰う。
これも
「安心した。本音としてはね。私も向こうの遙香も結構嫉妬深いから。ヤンデレな妹一歩手前くらいにね」
「なかなか強烈な事を言うな」
そんな単語、怖い系のラノベや漫画でしたお目にかからない。
遙香に言われても怖くはないけれど。
「本当だよ。でも本当はまずいんだよね、きっと。私がいない世界で私がお兄を縛っちゃったらお兄が幸せになれないし」
「今は一緒にいるからいいだろ、これで。ただここで遙香と仲良くすると向こうの遙香に怒られてしまいそうだけれど」
これは間違いなく俺の本音だ。
「それは大丈夫。今は向こうの遙香も私だから。私の中にいるから。お兄に記憶が2つあってどっちものお兄であるのと同じで」
「だったら問題無い。俺も遙香が好きだし」
間違いなくこれも俺の本音だ。
「それは嬉しいんだけれどね。それがお兄の本心だともわかっているし」
「ならいいじゃないか、これで」
「ん……でもね」
ピピピピ、ピピピピ……
何か電子音っぽい音が鳴る。
遙香がポケットからスマホを取り出した。
「そろそろ真面目に食べないとまずいかな。9時40分だよ」
おっと。
「思ったより時間過ぎてるな」
そんな訳で2人で朝食を食べることに専念。
遙香が飲みきれなかったイチゴ牛乳パックの残りは俺が飲み、口の中があまくてベタベタするなと思いつつ片付けて立ち上がり、学校へ。
◇◇◇
「今日集まって貰ったのは連絡の通り、合宿のお知らせです」
会長を務める6年生の
なお室内を見ると茜先輩もいるし、
研究会の全員が来ているようだ。
勿論顧問の清水谷先生も来ている。
「授業は修理のため今週日曜日までお休みとなっています。なおかつ今は試験が終わって比較的何もない時期です。そこで急な話ですがこの期間を使って当研究会の合宿を行いたいという提案が出されました。
提案内容は今朝皆様に学内SNSでお送りした通りです。なおつい先程詳細資料を送りましたので、参考にしていただければと思います」
本当に急な話だなと俺は思う。
よくここまでまとめたなと感心するくらいだ。
どうせ
「資料にある通り、場所は新潟県の海水浴場近くです。なお宿泊先はお寺です。普段は居住者のいないお寺で、管理している住職さんと檀家総代の方に連絡してお借りする事が出来ました。本堂の他に檀家さんが集会所として使う、ふすまで仕切られた6畳間4部屋、キッチン、風呂等があり、主にそちらを使って下さいとの事です。
場所は海水浴場まで歩いて5分程度で広い庭もあるそうです。ただし食事は自炊となりますので、食材は購入して持っていく予定となっています。また帰る前に掃除をお願いしますとの事です。
その食費を含め、また学校からの補助を引いて、費用はおおよそ5千円と計算しています。なお行き帰りはマイクロバスとなります。
詳しくはつい先程SNSで送りました詳細資料にあるとおりです」
うーむ、お寺か。
どういう伝手で借りる事ができたのだろう。
誰か知り合いがいたのだろうか。
あと魔法使いの集団がお寺に泊まっていいのだろうか。
その辺仏教的にはどうなのだろうか。
なかなか微妙な気もするが面白そうではある。
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